協会報(~239号)

「心の時代」と図書館

2012年3月15日 09時18分 [管理者]
「心の時代」と図書館

神奈川県立図書館長
神奈川県図書館協会会長  吉田行夫
 今年4月から、神奈川県立図書館長に就任いたしました。皆様のご協力、ご支援をよろしくお願いいたします。
 私の仕事場である県立図書館は、隣接する音楽堂とともに1954年、当時のモダニズム建築の旗手である前川國夫の設計により建てられたもので、半世紀近い歴史を経て、紅葉ヶ丘の樹木の中に、落着いたたたずまいを見せています。
 着任以来、街の喧騒とは離れ、この図書館ならではの空気を感じながら、過去・現在・未来と大きな時の流れに想いをめぐらせています。
 ついこの前、幕を閉じた20世紀は「実験の時代」だったと言われています。あらゆる分野で、人は人間の可能性を追及し、挑戦してきました。その結果、私たちに科学技術の発展や豊かな生活の実現など、色々なものをもたらしました。IT革命もその成果と言えるでしょう。
 しかし、その反面私たちの幸福感が問われるものとなりました。
 21世紀は「心の時代」だと言われます。
 今、私たちの生き方を問うものが注目を浴びています。日野原重明氏の『生き方上手』や斎藤孝氏の『声に出して読みたい日本語』の本が話題を呼び、映画ではこの数年、宮崎駿監督の作品が幅広い年齢層に支持を得ています。これらには、もう一度原点にもどって、私たちの生活を、私たちのありようを考えてみようというメッセージがあるのではないでしょうか。忘れかけていた私たちの幸福な生活を…。
 私は、次の時代を担う子どもたちや若者たちに、たくさんの体験と経験を通して「心のひだ」をつくって欲しいと、望みます。ひだのある布は、どんな風が吹いても自在に対応し、破れることはありません。がんばって張りつめた一枚の布は風が吹くと破れてしまいます。
 どんな状態に置かれても、柔軟に対応し、生きぬけるための「心のひだ」、これをつくるためにも、図書館は重要な役割を担っていると思えるのです。そして、私たちもまた、これからの人生をよりよく生きるため、次世代に何かを伝えるためにも、心にひだをつくり続けることが大切ではないでしょうか。