1 研修概要
2021年4月に開設した神奈川大学みなとみらいキャンパス図書館の設立経緯やコンセプト、スマホアプリを利用した貸出等の説明を受け、その後、キャンパスツアーとして図書館見学とみなとみらいキャンパス内の案内をしていただいた。
2 説明概要
「神奈川大学みなとみらい図書館のコンセプトとスマートフォンアプリ導入の経緯」
(1)神奈川大学・神奈川大学図書館の概要
神奈川大学は1928年に創立し、11学部、8研究科、10研究機関で構成され、2023年度より横浜(白楽)とみなとみらいの2キャンパス体制となった。図書館は1945年に設置され、蔵書数は図書館全体で約150万点あり、「神奈川大学収書方針」により、地元神奈川・横浜の資料をコレクションとして収集。受入はすべて中央館である横浜図書館で集中管理している。
(2)みなとみらいキャンパスについて
外国語学部・国際日本学部・経営学部が移転したことにより、みなとみらい地区では初めての総合大学として、グローバル系学部が集結された。人と知の交流拠点「ソーシャルコモンズ」を設置し、地域社会との連携を図っており、約5,000名が学ぶビル型キャンパス(21階建)となっている。
(3)図書館に求められた要件
地域社会との連携のための一般公開の実施や、敷地の限られたキャンパスにおける学生の主要な滞在場所の一つとしての十分な座席数と様々な学修設備、紙資料を多用するグローバル学部の集結による洋書も含めた十分な蔵書とスペース、新キャンパスならではの強みとなる新たな取組が求められたとのこと。
(4)みなとみらい図書館のコンセプト
図書館だけでなくキャンパス全体での一体感のある設計、開架電動集密書架の導入や高書架の設置による収蔵力の増加、全館図書館化(キャンパス各所に書架を設置し、場所にリンクした資料の配架)、貸出スマホアプリの導入(キャンパス内のどこからも貸出可能)、リエゾンライブライアンによる相談業務の強化等がコンセプトとして挙げられている。
(5)貸出スマートフォンアプリ導入の経緯
全館図書館化でも、図書館に行かなければ貸出できない不便さによる貸出意欲の低下の恐れや、各フロアへの自動貸出機設置はコスト増になってしまう等の問題点を解消するため、低コストで利便性の高い貸出システムを検討したところ、海外のスマホアプリ貸出システムを確認できた。自動貸出機の複数台設置よりも低コストで、図書館外の資料は閉館時も貸出可能、日本初のサービスという新キャンパスとしてのアピールポイントがあり、アプリの開発を進めることとなった。
(6)サービスの概要・利用条件・セキュリティの考え方
OPAC機能を持つアプリの追加機能として開発し、資料に添付された管理用バーコードをカメラで読み取ることで、貸出規則を反映させた貸出処理を実施している。利用には、アプリ上で学内アカウントへログインし、学内Wi-Fiへ接続すること、みなとみらいキャンパスの資料限定で、現物のバーコードをカメラ読込すること等が必要となっている。図書館外にも資料が配架されているため、セキュリティゲートをキャンパス出入り口に設置し、警備部門とゲート鳴動時の対応を共有、キャンパス全体で対応している。
(7)導入効果・今後に向けて
新たなハードの購入ではなく、システム構築で対応することで、多くの学生が所有するスマホをツールとして最大限に活用できた。貸出の機械化によるカウンター業務の削減は、余剰でのリエゾンライブラリアン設置に繋がった。今後は図書館全体におけるサービスの浸透や、図書館外配架資料の充実、安定的かつ安全な稼働にむけセキュリティ面にも配慮していくとのこと。
3 図書館及びキャンパス見学
みなとみらい図書館は、現時点での蔵書数:図書館内約14万冊・図書館外約2万冊、図書館内座席数:約250席、スタッフ人数:職員2名・業務委託スタッフ15名学生スタッフ6名となっている。キャンパス全体が図書館(全館図書館化)となっており、図書館(2F・3F)以外のフロアにも広く資料を配架することで、どこからでも必要な情報にアクセスできる環境となっている。今回は2班に分かれ、図書館・トップラウンジ・プレゼンフィールド・テラス・ラーニングコモンズ等、通常の見学会では入ることのできないフロアも見学することができた。特に図書館では、学生の意見を取り入れた荷物置きや、リフレッシュエリアのナレッジコア等、利用者に寄り添った設計や工夫がされていた。
4 質疑応答(抜粋)
Q1:ICタグに反応しない金属コーティング図書の対策などがあれば知りたい
A1:何もしていない。貸出アプリで読み込むと、カウンターに来てくださいとコメントが出るようにしている。
Q2:館内/館外の席の利用、繁閑などがあれば教えてほしい
A2:試験期間はどの席も盛況。もともと、キャンパス規模に対して学生数は多い。貸出冊数はコロナ以前には戻っていない。
Q3:みなとみらいキャンパスの図書館のコンセプトは図書館からの発案だったのか、それとも大学主導だったのか
A3:図書館から提言した。ラーニングコモンズをたくさん置くことは初期段階から構想があったが、本をあちこちに置くというプランは当時の館長が教員だったこともあり実現した。
5 研修会終了後、図書館内自由見学
6 感想
図書館のコンセプトや説明を受けた上で、キャンパス内の案内をしていただいたので、より興味深く見学することができました。全館図書館化や、自動貸出機と貸出スマホアプリの併用など、様々な制限のある中での先進的な取組は、大学図書館だけでなく、公共図書館でも参考になる部分が多くあると感じました。アンケートでは「学生のことを第一に考えて図書館が作られていると感じた」「図書館がどこを目指していくべきか、どんなことを考えながら業務にとり取めばよいのかを、考えるヒントとなった」との感想が寄せられ、参加者にも大変好評のようでした。今回の研修会で得た気づきを、今後の図書館業務に活かせるよう努めていきたいです。
