講義要旨
はじめに、今回の講演会開催の趣旨について、簡単な説明を行った。
図書館の基礎となる資料を支える出版文化のために、図書館単独ではなく、本に携わる者が協働して取り組む実践例として、今回の講演会は開催された。出版社の協力で翻訳家を講師として招き、地元の書店が講師著作を販売し、サイン会を実施。参加者も一般の方を含む拡大した研修会となった。また、宮前図書館の所蔵資料や、講演会で紹介される資料(県立図書館所蔵の貴重書)の展示、図書館と書店の連携事例の紹介も併せて行われた。
金原先生の講演は、昨年の野菜の高騰の話からアイルランドのジャガイモ飢饉へ、さらには中南米原産のジャガイモ・トマト・トウガラシが、どのようにして多くの国で食べられるようになっていったのかという、食文化の話から始まった。
そして、ジャガイモ飢饉(1845~1849)からの流れで、1849年といえば49ers、その時カリフォルニアではジョン万次郎も金を採掘していたという話にうつり、『英米対話捷径』『英和通弁手引草』『和英語林集成』を紹介。さらに、文字の縦書き・横書きについての話へとつながっていった。アラビア文字やヘブライ文字、蒙古文字などの画像を見ながら、扁額に書かれているような右から左への横書きに見えるものが、実は1行1文字の縦書きであること、現在は左から右への横書きが大半を占め、教科書も国語以外は横書きになっているが、小説は縦書きが基本であることなど、日頃あまり気にすることはないが、言われてみればなぜなのか改めて考えさせられるようなお話を、ただ聞くだけではなく、挙手をするというやり取りを交えながら進められた。
また、電子書籍の話にも触れ、いずれは紙の本にする価値があるものかどうかを問われる時代が来るだろうと述べられた。
そして、本を読むことは、「本」と「自分」という異文化の衝突であり、そのぶつかり方は読者によって違うので予想が付かない。本は読み手がいかようにも受け取り方を変えられるものだが、中にはそれを許さない作品もあり、それが格闘となる。異文化度が高いと格闘も激しくなり、そこが魅力でもある。異文化を越えたところに感動があるので、若い(と思っている)うちに、ぜひ海外文学に挑戦してほしい、と話を結ばれた。
感想等
先生が初めに宣言されたとおりに、前半は「本のワクワク」という講演会のタイトルに直接は結びつかなく思える話だったが、図書館関係者だけではなく一般の参加者も多かった今回の講演会では、知らないうちに話に引き込まれ、最後には本の話へとつながる巧みな流れだと感じた。参加者からも「大変興味深いお話で、刺激を受けた」「最終的に一つの主題に帰結するお話だったのがすごいと思った」などの感想が多く寄せられた。先生の博覧強記ぶりに驚かされつつ、話がどこへ向かうのか予測できないワクワクを感じた、あっという間の1時間半だった。