協会報(~239号)

KL-NET参加から2年を経て

2012年4月20日 14時09分 [管理者]
特集:大学図書館の一般開放

KL-NET参加から2年を経て  

横浜国立大学図書館 森岡 緑

《経緯》

 横浜国立大学図書館のKL-NETへの参加は平成19年4月の神奈川県立図書館との相互協力協定の締結によって始まったが、公共図書館との連携事業の始まりとなると、さらに2年前の平成17年4月に溯る。神奈川県立川崎図書館から大学図書館との連携の可能性について打診をいただいたことから、同図書館の連絡車を利用した双方の蔵書の無料相互貸借が実現したのである。当初は県立川崎図書館との間でのみ始まった「館種を超えた連携事業」だったが、運用開始後1年を経た頃、神奈川県立図書館にも加わっていただき、3館間での相互協力がその後1年間続いた。この間KL-NETには参加せず、大学図書館のILL業務で標準的に使われているNACSIS-ILLシステムによって業務処理を行っていた。
 開始前は館種の異なる図書館とのILLを通常業務として行うことへの不安や、受益者負担が原則であるILLサービスに無料の枠組みが混在することで利用者に混乱を招かないかという不安があったが、実際には特に問題も無く運用することができた。当方の一方的なわがままを聞き入れ、運用にこぎつけるまで多大なご尽力をいただいた神奈川県立川崎図書館には深く感謝を申し上げたい。ただし、学内的にそれほどサービスが周知されなかったのか、利用件数はさほど多くなかった。平成17年度の依頼件数は53件、18年度は106件であった。ちなみに受付件数は平成17年度が5件、平成18年度が3件である。

《KL-NETへの参加》

 このように、非常に小規模で始まった連携事業であるが、スムーズにサービスが運用できたことや、図書の貸し出しを受ける側としてのメリット、さらには大学図書館としての特殊性を生かし、専門書、学術書を神奈川県内の公共図書館等に提供し、地域貢献を果たすという地域連携の観点から2館のみとの相互協力にとどまらず県内全域の相互協力事業への参加を決定するに至った。これによりそれまで行っていたNACSIS-ILLによる運用ではなく、県内図書館の横断検索・相互利用の枠組みであるKL-NETへの参加が実現した。
 本学構成員のKL-NETを通じた図書借用の利用件数は平成19年が361件だったのに対して、平成20年度は611件と大きく増加しており、このサービスが浸透してきていることがわかる。「普通の本はどこにありますか?」という質問が4月の新入生入学時に頻発する本学図書館にとって、KL-NET参加によって実現した無償での図書の取り寄せは画期的なサービスと言える。大学図書館間のILLによる図書借用は必ず有料であり、下手をすると書店で買ってしまったほうが安い場合もあるという状況は、学生にとっては気軽にどんどん本を借りようという気にさせるものではなかった。それが、小説や実用書などの「普通の本」を無料でしかも通っている大学で受け取り、返却ができるのであるから「画期的」という表現も強ち誇張とは言えないだろう。一方、平成19年度の当館から他館への貸し出し件数は232件、平成20年度は268件であり、ほぼ横ばいと言える。大学図書館の蔵書構成の特殊性を考慮すると仕方がないのかもしれないが、借受件数の飛躍的な伸びに比べると若干の淋しさを覚えるのは否めない。

《最後に》

 大学図書館の一般開放はもはや課題ではなく、自明のこととなりつつある。当館も調査・研究目的であれば年齢制限等無くどなたでも閲覧が可能である。また、県内在学・在住・在勤の何れかに当てはまる方であれば、図書の貸し出しを受けることもできる。しかしながら最寄りの駅から徒歩20分以上かかりさらに山の上にある本学は気軽に誰でも来られるほど利便性が高い訳ではない。KL-NETはこの不便さを解消するサービスとして位置付けられる。これまで大学は地域住民にとっては「近くても遠い存在」でしかなく、大学だけで完結した存在であった。しかしながら生涯学習の意識の高まりの中で大学図書館が構成員に対してだけのサービスではなく、地域の中の一員として何が出来るのかが常に問われている現在、住民の要望に真摯に耳を傾けサービスを提供する姿勢を今後も模索しつづけたい。