協会報(~239号)

カウンターの外から中を見てみよう

2012年3月15日 09時30分 [管理者]


特集:みんなで考えよう図書館利用マナー

 あの騒然とした夏休みも過ぎ、みなさんの図書館も少しは落ち着きを取り戻しているでしょうか。休暇期間はもちろん、年間を通じて図書館にはいろいろな人がやってきますが、当然みなさん十人十色で様々な利用の仕方をしています。利用する人が多ければ多いほど、そこには多様な図書館観が存在します。
 また、我々図書館側も共通した法律や理念、各館独自の規則や要綱が多数存在し、それらに基づき図書館を運営しています。
 利用する側と運営する側の完全なる意思の疎通があれば、何の問題もなく日々楽しく過ごせますが、現実はそうはいきません。
 利用者側と図書館側、それぞれ相手に対してこうして欲しい、ああして欲しいと思っていても業務多忙のおり、お互いにカウンターや館内で話すわけにもいきません。
 そこで、今回の特集は利用する側、運営する側双方が気持ちよく図書館で過ごすための工夫を考えてみました。


カウンターの外から中を見てみよう

大磯町立図書館 遠藤聰太郎


 私達図書館職員は普段カウンターの中から外を見ているので、図書館を運営することと利用することについて、考え方がどうしても運営する事の方に体重が乗る傾向にないだろうか。
 そこで、当館が昨年末実施したアンケートから感じたことを中心にカウンターの外から中をのぞいて見ようと思う。利用者に本音を言ってもらうと、おそらくこう呟くのではないだろうか。
 「私が図書館を利用する時どう言う事を本当は望んでいるとお考えでしょうか。私の気持ちとしては『私に許された時間の中でゆったりと気持ち良く、静かに私にとって適当な明るさの雰囲気のなかで、私が求めているもの(資料)を解りやすい検索方法と表示で探すことができ、もし私が探せなかったら気軽に職員に尋ねることができ、その職員は親切で、有能で、私が求めているものは勿論のこと、私が気付かなかったものまでさりげなく提供してくれる。』と言うような事なのです。
 でも私は、本当はこう思っていても、心臓に毛が生えている訳でもないので、図書館の人にこんな事は言えません。言ったら図書館の人に迷惑をかけてしまいますから。まあ、今のままでもあまり困りませんから。けれども時には、言いたくなる事もあってぐずぐず言うと、大抵職員さんは顔が曇りますね。」とまあ、こんなことが利用者の本音ではないだろうか。
 今回のアンケート調査は、利用者の属性、図書館の施設、職員、資料、集会活動、自由意見を聴いているが、内容は県内公立図書館に頒布してあるのでご覧いただければと思う。
 さて、このアンケートの結果で興味があるのは、個別の設問の回答はともあれ、自由意見が延べ1,010件寄せられたことである。その中身は施設284件、職員93件、資料494件、集会活動43件、全般的感想67件、その他の要望14件、利用者自身の事15件である。普段はあまりものを言ってくれない利用者が、言ってくれたこれらの自由意見の中で、図書館にとって耳の痛いものを、どのくらい図書館運営に取り入れるかで、図書館利用の敷居の高さが決まるのではなかろうか。
 と言うのは、一般の利用者は、図書館を利用することについて、我々が考えているほど敷居は低くないと思うからである。
 アンケートの結果を見ると当館の利用者は、ほぼ9割が月に数回以上来館する固定層であり、館外貸出登録率は町民の約5割と相当高い数値である。しかしながら、残りの5割の人は、おそらく図書館をほとんど利用しない人であろう。
 また、資料貸出数から割り出してみると、日常的に月2回図書館を利用する人の貸出数は、平均1回2点と仮定すると月4点で年に48点となる。当館の年間の資料貸出数は、約15万点であるから9割の固定層の利用者数は約3,000人前後となり、残り1割の利用者層を加えたとしても、日常的に図書館を利用しているのは、4~5,000人前後と考えられる。このことから、利用登録をしている人でさえも約7割は非日常的な利用者になってしまうと考えてもおかしくはないのである。
 次にこのアンケートでは、全般的な施設の雰囲気や職員の印象が悪いと言うのは3%前後なのであるが、資料については、6割近くが充実しているとは言えないと感じているのである。
 資料について言えば平成8年頃からの資料費削減のダメージが出ていることは確かである。そのダメージを少なくする事として、年間約6,000件以上のリクエストに応じているが、利用者の声なき資料要求には、とても追いつかないのである。そして、施設や職員についての評価も個々に見れば安閑としては居れない意見も多い訳である。少なくとも利用券を作っている利用者を図書館利用のリピーターとして虜にするためには、利用者の声無き本音を聞き取り、目配り気配りし、こつこつと改善していく以外に特効薬は無いのである。資料要求を筆頭に、職員の接遇、資質、照明、トイレ、騒音、席、空調、館内表示、駐車場、落書き、無断持ち出し、切取り、悪質延滞、休憩施設、開館日、開館時間、等々数え上げればきりが無い。
 しかしながら、これらの事を改善する努力の積み重ねが、漢方薬の効き目のようにじわじわと図書館利用の敷居を低くしていくのではないかと考えている。カウンターの中から外を見ていると、どうしても物の見方が固定化されてしまうと言うか、一方向的に陥りやすいような気がする。自分の仕事ではないと思ってはいないか。決められた手順でしか出来ないと思ってはいないか。自分では処理出来そうに無いと思ってはいないか。
 こんな事をいつも頭の隅に置きながら、物を見てみるとカウンターの外から中が良く見えてくるのではなかろうか。
 アンケートの結果をもとに、まとまりの無いことをぶつぶつ書いてしまったが、このアンケートでは、好意的な感想も沢山寄せられている。その中で最も印象深かったのは、40代女性の「利用できてありがたいです。図書館がなかったら住んでいないかもしれません。」と言うもので、私には、とても重いメッセージである。






*参考文献「大磯町立図書館アンケート調査報告書」(大磯町立図書館編 2002年3月発行)