○報告
フォーラムは2部構成とし、1部は自修館中等教育学校図書館の事例発表、2部は作家の二宮敦人氏の講演「人間になるために書く」が行われた。
○第1部事例発表(概要)
「学校図書館からわくわくを発信!~自修館の文化委員会によるオンラインイベントの実践報告~」
自修館中等教育学校図書館 com+com(コムコム)
学校図書館 com+com(コムコム)で活動する文化委員会は、やってみたいことができる場で、学年を超えて楽しいオンラインイベントを実施している。自由に、無理なく活動することを心がけており、図書館運営とリンクしていることから必要なサポートが受けられる。
オンラインイベント「com+comフェス」は、コロナで委員会活動が制限を受ける中、自分たちがワクワクしていることを発信したいという思いから始まった。対象は自修館に興味のある小学生である。
イベントで発信を行った委員から、テーマと所感の発表があった。「カカオ豆からチョコ作り!」、「御朱印と世界征服」など様々なテーマで、興味のあることを調べて発信をしたとのこと。所感では、“自分の知らなかった世界を友だちと共有でき、達成感あるものとなった”、“興味のあることを知ってもらう事は楽しい”、“文化の発信をしていきたい”という声や、“自分のコミュニケーション能力の低さを感じた”という声もあがっていた。
次に、「com+comフェス」で行われるブックトークの実演が行われた。「本の迷子さん、これが面白い本ですよ」と題し、『かがみの孤城』、『ハリー・ポッターと賢者の石』、『ムゲンのi』が3名の委員によって紹介された。
最後に委員全体へのインタビューが行われた。「オンラインイベントをやってどうだったか」という質問には、「よかった」と答えた生徒がほとんどであった。「コロナ収束後もオンラインイベントを続けたいか」という質問に対しては、「気軽に参加出来て雰囲気を味わえるので続けたい」という意見がある一方で、対面形式で人の顔を見ながらイベントを行いたいという意見が出ていた。
com+comは、本からの情報を得るだけでなく、生徒が情報を発信できる場所であり、外部との関わりが出来て活動の幅が広がったとのことであった。
〇第2部講演(概要)
「人間になるために書く」
二宮 敦人 氏 (作家)
『最後の秘境 東京藝大』などのノンフィクションや、小説『最後の医者は桜を見上げて君を想う』で知られる二宮氏にご講演いただいた。講演後には、チャットを利用しながら参加者との質疑応答が行われた。
本を書く時にたどるプロセスは、「1 書きたいことを見つける」、「2 どんな風に
書くか決める」、「3 実際に書き進めていく」という段階を踏む。
「1 書きたいことを見つける」は、喜び、怒り、暑さなど、単純な思いがコアとなる。生まれた子を抱っこして幸せを感じた時、「なぜ自分は幸せなんだろう?」と考える。その結果、「危険(出産のリスク、コロナ禍での転院の不安など)」+「無事に生まれたこと」が、「会えてよかった」という幸せにつながっていると分かった。輪郭がはっきりすると書きたいことが見つかった状態になり、誰かに伝えたくなる。
「2 どんな風に書くか決める」では、登場人物は何人必要か、時間・空間の広がりはどのくらいか検討する。書きたいことの境目がどこにあるのか、1の書きたいことを考察することで見えてくる。
「3 実際に書き進めていく」プロセスで困るのは、どう文字で表現するべきか分からない時である。納得できないこと(嘘)は書けない。生まれた子を表現するのに、「赤ちゃん」という表現がしっくりこないので、「ある日うちにやってきた小さな生命体」と表現する。このように名前を付けて明文化することで、納得できるようになる。
小さい頃から心配性で変わっていた。納得いかないものをはっきりとさせないと、怖いものや、よく分からないものが増えていき、世の全てがモヤモヤになって精神の死を迎えてしまう。これを処理して書くことで自分を保っており、書かないと人間になれないという、いわく分かちがたい行為である。
変わっていることがコンプレックスで、「ふつうの人」になりたいと思ったり、生きづらさを感じていた。しかし、『世にも美しき数学者たちの日常』の取材を通して考えが変わった。欠点だと思っていることが欠点ではなく、すべてが美点であり、全員優れていると思うようになった。「ふつうの人」がいっぱいいるのではなく、「色んな人」がいて、「色んな持ち場」があるからこそ、世の中は回る。「ふつうの人」になれなくて辛いと思っている人に、自分が思うほど悪い素質でないと伝えたい。
〇感想等
今年度はオンラインでの配信となったが、神図協研修参加者のほかに、66名の一般参加をいただいた。
終了後のアンケートには、自修館の事例発表について、「わくわく感が伝わりました」、「本を読む・借りるだけでなく、文化拠点としての新しい図書館の在り方が広まっていることを実感しました」、などの感想があがっていた。
二宮氏の講演についても、「どのようにストーリーを考えるか、わかりやすいお話に共感が持てました」、「お人柄の出た講演でした」、「生きづらいと感じることは皆が何かしらの形で経験することなので、今回のお話を多くの人に知ってほしいと感じました」、などの感想が寄せられた。共感を呼ぶあたたかなメッセージと、参加者からの質問に対して丁寧に答えて下さる姿が印象的であった。