令和元年度第3回・4回研修報告
2019年10月17日 16時06分令和元年度研修報告(第3・4回) :
講演「英国の大学図書館における著作物の教育利用と支援」
「神奈川工科大学附属図書館」見学
実施日 | 令和元年 9月5日(木) 13時半~16時 |
会 場 | 神奈川工科大学附属図書館 |
講 師 | 海浦 浩子氏(横浜市立大学学術情報センター) |
参加者 | 22名 |
1.概要
第3回・4回職員研修会は、神奈川工科大学で行われた。第3回は講演「英国の大学図書館における著作物の教育利用と支援」、第4回は神奈川工科大学附属図書館の見学会を行った。
2.第3回「英国の大学図書館における著作物の教育利用と支援」
はじめに、平成31年度の著作権法改正について説明がされた。この改正は、ICTを活用した授業における著作物の利用を促進することを目的としており、従来までは著作物を利用する度に権利者に許諾確認を行い使用料を支払う必要があったものが、改正後はワンストップの窓口に一定の補償金を支払うことで個別に許諾確認を行うことなく著作物を利用できるようになる。現時点では、開始時期や、補償金額等は決定していないが、「SARTRAS((一社)授業目的公衆送信補償金等管理協会)」が窓口を担う予定であるという。海浦氏からは、大学等の教育機関は制度改正に備える必要があるとし、今後の手続きのイメージとして、すでにライセンス料金支払いによる著作物利用を行っている英国の事例が紹介された。
英国の著作権管理団体は、著作権者、出版社団体から複製に関するライセンスを受けているCopyright LicensingAgency(CLA)であり、著作物の利用者より徴収したライセンス料から管理手数料を差し引いた料金を権利者団体に分配している。著作物の利用に関する手続きはCLAを通して行い、交渉は英国の9割以上の大学が加入するThe Higher Education Copyright Negotiating and AdvisoryCommittee(CNAC)が行っている。このように、英国では著作権管理団体と交渉団体がそれぞれまとまっており、著作物の利用に関する窓口が一本化されているため、手続きをスムーズに行うことができている(日本では著作権管理団体、交渉団体ともに数が多く、窓口が複数あることが手続きを煩雑にしている)。さらに英国では、利用可能な著作物、利用範囲、利用方法等を定めた「ブランケットライセンス(包括的な契約)」というものがあり、国内の出版物の約9割を利用することが可能である(ブランケットライセンスの内容は3年ごとに見直しを行っている)。著作物を教育利用する場合、まずは目当ての著作物がブランケットライセンスに含まれているかを確認し、含まれている場合は定められた方法で使用することができる。
続いて、大学図書館の取り組み事例としてミドルセックス大学、ブルネル大学の2校が紹介され、著作物の教育利用に関して大学図書館が以下の役割を担っていることが説明された。
① 教育目的で利用する著作物の管理
英国の多くの大学では、図書館が著作物の管理者を務めている(一部、IT管理部門が担うこともあり)。具体的には、教育目的で使用される著作物の把握、ブランケットライセンスに含まれない著作物の利用手続き等も行う。多くの場合、ライセンス費用は図書館が負担している。
② 講義等で使用する著作物の提供
自館で所蔵している著作物をPDF化、もしくは所蔵していない著作物をCLAが管理するDigital Content Storeから取得し、共用サーバーを通して提供している。
③ 著作権に関する啓発活動
著作物の利用申請はネットワーク上の専用フォームで行うが、教育目的で著作物を利用する教員に対して、著作物利用時の申請を徹底するよう呼びかけている。
英国の事例と比較し、日本では著作権に対する意識が大学ごとに異なること、また著作権の管理者が曖昧であることから、利用者への啓発活動が進んでいないことが課題であることにふれ、「今後、日本の大学で誰が著作物の教育利用をサポートすべきか?」という課題に対しては、著作権の動向に明るく、教育に利用する著作物の多くを所蔵し、他機関との連携も取りやすい図書館がサポートを担うべきではないかという問いかけがなされた。
3.第4回「神奈川工科大学附属図書館見学」
神奈川工科大学附属図書館は、図書館サービスに人工知能(AI)ロボット「Kibiro」を使用した先進的な取り組みで注目されている。見学会では、初めにKibiroの基本的な機能、図書館での運用方法について紹介された。Kibiroはコミュニケーション機能に特化したロボットであり、入力したテキストデータをもとに発話する機能を持っている。テキスト入力した内容を繰り返し発話することから、ガイダンスや展示会の説明等のイベント業務に使用することができる。また、イベント以外で使用する際には、よくある質問と回答を設定しておくことでクイックレファレンスの対応が可能である。見学会では、Kibiroが館内に設置されている様子を見学し、開発元である(株)FRONTEOの担当者との質疑応答の時間が設けられた。その他、アクティブラーニングスペースではグループ学習用の最新機器の紹介に加え、年間を通して学生の利用が殺到することから、アクティブラーニングスペースの利用権をイベントの参加特典にしていることなど、興味深い話を聞くことができた。
4.感想
講演会では、著作権法の最近の動向について理解を深めることができたことに加え、英国の事例を知ることにより、今後の日本における著作物の教育利用に関する手続きの変化をイメージすることができた。大学関係者にとっては事前に準備を進める必要があることを認識する機会になったことはもちろん、公共図書館に所属する参加者からも興味深い内容であったとの感想が多数寄せられた。見学会では、AIロボット「Kibiro」が案内役として稼働している様子を見ることができ、今後の図書館サービスの新たな可能性を感じるきっかけになったのではないかと思う。
5.当日配付資料(会員限定)
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