協会報(~239号)

神図協小史点描(31)

2012年3月21日 10時24分 [管理者]

神図協小史点描(31)  


会友(元県立図書館)池田政弘

 

 協会創立70周年記念大会

 平成7(1995)年に中井町、開成町、城山町、相模湖町4町が「協会」に加盟し、これで神奈川県37市町村すべての図書館及び図書室を含め加盟館は計142館となった。その翌年の平成8年4月に、総会が神奈川県医師会館で開催された。
 平成8年度の課題は、2年後に迫る「神図協」70周年を迎える準備に着手することであった。昭和53(1978)年、協会は神奈川県知事をはじめとして、国立国会図書館長、日図協理事長他を来賓として迎え、盛大に50周年記念事業を実施した。また60周年の際には、小規模ながらも県内図書館員が集まり有意義な記念事業を行った。
 迎える70周年事業は、県内全自治体の図書館及び図書室が加盟したこともあり、50周年以後20年間の歴史を記録することに加えて、図書館PR事業など、図書館を積極的に地域の住民に売り込むための政策的な事業の展開も必要であるとし、記念事業にむけて、


(1)神図協組織の見直しの検討

 一方、神図協50周年記念事業実施後は協会組織を見直し、5つの常置委員会と特別委員会制を取り、さまざまな活動を展開してきたが、加盟館の状況及び職員のニーズも含めて再検討する必要性が論議されていた。それは、5常置委員会である企画委員会、広報委員会、書誌委員会、郷土資料編集委員会、研修委員会の是非も絡んでいた。特に書誌委員会は書誌に関する研究活動を行うとともに、県内の公共図書館逐次刊行物等の総合目録を刊行し、また特別コレクションとして「神奈川のふみくら」を刊行してきた。
 ところが「書誌」を作成することが前提として検討を始めている内に、高度情報化とりわけ情報メデアの多様化、さらにはコンピュータの躍進等によって、書誌データの構築が電子化される中で冊子形式の「書誌」を作成しても、すでに古い情報になってしまうのではないか。またハイテク時代にふさわしい書誌とは何かなど問題が起きていた。
 また郷土資料委員会にしても郷土に関する埋もれた資料を発掘解説し、古文書を活字化することへの困難さと資料集を刊行しても、刊行後の費用面での責任の曖昧さもあって、編集作業だけでよいのかとの疑問も出ていた。
 一方では、特別委員会にしても、一度設置すると継続的な委員会として活動しているのではないか、もっと時代に則した委員会にすべきではないかとの声も多く出ていたのである。また協会財政のあり方も俎上にのぼった。(神図協小史点描(28)) 組織の見直しは企画委員会で論議されながらも、具体的な内容や方針を固めることができず、以後企画委員長を責任者として継続的に検討していくこととなった。

 

(2)70周年記念事業準備

 平成9年度に入り、多くの課題を抱えながらも70周年記念事業にむけて、式典や講演会の具体的な内容を検討するための記念事業実行委員会が設置され、協議検討の結果、式典は平成10(1998)年11月25日に本郷台の県立地球市民かながわプラザにおいて実施することに決まった。記念講演は元文化庁長官であった今日出海氏のご令嬢で中央大学教授の今まど子氏にお願いすることも決定した。
 70周年記念事業刊行物としての50周年以後の20年間にわたる協会の歩みは、50周年記念の際に刊行された『神奈川県図書館沿革略譜稿』を受け継ぐ内容ということで、広報委員会のメンバーにより進められていった。これは編集メンバーの「50周年の際作成された年表とまったく異なるものよりも、両書を通覧することによって明治以来百年余の神奈川県の図書館の歴史を知る方が便利である」との強い意向によるものであった。

 編集方針は
 ① 県内図書館界の20年間と神図協の動き、各館の主な出来事、刊行物などを採録する。
 ② 項目の配列は、同一月内を協会関係、公共、大学、読書施設、その他とする。
 ③ 前回の「沿革略譜稿」と同様、その時々の関係者のコメントを入れる。

の三つとし、加盟各館にも協力を願い「神図協会報」「こあ」「図書館雑誌」「図書館年鑑」などから抽出し、記念式典には刊行できるようにと準備が進められていった。 


 (3)今まど子氏の残したもの

 70周年記念式典が新谷神図協企画委員長の進行によって平成10年11月25日県立地球市民かながわプラザで開催された。その時の記念講演は、中央大学教授で長年にわたり司書、司書教諭育成にあたってこられた今まど子氏である。「図書館の未来」と題しての講演は、図書館学の教育に携わってこられた今氏にふさわしく、大変深い内容であった。氏の「図書館の未来という余りにも大層なテーマに、引き受けるのを止めようと思いましたが、明日のことでもそれは立派な未来であるのだと考えなおし、それならば、と引き受けました」との最初の言葉が印象深い。
  本旨は
 1. 経済不況と図書館
 2. 出版不況と図書館
 3. コンピュータと図書館
 4. 情報の蓄積、特に地域情報
 5. 司書の問題
の5項目。

今の時代は電子図書館時代といって、パソコンを駆使し、データベースを検索し、必要なデータを引き出し利用に供する時代となりつつある。が、しかしそのデータは誰かが入力してはじめて引き出せるもの。図書館の資料は様々なものが存在し、その様々な資料を引き出すには、そのための正確なデータ入力がされていなければ何の役にも立たない。過去、図書館員は目録作成を行うスペシャリストであったが、今日ではデータベースを管理することがその専門性になりつつある。しかし、データを入力しなければデータベースから検索することはできない、このことを今一度充分認識してほしい。そしてデータベースを正確に作成するための入力の仕方、方法を追及することが、これからの図書館員にもっとも求められるものなのではないか――と氏は語った。
  図書館員は資料の選択・選書に始まり、その資料を組織化し、図書館資料群として知的資料の核を構成する。また目録群を作成し、利用者が様々な角度から検索できるように利用者に提供してきた。それを細分・加工し、データ化することによって、さらに利用者が求める資料や内容を検索しやすいようにしていくことが図書館員の使命であると再認識できた、素晴らしい講演内容であった。このようにして「協会」70周年記念事業は成功裡のうちに終了したのであった。
 その後、根岸線の本郷台の県立市民プラザで記念講演をしたこともあり、ときの協会長、寺田県立図書館長及び新谷企画委員長他数人とともに今先生を招き「大船」で下車し懇談を深めたのである。


 (4)協会70周年を迎えての先輩に聞く

 協会70周年記念式典は成功裡に終了したのであるが、これに先立ち先輩に聞くという企画で「神図協184号」に特集がある。
 この企画の主旨は「苦労話、協会への提言、今の私たち図書館員への意見等を聞かせてほしい」とのことで、すでに図書館の現役を引きながらも、なおかつ図書館への情熱をもやしている方4名の記事である。
 元鎌倉中央図書館長の鹿児島達雄氏は、神奈川の公共図書館発展に強い意欲を持ち、協会に自ら提唱し、委員長となって「神奈川県の公共図書館地域計画」を策定した方である。彼は図書館の現場を離れて10余年が経ち図書館の変貌も激しいと思うのであるが、気がかりなことがあると文章を寄せている。
 ・各館の職員は県協会事業に積極的に参加ができる状況だろうか
 ・専門職館長が増え永年在職しているだろうか
 ・県立と市町村の図書館の機能は明確に整理され、有効に協会体制ができているだろうか、特に県立の未設置対応策と市町村援助体制は

 また、元小田原図書館長の川添猛氏は50周年記念の時の協会報の委員長で、予算の厳しいなかで後世に残る記念誌をということで「沿革略譜稿」をまとめる。また、50周年後の協会体制の発足にあたり、目玉としてできた企画委員会の初代委員長である。この企画委員会は各事業の委員会の委員長が委員として参加し、事業相互の有機的運用を図っていくこと、また事務局まかせであった協会年間予算の編成をする画期的なものであった。
 その委員長となった彼はまず「(企画)委員会の細部の約束事を作ることからはじめたが、形はかわったものの実質面ではというか、あるいは内在律みたいに旧弊はなかなか頑固だったと実感したことをいまも記憶している」と書き、そして委員長を退き6年後に再び企画委員長になったとき「この委員会の風来児には、改革をもくろんだときのおもかげはもはやみられなかった」と回想している。
 その他、元平塚図書館長の藤田浩司氏 元相模女子大学図書館事務長の吉岡磐彦氏が寄稿している。
 このとき危惧され回想し、記していた事柄は、今に通じる協会への熱意を感じるのである。しかしだんだんと図書館現場への委託の浸透、さらには指定管理制への流れのなか、公共図書館の職員が自治体職員でなくなりつつあるなかで、協会の在るべき姿が再度求められているようである。