協会報(~239号)

図書館勤務30年を振り返って 

2012年3月19日 11時12分 [管理者]

図書館勤務30年を振り返って 

 東海大学付属図書館 伊藤 玲子


 東海大学の湘南校舎は、平塚市の西方秦野市と隣接し、大山や丹沢の山並みや富士山の雄大な姿が見える所に位置します。構内には欅の並木や平塚市の木「楠木」の大木、メタセコイヤの並木もあり、ちょっとした「冬ソナ」気分も味わえます。春の梅や桜・新緑・ツツジ・紅葉・椿と四季の花や変化も楽しめます。欅の並木の下は木陰ができ、初夏には木々を渡る風が心地よく感じられます。そんな自然豊かな環境に囲まれ、就職して30年の歳月が経ちました。
 「図書館の思い出を」といわれ、この歳月を振り返ってみることにいたします。
 一番変わった事は、やはり機械化された事でしょう。就職した頃の図書館は、受付カウンターの近くに、書名順・著者名順といった本の情報を満載したカードケースが並んでいました。
整理係の部屋からは和文タイプや欧文タイプを打つ音と共にカードを複製する複写機の音が響いていました。修正機能がついた電動の欧文タイプになった時などなんて軽いタッチで便利と思ったものです。今の整理係はタイプする音もせず、キーボードにタッチする音のみで静寂に包まれています。
カードを一定の規則で組み込む為、排列する専門の係もありました。ローマ字を理解していないとカードの組み込みはもちろん、本を探すこともできません。ローマ字の一覧表を手に、新入生が来る都度ローマ字に慣れてもらうことから利用指導が始まりました。
本学には全国に展開する東海大学の付属図書館で所蔵する全ての蔵書目録を一本化した「全学総合目録」というものがあり、機械化する際遡及入力用データとして大いに役立ちました。本学の機械化が始まったのは1987年からで、全蔵書を遡及入力するという目標の下、閲覧業務担当以外の人は遡及入力作業を最優先として、夏休みなどは来る日も来る日も図書にIDシールを貼り、データ記入の作業をしていました。夏が来ると膨大な資料の遡及入力作業と格闘した日々を思い出します。
 所蔵調査も国会図書館の蔵書目録・各大学の冊子体蔵書目録を一冊一冊探し、同じ作業を繰り返していました。調査に手間や時間がかかりましたが、調べる中でこの大学はこんなコレクションを所蔵しているとか、参考図書や二次資料の使い方を覚え、その度に手作りのレファレンスツール作りに励んでいました。資料を知らない怖さを知ったのもその頃です。使った資料は今でも覚えていますので、若い頃覚えたことは忘れないものだと思います。
今では端末に打ち込めば瞬時に所蔵館が分かりますし、カードを繰って探した本も、キーワード等情報が不確かでも探せるようになりました。
図書を発注する際も、出版情報を出版社の冊子目録で調べていましたが、端末で出版情報や入手の可否まで分かるようになりました。
さらに電子ジャーナルの導入やデータベースの導入に伴って、情報収集の速度と範囲は特にこの数年で目を見張るものがあります。30年前のそれとは比べようもないでしょう。
しかし、情報収集の速度が速くなり楽になったとばかりは言い切れません。より多くの情報を求められますし、データベースの導入に比例するかのように、利用者から多種多様の要求が増加しています。一方では少子化問題から起因した大学の財政の悪化により、図書館予算や館員の削減等々厳しい状況にさらされているのが現実です。さらに、図書館員の専門職制を含めた図書館員のあるべき姿が求められています。図書館の変化を体験として経験してきましたが、インターネットの普及で誰でも情報を得易くなった今日、「これからの図書館員のあるべき姿とは」と考えさせられます。 
電算化された情報を駆使して多くの情報の提供を求められるのも図書館員であり、和装本や西洋の古典籍の情報を求められるのもまた図書館員です。和装本や西洋の古典籍を手にする時、いかに情報の電算化が普遍化されたとしても数百年の時を経てなお利用されるこれらの書物を見ると、深い感慨を覚えます。これらの書物は火災などにあわなければ、これからも次代に残っていくことでしょう。この文化財ともいうべき資料を後世に受け継ぎ、そして、図書館員の果たす役割をしっかりと果たさなければと思います。同時に、これまでしっかりと果たせてきたのかと自問自答しています。この歳月を振り返るチャンスを与えていただき、改めてこれまで多くの方々に助けていただき、30年勤めてこられたと感謝しております。
(平成17年度永年勤続職員表彰受賞者30年以上)