講義要旨
はじめに、今回の研修が、認知症とどのようにかかわっていくのか、それぞれの場所で考えていくきっかけになれば、とのお話があった。
前半は、認知症とはどのようなものか、そして現在どのような状況にあるのかを説明していただいた。日本では、65歳以上の4人に1人が認知症といわれている。国は2025年を目途に、地域包括ケアシステムの構築を実現していくとしているが、包括ケアを推進するためには、その計画の中に図書館も含めるべきではないか。図書館が正しい認知症の理解を発信することが重要である、と述べられた。
認知症のとらえ方は、従来の記憶障害から、社会的認知の障害(他者の思考や雰囲気を読む能力=社会脳の低下)へとシフトしている。映像を見ながら、具体的な特徴や症状、対応についての説明があった。認知症の人を理解するためには、その一人ひとりの人生史(ナラティブ)を紐解くことが必要であることを、実際の事例を挙げてお話しいただいた。
後半は、二人一組でのコミュニケーションの演習が行われた。おにぎり、ブドウのように、お互いに知っているものの説明は容易だが、幾何学模様のような頭の中にないものを説明してイメージを共有することは難しい。「この人の意図することを、私は本当に理解しているのだろうか?」と図書館業務の中でも考えてほしい。そして、繰り返し意識していくことで対応のスキルは上げることができる、と述べられた。
また、認知症の人の心の痛みについて考える演習も紹介された。もし自分だったらどんな感じがするのか、周りにどうしてほしいのか。グループで演習を行うことによって、自分の考えだけではなく他の人の気づきも知り、共感的理解を深めることができる。たとえひと言声をかけるだけでも違ってくる、ということをお話しいただいた。
最後に、実際に行われている事例についてのお話があった。イベントなどの取り組みのうち、成功といえるものは2割くらいとのこと。実例として、認知症の人にしゃもじを磨く作業をしてもらったところ、認知症の状態はそんなに変わらないものの、周りの人との関係が変わることで家族の介護負担の軽減につながった。認知症でも住みやすいまちづくりは、簡単ではないが可能性はある、ということを示された。
図書館を切り口にした取り組みとしては、空き店舗にまちかど図書館をつくった事例などを挙げられた。図書館は落ち着く場所であり、知的好奇心を掻き立てることができる。デイサービスに行きたくない人も、図書館には行く。社会とつながる、役に立っている、と思えることからくる楽しい気持ちや好奇心を持つこと。図書館でそのための仕掛けをつくることができるのでは、と示唆された。
困っている人へ私たちができることは何か。例えば、熊野古道などの「道」は、歩くだけで人を癒すことができる。その時の気分で、好きに歩いたり佇んだりでき、いつでもそこにある。このような支援の仕方が理想である、と結ばれた。
感想等
作業療法士である先生のお話は、認知症の対応だけにとどまらず、レファレンスサービスなどの司書の業務と相通じる部分が多いと感じた。参加者からは「事例をあげて分かりやすかった」「ヒントをいただいた」との声が多く寄せられた。
こうすればいい、とマニュアル化できるものではなく、その人ごとに考え接することが求められる。課題も多いが、まずは自分にできることを考えていきたい。