講義要旨
○｢出版文化を支える～図書館・書店・出版社～」（対談：内野安彦氏、成瀬雅人氏）
昨年度の第１７回図書館総合展フォーラム「この一冊を、必要な読者に届けたい～地域の出版文化を支えていくには～」では、図書館・書店・出版社の現状と課題を把握することができた。今年度は、出版文化を支えるために何ができるか、図書館の新たな可能性を提言する会とし、元塩尻市立図書館長の内野氏と、原書房社長の成瀬氏に対談をお願いした。
まず内野氏から、図書館の課題として「認知度が低い」という点が挙がった。図書館を知らない市民が多いということは、議会で重要視されないということであり、ひいては予算減額に繋がる。予算が少なく、本が買えない・イベントができない、と嘆く図書館が多いが、認知度向上に努めることが、予算増額の糸口になり得るのではないか。また、認知度が低い理由として、地域に出向かない、名刺を持ち歩かない等、図書館員特有の文化があると指摘。図書館員は地域に出向き、市民がより多くの本に触れられるよう努めるべきでは、と述べた。
その実例として、内野氏が館長を勤めた塩尻市立図書館の開館準備の様子を紹介した。選書をする際、周辺地域の書店・古書店・図書館等を訪問し、書棚を分析。地域に不足している資料を選書するように努めたという。その際、貸出数は考慮せず、多品種の資料を、どうやって市民に届けられるのかを意識した。また、全国的に有名な取組「本の寺子屋」にも触れ、地域の書店と図書館の協力が重要であると述べた。
選書について成瀬氏は、「地方の書店には専門書が配本されない。図書館がキーステーションとなって、市民に本が行き届くようにしてほしい」と、出版社からの希望を述べた。内野氏も、「近年の図書館の書棚は、書店に似てきている。市民アンケートでは、図書館に来ない理由として『読みたい本がない』という声が多い。出版文化を考えた選書をすれば、少部数の本が全国に行き届くと信じている」と述べた。
成瀬氏からは、出版文化を支えるための動きを、図書館が積極的に行っていない面について「何故なのか」という問いかけがあった。そして、小予算で実施展開している山梨県の例を示し、様々な工夫で取り組んでほしいという要望が語られた。
最後に内野氏から、「今までと同じことをしていては予算がつかない。出版文化を守る最大の力は市民の力。市民に支えてもらえる図書館になるよう、アクションを起こすべきだ」とまとめ、その具体例として、１月に行われる「出版文化を支えるイベント『金原瑞人 本のワクワク』」が紹介された。
アンケートでは、「出版文化を守るべき意義を具体的に知ることができた」「図書館だからこそ出来ることをよりつきつめ、実践を図りたい」等、多くの声が寄せられた。
感想等
出版文化を支えるために図書館がどうするべきか、全国の事例を交えて具体的に知ることができた。また、現在の図書館が抱える課題も認識できた。解決には時間がかかるかもしれないが、今回のフォーラムの内容を胸に刻み、自分にできることを考えていきたい。