講義要旨
本研修では、「文字を読むのが苦手な方、例えば子どもから高齢者、障がいのある方、母語が外国の方など、誰にでもわかりやすい図書館利用案内」の作成体験を行った。LL ブック作成ツールを使用するため、まず、「LLブックとは何か」について講義を受け理解した後、パソコンを使用しての実習を行った。
1 講義「LLブックとは何か」 専修大学文学部教授 野口 武悟 氏
LLブックのLLとは、スウェーデン語のLättlästの略で、“やさしくてわかりやすい”という意味である。はじまりはスウェーデンで、青年期以降の知的障害者などのニーズにあった情報をやさしく、わかりやすく提供しようとするものである。
まず、調査結果から、実は知的障害者の7割が公共図書館利用経験があり、図書館で困ったこととして、「読みたい本がどこにあるかわからなかった。」「読みたい本がなかった。」とし、図書館への要求として、「わかりやすい本がほしい。」「文字ばかりの本はわかりにくい。」との声を紹介された。そして、LLブックには高いニーズがあること、また、知的障害者だけでなく、認知症の高齢者や日本語を母語としない人にも活用できるとし、特に外国にルーツがある子どもが増えている学校において利用が高まっており、ぜひ、公共図書館として学校図書館を支援してほしいとLLブックの必要性を語られた。
次に、LLブックについて、レベルにより3つのタイプがあることやLLブックと同様のコンセプトのメディアとしてLL新聞(現在は発行されていない。)、わかりやすく描かれたLLマンガ、ピクトグラム付きの絵本、マルチメディアDAISYを紹介された。
日本では、LLブックの出版・流通がまだ少ないとしながら、LLブックと明示して市販されている作品のリストを紹介され、LLブックという明示はないが、LLブックとして活用できる作品として全日本手をつなぐ会発行の「自立生活ハンドブック」シリーズなどを紹介された。
このようなLLブックを所蔵している図書館は増加傾向にあり、LLブック版の利用案内を制作する図書館もある。近隣では、千葉県立図書館、調布市立図書館、大和市立図書館などである。無償公開されたテンプレート(近畿視覚障害者情報サービス研究協議会LLブック特別研究グループ作成)を使って作成する方法や、この後の実習で使用するLLブックの作成も可能な「ハートフルブック」を使って作成する方法を紹介された。
最後に、図書館で、LLブックを利用しやすいようコーナーや棚を作るなど工夫をしてほしいとし、締めくくられた。
2 講義及び実習「『だれにでもやさしく読める図書館利用案内』とはどのよう
なものなのか」 欧文印刷株式会社 松尾 孝行 氏
今回実習に使用する「ハートフルブック」(https://heartfulbook.jp/)は、野口先生の研究室と印刷会社、コンピュータ会社の産学連携で開発・運営しているものである。参加者一人一人がパソコンで、図書館向け利用案内のテンプレートを使って、作成する実習を行った。
3 質疑応答
Q.「作成する場合のページ数は何ページがよいのか。」
A.「偶数ページがよい。基本は20ページ以内であるが、このソフトでは、 20ページ以上400ページ以内で作成でき、本にすることが可能である。」
感想
参加者には、LLブックについて関心が高まっている中で、よい機会となったようである。「障害者サービスについて研究されている方から、わかりやすく丁寧に教えてもらえてよかった。」「すぐに利用したいウェブサービスを教えていただき、使い方もわかりやすく、よかった。」「利用案内の作成が簡単に取り組めそうで、もっと試してみたくなった。」などの声が寄せられた。今回の研修は、知的障害者の困っていること、求めていることなどが具体的で、図書館が今後どのようにしていけばよいのかがとてもわかり易く、参考になったと思われる。また、実際に利用案内を作成する体験ができた。時間が過ぎるのがあっという間で、「時間が足りなかった。」との声もあったが、今回の研修がきっかけ作りとなり、その一助となれば幸いである。