講義要旨
本研修では、地域に関するフィルムや写真資料の保存の重要性や可能性について基調講演、またパネルディスカッションを開催した。
1.概要説明
基調講演は、「かながわ あの日あの頃」と題された地域資料デジタル映像を上映した後、各地のニュース映画の映像を見ながら進められた。このニュース映画について、戦後は専門の映画館もあり、一般化していたが、平成初期までのものは記録媒体がフィルムやVHS等アナログのため、劣化が進んでいる。昭和の記録を正しく持っている人が少なくなっている今、「戦後社会は誰が作ったのか」と同様に「どこに保存されているのか」も価値を持つ問いである。今と昔では写真や記録に対する意識が違っており軽視されがちな市民の記録だが、戦後社会の記録は公文書だけでなく市民の記録にあり、政策ニュースはそれをつなぎ、記憶を喚起することができるとのことである。
パネルディスカッションは、春木氏をコーディネーターとして、パネリストに田村氏、吉田氏、白石氏に登壇いただいた。吉田氏からは移住者と地域文化について話され、まず、地方に魅力を感じるだけではなく地方の価値を作る人になることが重要との話があった。その文化を継いでいく役割を担う図書館としてだが、白石氏からは神奈川県立図書館のデジタルアーカイブの制作について苦労されたエピソードや著作権の問題について指摘された。また、田村氏からは、取材を通じ、祭り等地域の文化を子どものうちから教えている熱心なところは、一度都市に出た子どもが戻ってきて、また参加することもあると指摘した。人の流動性が高くなっていく現代において、アーカイブが地域づくりの一環になるのである。
2.感想
アナログの記録媒体の劣化は近年問題とされている事案であるが、なかなか解決は難しいのが現状と思われる。ただ、そんな中でも、参加者から「民間・市民の地域資料としての写真映像が集約された場(公)の部分が無いのだと気づきました。」「後世に現在を伝える大切さをよく理解いたしました。」等の声が寄せられ、地域資料を保存していくことについて、また、その重要性について、改めて考える機会となったようである。公文書の保存だけではなく、市民や地域の記録をどう残していくのかということも、今後の課題となりそうだ。