令和4年度 第1回研修報告「松竹大谷図書館のクラウドファンディング」
2023年2月10日 15時23分
令和4年度第1回研修会報告
実施日 |
令和4年11月18日(金) 14時~16時 |
会 場 |
オンライン(Zoom)開催 |
講 師 |
武藤 祥子(公益財団法人松竹大谷図書館事務局) |
参加者 |
12名 |
1. 概要
2012年から11年連続でクラウドファンディング(以下、「CF」)プロジェクトの目標金額を達成されている公益財団法人 松竹大谷図書館の武藤様を講師にお迎えし、同館のCFの概要・経緯、積極的な情報発信に基づく支援者の広がりと「共感」の醸成、支援金獲得にとどまらない様々な効果などについてお話を伺いました。
○実行のきっかけ
公益財団法人への移行申請の際、それまで毎年赤字が続いていた状況から、移行後も継続的な運営が出来るよう、収益状況の改善について東京都から指摘を受けたことがきっかけとのこと。なるべく財団本位で収益を上げる方法を考える中で、それを知った松竹の広報の担当者にCF という支援金募集方法を教えられ、CFへの取組が始まった。
○プロジェクトの計画
【目標金額】
第1弾は運営費の募集として200万円に設定。以後は、250 万円(第3弾280 万円、第11弾400万円)に設定。
【目標額内訳】
プロジェクトによって異なる。
運営費 150~200 万円、資料の保存・デジタル化費 50~100 万円。
【CFの種類】
購入型を利用。All or Nothingのため、目標金額を達成した場合のみ支援金を受け取ることが出来る。「成立しなかったら大変」という危機意識が芽生えるためか、協力を得やすいと感じている。
○支援金の使途
CF開始当初は運営費(資料や図書館用品の購入)の不足を補っていたが、第2弾以降は、目に見える形で成果を次世代に残していきたいとの思いから、所蔵資料の保存・デジタル化費用として使われているとのこと。さらに、第5 弾以降は、主に電動移動書架の修繕費(基板、モーター交換)に充填している。
○支援金額とリターンの内容
【全ての支援に対して 】サンクスメール・報告書の送信(プロジェクトの報告、財団事業報告)、HP への支援者名掲載(希望者のみ)
【5 千円以上の支援に対して 】 文庫本カバーなど、オリジナルグッズの進呈
【1 万円以上の支援に対して 】 台本カバーへの支援者名記載(希望者のみ)
【3 万円以上の支援に対して 】 オリジナルグッズの進呈など
【5 万円以上の支援に対して 】 松竹大谷図書館見学会への招待
○支援者
【支援者の傾向】
・演劇・映画(特に歌舞伎)ファンや業界関係者が多いようである。図書館の関係者からも多くの支援・協力がある。
・支援者はほぼ個人である。
・常連の利用者にご支援を頂くケースもあるが、割合として多くはない。支援をきっかけに利用者になるケースもあるが、こちらも多くはない。多くの支援者がインターネット上のお付き合いである。
【リピーターの人数割合】
・第5 弾以降は、リピーターが半数以上を占める。
・「CF を機に館の存在を初めて知った」というコメントも毎回ある。
○CFに関わる業務
CFでは情報を発信し続ける事が重要。募集期間中は勿論、成立した後も、しばらくは毎日のように報告のための写真撮影や、文章作成の日々が続く。
【プロジェクトの告知・広報】
・自館HP や松竹 HP でリリース、関係機関や既知の出版社に送付・送信、告知を依頼。
・メールやCFサイトのメッセージ機能で、個別に協力者やこれまでの支援者へ連絡。
・プロジェクトの「新着情報」(お知らせページ)の更新、連動して Facebook への 投稿。
新着情報:プロジェクトのサイトで、最新の情報をブログの様に公開出来るページ。支援募集期間中は週2~3回、プロジェクトが達成するまで平均25回、募集終了後も週1回~月1回程度発信し、次のプロジェクト開始まで平均で70 回ほど発信を行っている。
・チラシ・ポスターのデザイン、印刷、配布依頼、掲示など
【プロジェクトの報告】
・保存・デジタル化業務の作業過程の報告
資料の梱包・配送、簡易補修・デジタル撮影・メタデータ入力など随時作業報告を掲載。補修やデジタル化を依頼する機関や業者の方に執筆を依頼したり、作業を見学させて貰い、外部の人間が目にする機会の無い業務についても詳しく報告を載せる。支援者にも資料の保存やデジタル化に伴う様々な作業について、Web 上で体感してもらえるようにしている。
【仕事へのモチベーション】
・たとえば一つのプロジェクトページを作るのにも、何冊も本を読む必要がある。ずっと学びがあり、知識が広がるおもしろさがある。
・また、資料のデジタル化やアーカイブの公開が可能となるなど、利用者 ・支援者へのサービス向上につながることも大きい。
2. 感想等
当然のことながら、クラウドファンディングにはメリットとデメリットの両面があります。支援金の獲得だけでなく、親団体へのアピールにつながったり、スタッフが誇りをもって仕事に取り組めるようになるなどの嬉しい影響も多いですが、本来業務を抱えながらのプロジェクト進行は負担が大きく、クラウドファンディング成立や、そのための情報発信に対するプレッシャーは計り知れません。支援者の方からお金を頂くことへの責任と隣り合わせです。
それでも、成立した時の達成感や、支援者の方からの応援が励みとなり、武藤様の表情は明るかったのが印象的でした。クラウドファンディングが成立すれば、資料のデジタル化やアーカイブの公開といった成果を利用者 ・支援者へのサービス向上に還元でき、ますます好循環が加速していきます。
目標額を達成するためには、支援者の方に理解を深めていただくことが不可欠であるため、業務内容やビジョンを明確かつ丁寧に伝えることがとても重要になります。情報発信の頻度や、寄せられるメッセージへのレスポンスの速さ、動画などを用いて視覚的に伝えることなどに加え、スタッフが「自分の言葉で語る」ことの影響力など、情報をまっすぐに届けるためのたくさんのヒントを教えていただきました。クラウドファンディングに取り組む予定がない館にとっても非常に有用で、聞きごたえのある講演でした。