令和6年度 第1回研修報告 東京大学総合図書館見学会
2024年12月5日 16時27分
実施日 |
令和6年9月26日(木)14時~16時 |
会 場 |
東京大学総合図書館 |
講 師 |
大澤 類里佐 氏 |
参加者 |
19名 |
1 研修概要
東京大学附属図書館と総称される図書館の中で、事務・業務を支える中心的な役割を果たしている総合図書館の見学として、附属図書館・総合図書館の説明と、総合図書館本館と合わせて、別館のライブラリープラザ・自動書庫等を案内していただいた。
■東京大学・附属図書館の概要
東京大学は、学部生数:14000人、院生数:15000人、教職員:8200人で、10学部15研究科に加えて様々な研究施設があり、最大規模の国立大学となっている。
図書館としては、本郷キャンパスに総合図書館、駒場キャンパスに駒場図書館、柏キャンパスに柏図書館、さらには各学部や研究所等の部局図書館・室を合わせて30の図書館があり、これらを総称して「東京大学附属図書館」と呼んでいる。
附属図書館:常勤:195人、非常勤114名、
総合図書館:常勤:39名、非常勤17名
・蔵書数(附属図書館):約1000万冊(国内の大学図書館では最大規模)
・入館者数:125万人
・貸出冊数:約46万冊
新図書館計画「アカデミック・コモンズ」は、2010年9月の新図書館構想検討準備部会発足を始まりとし、10年掛かりで計画を立て、工事が実施された。
① ハイブリッド図書館(伝統と未来が融合した新しい図書館の形を示す)
② 国際化時代の学習・研究を支える図書館(別館地下1階のライブラリープラザで学びと研究をつなぐ)
③ アジア研究図書館(本館4階に世界水準のアジア研究拠点を)
④ 社会にひらく図書館(多様な人や「知」の集まる場所へ)
⑤ 出版文化を支える図書館(別館地下には巨大な自動書庫)
の5つを柱とし、新しい組織も作られた。
学生のために図書館を閉めることができないことから、いながら工事となり、4期(2期、3-1・2・3期、4期)で順次工事が進み、別館が2017年5月に開館、2020年10月1日にアジア研究図書館が開館、11月26日には総合図書館とアジア研究図書館の記念式典等が開催された。
2020年10月に総合図書館グランドオープンに先駆けて開館した図書館で、東京大学の各学部に蓄積されていたアジア関係の資料を集約・再構築し、国内外のアジア研究者たちと世界最高水準のアジア研究環境を生み出すという理想を掲げている。後ほど見学する本館4階開架フロアには、6万冊の収容可能なスペースを設けており、NDCではなく、先生方と作った地域等による独自の分類を採用している。U-PARL・ RASARLと2つの研究部門も設置されている。
「東京大学ビジョン 2020」の1つに「学術の多様性を支える基盤の強化」が掲げられ、「東京大学が保持する学術資産のアーカイブを構築し、その公開と活用を促進することで、学術の多様性を支える基盤を強化する」というアクションプランに則り、学術資産等アーカイブズ委員会が立ち上げられた。学術研究の成果や研究の過程で収集された紙資料等々を学術資産として、デジタル化(デジタル撮影)を行い、データベースを公開した。
2022年度末には、3万件以上のアイテムを公表し、過去のデータベースのサルベージ&リニューアル等も行っている。コレクションとしては、高木貞治先生自筆ノート・平賀譲デジタルアーカイブ・ピラネージ画像データベース等がある。また、オープンサイエンスを進展させるために『オープンアクセスハンドブック』を作成したとのこと。
参加者を2班に分けて、案内していただいた。
■本館3階ホール
3階のホールは創建時のままをコンセプトとし、UTokyo Faculty worksとして、東京大学の先生の著作の一部が展示されていた。改修前は一面書棚だったが、現在は壁際の書架のみで、NDC順の配架には向いていないため、展示スペースとして使用しているとのこと。天井の美しい照明が目を引いた。
東側は、21世紀らしい新しい図書館をコンセプトとして造られている。プロジェクトボックスは8室で、グループ学習等で使われており、ウェブサイトから予約申込すると、その時間だけ部屋の前のICカードリーダーに学生証をかざすと入室できる。
防音ブースは4室あり、こちらも予約制で使用できる。当初は語学等の声を出す学習を想定していたが、コロナによるオンライン授業や、オンライン面接等で使われることが多く、もっと増やしてほしいと要望があるくらい予約が入るとのこと。
開架図書が少なく、学生がよく使う新しい図書を中心に開架にしているため(13万冊程度)、所蔵数が多いことのアピールとして、保存書庫をガラス張りとして中が見えるようになっていた。別館の自動書庫からの出庫は、OPAC検索用パソコンから申し込むと、総合カウンターまで届くようになっている。3階まで続く大階段は赤い絨毯が荘厳な雰囲気で、東京大学の図書館に来たことを実感した。
■別館自動書庫
コンベアやクレーンで図書や雑誌を運ぶ自動書庫は、1つのフロアに100万冊収蔵可能で、3つのフロアを合わせると約300万冊収蔵可能であり、見学窓からの景色は歓声が上がるほど圧巻だった。コンテナは4種類の大きさでしか区別しておらず、本のバーコードやコンテナの情報で紐づけられているため、フリーアドレスとして元にあったコンテナではなく、違う次の空きコンテナに戻されても迷子にはならないとのこと。また、深さは41m(地下鉄大江戸線よりはちょっと浅いくらい)もあるので、水が入ってこないことが重要で、1番目の壁にひびが入っても食い止められるよう、周りは3重構造になっているそう。気温20度、湿度50%に努めており、人の立ち入りがないため、人にくっついて虫やカビの持ち込みがないとのお話だった。
■別館ライブラリープラザ
ライブラリープラザは、会話をしながら学習・研究、交流ができるスペースで、この日も多くの学生が勉強されていた。本館入り口前の噴水の真下にあるため、天井の中央は噴水の底の部分にあたり、見上げると水がキラキラとしていた。壁はディスプレイやホワイトボードになっている。ホワイトボードの下には声が響かないように吸音ボードが入っていたり、天井を覆う国産杉材にも音を拡散させる効果があったりと、様々な工夫がなされていた。設計は生産技術研究所の先生にしていただいたとのこと。
アジア研究図書館は、絨毯の色にも他の図書館と違いがあり、雰囲気が異なっていた。独自の分類を使い、アジア全体、東アジア、東南アジア、南アジア、西アジア等のように地域別に配架されていた。本の整理は、U-PARLのアラビア語やペルシャ語のできる先生や大学院生に協力いただいているとのこと。こちらの天井は、元々5階にあったが4階に移されたそうで、模様が綺麗だった。
普段の見学では立ち入ることができないが、今回の研修会では、中まで入って見せていただけた。天井が高く一番広い閲覧室で、閲覧机は創建当時からの100歳近いアンティークものだが、照明やコンセントが設置され、使いやすい形になっていた。寄付による修繕もあり、机や書棚には寄付者のお名前が記されていて、手入れをされながら大切に使われていることが伺えた。改修工事により、床暖房・床冷房になっている。
とても豪華なお部屋で、鹿頭のはく製やシャンデリア、ロックフェラー氏の書簡やショパンの手石膏型等があり、図書館とは思えない空間だった。一時は貴賓室として来客時や授与式等のイベント時にしか扉は開かれなかったが、その後、雑誌閲覧室としての使用を経て、現在は記念室となっている。通常は閲覧室としても利用でき、机が広いせいか好んで使用する学生もいるそうだ。また、飾られている南葵文庫の額は徳川慶喜の直筆で、関東大震災で東京大学の蔵書が全て焼けてしまった際、紀州徳川家の私設図書館の蔵書がまとめて寄贈され、この額も一緒に寄贈されたとのこと。
本館地下の書庫資料閲覧室(保存書庫資料専用閲覧席・貴重図書閲覧室)や、本館5階のラウンジ等、いろいろと見学させていただいた。
神図協の研修会でぜひ東京大学の見学を!!と考えていたので、今回、実現できたことが嬉しかったです。パンフレットには「歴史が息づき知識が循環する場所」とありましたが、歴史の重みがありながら、新しさも融合された素敵な図書館に圧倒されるばかりでした。事前に図書館の説明を受け、興味深いお話を伺いながら案内していただいたので、とても充実した見学でした。特に自動書庫のコンテナが動く様子は、窓越しにずっと見ていたいと思うほどでした。アンケートでは「今まで見る機会のなかった自動書庫を見ることができた」「さすが東大、と思うすばらしい図書館だった」との感想が寄せられ、参加者にも大変好評のようでした。今回の貴重な経験を今後の図書館業務に活かせるよう努めていきたいです。