1. 概要
鶴見大学名誉教授 長塚 隆氏を講師にお迎えし、英国や米国、カナダの大学図書館がパンデミックの中であっても来館者増を図り、大学の研究・教育活動のあり方を変更しようとしている事例を紹介しながら、わが国における大学図書館の今後の可能性について、講演をいただきました。
2. 講演内容
○概観
新型コロナウィルスが感染拡大する中、大学図書館や公共図書館では感染拡大で長期休館やリモートサービスを展開する等大きな影響を受けた。そのような経験を踏まえ、わが国での図書館の将来の方向性を考えてみたい。
○日本の大学教育と図書館
最新の調査では、コロナ禍においても大学の在学者数は過去最多となり、「経済財政運営と改革の基本方針2022(通称:骨太の方針)」により、現在35%の自然科学(理系)分野の学生をOECD諸国で最も高い水準である5割程度を目指すという方針が示されている。中央教育審議会では、2040年を目標にグランドデザインを設定し、今後の人材育成の指針を示した。これら示された方針は、今後の図書館運営において、どのように支援していくか検討する必要がある。2022年9月には大学設置基準が改訂され、今後の大学図書館はデジタルへの対応が問われており、配置する人材もデジタルに強い専門的職員を配置する必要がある。
○米国の大学図書館
米国は直近2年間で200万人程学生数が減少し、日本とは大きく環境が異なっている。そのような中、大学としての戦略的優先事項を確認し、その上で大学図書館の今後のあり方を検討している。特に、STEM(科学・技術・工学・数学)の分野を重要視し、図書館では研究データの管理や研究補助金の申請サポート等といった研究室連携の取組みやデジタルへの対応が必要とされており、米国の様々な組織が「新しい図書館」をどう考えるか提起している。
○英国の大学図書館
英国は、日本と傾向が類似しており、コロナ禍において学生数は増加している反面、大学への公的な財政支援は減少している。また、キャンパス再構成により、学生が利用できるスペースが減少している中で、大学図書館では図書館内のスペースの変更や導線を変更することにより、図書館利用者が増加し、対面による質の高い交流ができる場として図書館が重要な場であることが再認識された。
○将来への大学図書館への期待
米国や英国の大学図書館と日本の大学図書館を比較し、日本の大学図書館は、STEM(科学・技術・工学・数学)に対する対応やデスクトップPCからタブレットやスマートフォンに変化した学生へのサポート等が今後の課題として挙げられる。
○公共図書館とリモートサービス
公共図書館のサービスは、1970年代からリモートでのサービスを提供しようと努力した歴史である。目録サービスから始まり、電子書籍等が普及し、コロナ禍になるとさらにサービスが拡大された。サービスの拡大により、新しいサービスが生まれ、米国では、オンラインでイベントを積極的に実施している。その他の国においてもリモートサービスを充実させている。一方、コロナの感染が抑制されたことにより、館内イベントに戻している図書館もある。コロナ禍を経て公共図書館に期待されるものは、リモートサービスの継続と多様なイベントを実施し、新たな利用者を開拓することである。
○まとめ
日本の大学図書館や公共図書館は、大きな分岐点に来ている。今後は、リモートサービスの提供を開拓・継続することと、図書館のスペースの利用変革を考え、デジタルの対応も強化していく必要がある。
3. 感想等
日本の大学図書館を取り巻く状況や公共図書館でのサービスについて、米国や英国の図書館の現状と課題を織り交ぜながら説明いただき、大変参考になる講演でした。
日本の現状のみを捉え、図書館の今後について検討されることが多い中で、米国や英国の図書館の状況や運営方法を中心に、コロナ禍においてどのように対応し、そしてどのような未来を検討しているのかを知ることができたことは、日本の大学図書館や公共図書館の今後を考える上で、とても大きな学びになりました。
特にデジタル化が進む中で、デジタルに強い専門職員が必要なこと、リモートサービスと図書館内のスペースの有効活用の検討が重要であることは、図書館業務を担っている者として、今後しっかりと検討していかなくてはいけない課題だと強く感じました。
大学図書館の話題が中心ではありましたが、公共図書館についても触れ、参加者にとって学ぶことが多い研修会となりました。