講演要旨
本研修は、藤沢市図書館3館の実践事例の報告、及び逗子市立図書館と神奈川県立がんセンターとの連携事例の報告、の2部構成となっている。
1.藤沢市
1.1 資料宅配サービス
資料宅配サービスは、福祉施設の入居者を含め、来館が困難な方を対象に2002年から提供されている。特徴は、その資料の配送を地域のボランティアが担っていることである。一人の利用者につき一人のボランティアが担当する。職員が利用希望者を事前に訪問し、ボランティア希望者には事前に面談を行い、地理的要件等のマッチングを行うなど細やかな配慮がなされている。ボランティア活動中の事故に対応した保険も市が用意している。
課題として次の三点が挙げられた。まず、宅配サービスは月二回で曜日も固定されているが、近年のインターネット通信販売の利便性向上の影響もあり、頼んだ資料が即日配達だと利用者に思われやすいことである。次に、貸出する資料の選定は利用者の意向をもとに図書館職員が行っているが、具体的な要望のない場合の資料選定が難しいことである。藤沢市の65才以上の人口は10万人ほどいるが、宅配サービスの利用者は2017年3月31日現在で86人にとどまっており、市民への周知も課題である。南市民図書館では、保健センターや民生委員向けにも広報を行うなど工夫している。
1.2 地域包括支援センターとの連携
辻堂市民図書館では、市内の地域包括支援センターと共同で健康講座の企画を行っている。これまでに、地域包括支援センターの所長の講演や、看護師による病院のかかりかたの講座、福祉施設の選び方講座、介護保険制度や成年後見制度の解説等を実施。地域包括支援センターからは、図書館での協働によって、その認知度向上に効果がでているという声が届いているとのことである。
1.3 他機関の協働による包括的支援体制の一員として
湘南大庭市民図書館では、隣接する市民センターが中心となっている地域包括ケアシステム「湘南大庭ななつ星」の一員となり、構成団体が開催する講座の情報などを交換している。構成団体には、行政、地域包括支援センター、保健医療センター(保健所)に加え、病院図書室、ボランティア団体、各種福祉施設も含まれている。こちらでも、連携先から、図書館で講座の案内等を知ったという声が多数寄せられていると報告があった。
保健医療センターと共同で企画した健康講座は、実践の継続を促すフォローアップ講座や、心の健康のための利用者交流が行われている。
2.逗子市
2.1 がん情報の普及・啓発、神奈川県立がんセンターとの連携
当初は国立がんセンターと研究者による科学研究費助成事業に協力する形で始まった。初年度は講座を実施。その後神奈川県立がんセンターとの連携がはじまり、2015年度は早期検診を呼びかける寸劇、2016年度は寸劇と関連書籍紹介の電子紙芝居を作成・放映した。
2.2 医療情報と図書館
医療機関では忌まれる「死」についての情報も、図書館では物語などの形で提供ができる。医療機関では一般的な医療情報の資料が乏しいので、それらの提供は図書館の強みとなる。病気になり医療機関を受診する前の普及啓発に図書館は強みがあるといえる。
現在では、若年や高齢者といったライフステージに応じた医療情報の提供が求められている。一人暮らしの増加により、認知機能や記憶能力に問題があったときの治療方法の意思決定や、生活上の支援等をあらかじめ考えることも必要になっている。医療の分化・専門化が進み、患者は病状や進行度合いによって病院を使い分けることも必要となっている。今後はこうした医療を取り巻く状況の変化に応じた支援が求められる。
感想
どの図書館も、棚の小見出しや他機関での講座のチラシの収集等できることから実践しており、参加者からも「自館で実践したい」「情報提供だけでない具体的な取り組みが参考になった」という声が多く寄せられた。
湘南大庭市民図書館での、地域の課題を行政資料から分析した点や、館全体でサービスのあり方を1年かけて丁寧に検討し、共有をはかった点は、医療・健康情報提供に限らず、図書館サービスを飛躍させるために必要な過程であると考えられる。辻堂市民図書館での、開館の記念行事を近隣の施設と共催して行う視点も身近な気づきとなった。
最後に、逗子市立図書館で始まった、図書館内をウォーキングコースに見立て、健康維持に役立てる事業に、多くの参加者が関心を高めていた。