令和5年度 全国図書館大会 岩手大会に参加して
堀田 桃香(神奈川県立川崎図書館)
1 研修名
第109回全国図書館大会 岩手大会
2 大会テーマ
理想郷“イーハトーブ”で本当の幸せを考える~希望ある未来は図書館とともに~
3 日程
令和5年11月16日(木)~17日(金)
4 会場
盛岡地域交流センター(マリオス)/いわて県民情報交流センター(アイーナ)
5 概要
11月16日(木)
オープニングアトラクション(岩手県立不来方高等学校音楽部による合唱)
1 開会式
2 第39回日本図書館協会建築賞表彰
受賞した板橋区立中央図書館長、板橋区長、設計者が登壇して図書館協会理事長より表彰
3 基調報告 公益社団法人日本図書館協会理事長 植松 貞夫 氏
4 記念講演「岩手発 ブラックホール行き 銀河鉄道の旅」
講師:本間 希樹 氏(国立天文台 水沢 VLBI 観測所 所長/教授)
11月17日(金)
第1分科会 公共図書館「“つながる図書館“~幸せと希望を実現する公共図書館の試み~」
1 基調講演「図書館のネットワークが、県民の幸せと希望を実現する」
講師:小林 隆志 氏(鳥取県立図書館館長)
自館の事例をもとに、県立図書館と市町村立図書館、行政、民間などとの連携について解説する内容。県立図書館の役割は「地域の図書館力の向上」とし、県内図書館設置率向上のための取組みや病院図書館、大学図書館、学校図書館からのリクエストを県立図書館の選書に反映していることなどを紹介していた。市町村立図書館との連携については、講習やイベントの共催、単独開催の支援を例に挙げて説明していた。
また、公共では揃えられない資料を持つ専門図書館は課題解決サービスの最後の砦であり、普段からつながりを持っておくことが重要であると話していた。
2 事例報告「暮らしに寄りそう図書館~町民とともに」
講師:角田 有希子 氏(南部町立図書館館長)
町の庁舎の1階と複合施設内というユニークなサービスポイントを持つ町立図書館について、それぞれの場所の利点を生かした運営方針、利用状況と県立図書館との連携について報告があった。
県立図書館との連携については、共催の講座が単独開催につながった事例などを紹介。
町立図書館独自の取組みとしては、農業講座をきっかけに繋がりを持った団体の定例会に参加して図書の出前やサービスの紹介をしたことで、潜在的なニーズや非来館者にとっての図書館に対するハードルを知ることができたという話があった。
3 事例報告「東日本大震災でのつながりについて」
講師:平 留美子 氏(洋野町立種市・大野図書館 館長補佐)
講師が勤務する図書館の紹介、東日本大震災当時の県内図書館の被害、東日本大震災をきっかけとした有事の際に対応するための取組みについての報告があった。
岩手県では東日本大震災発生後、平常時や有事の連携についてまとめた「岩手県地区別図書館相互応援体制」を整備。大雨災害の時にも被害状況調査で機能したとのことだった。震災発生時の講師自身の経験についても語られた。
4 事例報告「地域図書館の挑戦」
講師:種田 澪 氏(豊橋市まちなか図書館 館長)
分館として2021年に複合施設内に新設した「まちなか図書館」の様々な取り組みについて報告があった。
NDCにこだわらない棚づくりや、情報を選びやすいようあえて余白を増やした書架など「図書館を普段利用しない」人をターゲットに工夫しているが、これらは図書館として重要な資料保存の機能などは中央館が担ってくれているからできること。一方でアクセスのよくない中央館では利用が見込めない層に働きかけることで、うまく役割分担をしているとのことだった。
年間多くのイベントを開催しているが、「イベント屋」になってしまわないよう企画段階で明確な軸を設けているとの話もあった。
5 パネルディスカッション「つながる図書館を実現するには」
司会 藤岡 宏章 氏(前・岩手県立図書館 館長,嘉悦大学客員教授)
登壇者 小林 隆志 氏/角田 有希子 氏/平 留美子 氏/種田 澪 氏
事例報告をした3名が図書館でつながることのイメージや実現のために必要なこと、難しい点、について意見を発表し、基調講演を担当した小林氏が自身の業務を踏まえてコメントする形でディスカッションが行われた。
6 研修成果
1日目の記念講演では講師が研究者から見た図書館についても言及しており、研究者に「知的成果物の宝庫」と考えてもらえていることは大きな励みとなった。一方で知識を蓄積するだけで利用者がそれらの価値を引き出さなければ意味を失ってしまうとも話していたので、身が引き締まる思いがした。
2日目は終日公共図書館の分科会に参加した。基調講演では県立図書館として県全体の図書館力向上のためにできることや、様々な機関とつながるための考え方について学ぶことができた。3つの図書館の事例報告は、それぞれに特徴があるため直接自館のサービスにつなげることは難しいが、行政との連携、有事の際の連携、目的を明確にした様々な個人との連携など自館に持ち帰って考えたい課題が多く浮かび上がった。
また、任意の懇親会にも参加し、他県の図書館で働く司書と業務内外の話をできたことは実地開催の大会に参加できた大きな収穫だった。
コロナ禍で対面形式の研修の機会を多く逃してきたが、この機会をいただけて自身の視野を広げることができた。今回得た知見を自身の業務に落とし込んで、できることから取り入れていきたい。
盛岡地域交流センター(マリオス)外観
