講義要旨
今回は、スウェーデンの中都市であるハルムスタード出身の図書館員である、日比谷図書文化館のオーレ・ベリー氏をお招きし、スウェーデンの公共図書館の事例等についてお話しいただいた。
はじめに、「何のための図書館?」という問いかけから始まった。参加者から様々な意見が出るなか、オーレ氏が示したのは「図書館=民主主義を支える施設」というものであった。提供コンテンツの多様性を確保するとともに、あらゆる思想統制に対抗し、文化福祉施設として格差を緩和させる機能をもち、交流・討論の場として使用される。それが北欧の図書館観であるという。
また、オーレ氏が来日しての、日本の図書館に対するイメージや北欧の図書館との比較についても言及した。「外国語の本が少なく、和書だけ充実」している(外国語で書かれた本も、英語のものばかり)という点等を指摘した。
日本に比べて、日常で政治や環境、社会問題について会話をすることが多いということもあり、スウェーデンの公共図書館と政治についても触れられた。各種政党の情報や、EUの情報を広く提供しているとのこと。日本では政治について避ける場面もあるが、「政治情勢を提供しない=現状維持」を支持している(静かなる賛成)ということになると仰っていた。(もちろん選書には気を遣うが。)
ハルムスタードの公共図書館でのイベント等の事例についても説明があり、「価値のあるサービス」として行う多様なイベントを、実際に図書館のブログとともに紹介いただいた。
ほか、スウェーデンの図書館法や、各種統計・データについても説明。18の条文からなるスウェーデンの図書館法は、日本のものよりも簡潔で、自由度の高いものであった。そして驚いたのが、難民の受け入れに対して、図書館を多く利用する人の方が、寛容な態度をとるという調査結果だ。多様な文化・情報を発信する図書館を利用することで「民主主義・人権の促進」につながるということを、如実に表すものであった。
今回紹介された、どの図書館サービスにおいても、「少数派の意見もきかなければ、多数派の独裁」「少数派の意見も配慮する」という民主主義的観点が垣間見ることができた。
感想等
過去にあまり海外の事例を扱う研修がなかったこともあり、それぞれが想うところがあったのか、参加者が熱心にうなずきながら話をきく姿が印象的である。「発想や考え方が全く異なる事例について具体的にお話を伺うことができたので、大変有意義でした」「民主主義をキーワードに、日常の仕事を異なった視点で見返すことができた」等の声が寄せられ、日々の業務において新たな視点を得られたようであった。
今回紹介されたことを、各図書館に持ち帰り、良い部分を取り入れ、より楽しい居場所となることを願う。