協会報(~239号)

図書館と情報リテラシー/たしかな風、情報リテラシー

2012年3月15日 15時51分 [管理者]
●特集:図書館と情報リテラシー


 情報化社会の今日、図書館に期待される役割も大きなものとなっています。インターネット環境の進展と共に、図書館でもOPACを公開し、予約もネット上で出来るような時代になってきました。利用者のニーズにあった資料を、的確に提供することは当然のことながら、あふれる「情報」の中で、利用者自身が、求める情報にアクセスする力、いわば「情報活用能力」を身につけるための支援も図書館の重要な役割ではないでしょうか。  今回、そうした「情報リテラシー」について、 特集を組んでみました。現在の図書館界の動向を、日本図書館協会の利用者教育委員会委員長毛利氏に、先行実績のある大学図書館界から、慶応義塾大学日吉メディアセンターの取り組みを、まだまだの感のある公共にあって、情報検索講座を実施した横浜市の実践報告を、それぞれお願いいたしました。また、「情報リテラシー」についての考えや取り組みについても2館にお寄せ頂きました。  この特集が、今後の参考になれば幸いです。また、各館の新たな試みやご意見等お寄せ下さい。

 

たしかな風、情報リテラシー  毛利和弘

1.情報リテラシーとコンピュータリテラシー
 最近、新刊図書をチェックしていると情報リテラシーというキーワードが入った書名の本が目に付く。「また出た?」と、確認してみると、コンピュータリテラシーの本だ。コンピュータリテラシーでは余り売れないのか、やたらと情報リテラシーにカモフラージュされている。
 情報リテラシーの意味は、情報活用の読み書きソロバンの意味。文献調査法を含んだ情報活用能力をさすものであって、単なるコンピュータの活用能力であるコンピュータリテラシーとは異なる。見方を変えれば、販売促進戦略に利用されるほど市民権を得たということか……。

2.なぜ情報リテラシー?
 憲法では、国民の知る権利を保障している。しかし、情報活用能力の技法を持たない者は、残が、今、図書館員の新しい役割!」という勇ましい同士が集まった。同士は、全てその先駆念ながらそれは保障されないことは明白である。
 今は、図書館活動の一環として盛んに情報リテラシーが展開されているが、本来これは、憲法で保障された権利を確保するための国民的課題であるはずだが、まだ気づいていない人が多い。高度情報化社会と言われながらも、その情報化社会を泳ぐための技法を学んでいない人がほとんどである。従って、学生には大学のカリキュラム化と大学図書館活動で、一般社会人には公共の図書館で、小中高生には学校図書館で、この国民的課題を解決する必要がある。

3.利用教育委員会の活動を回顧してみて
 日本図書館協会に1989年に利用教育臨時委員会(後、委員会に昇格)が発足してから一昔が過ぎてしまった。「全ての人が公平に情報へアクセスし、使いこなせるように指導するサービス者たちであり、実際に自主的にそうした活動を図書館サービスとして展開している人たちばかりであった。
 活動を始めるやいなや、「教育をするとはけしからん」という特定のイデオロギーを持った方々から反発の声があがったり、協会内でも委員会活動に無理解な方がいたり、幾多の障害はあったが、2001年8月に、『図書館利用教育ガイドライン合冊版』、次いで2003年3月ガイドラインのハントブック版として『図書館利用教育ハンドブック-大学図書館版-』が刊行された。この2冊の手引き書の刊行によって、情報リテラシー活動はさらに浸透するものと期待している。

4.順風の情報リテラシー
 最近になって、いろいろな大学(例:京都大学、慶応大学、亜細亜大学…)のカリキュラムの中に1年生中心の「情報リテラシー」科目が置かれるようになった。高度情報化社会と日進月歩する社会変化について行くには、もはや情報リテラシー(情報活用能力)なくして生きていけない時代を迎えている。「10年前に大学で学んだことがもう使えない…」昨今よく聞く言葉である。まさに生涯学習時代である。ゆえに、情報活用能力を持たない者は、社会において、負け組(最近の流行の言葉を借りれば)になる可能性が高い。
 最近、図書館でも、館種を越えて情報リテラシーが積極的に展開されるようになってきた。レベル差はあるもの、初歩的な図書館利用案内・図書館の使い方・本や雑誌記事の探し方など、大学図書館を中心に多くの図書館が取り組むようになり、そうした研修会も流行りになってきた。 公立図書館の実態調査(『2003年度公立図書館におけるレファレンスサービスに関する実態調査報告書』全国公共図書館協議会2004.3)の資料によれば、何らかの情報リテラシー講座を実施している館は9.1%と紹介されている。まだ低い数字だが、岡崎市のある図書館での「大人の調べ方学習」講座、静岡県立中央図書館の「図書館利用講座」の開催など、公立図書館の情報リテラシー活動のニュースが小生の耳にも入るようになってきた。公立図書館でも確かな風が吹き始めたようだ。

5.情報リテラシーのための手引書
 小生が大学図書館で図書館利用教育を開始したのは、もう30年ほど前である。文献調査法を全く知らない学生たちを不憫に思い、何とかしなければと一念発起し、1989年に『文献探索法の基礎』アジア書房(※)の初版を刊行した。学生のために最初は書いたが、内容が充実するに伴い図書館現場のレファレンスの手引書などとして利用されるようになった。この書は、激しく変化する情報化社会に対応するため2年ごとに書き直しをしており、情報リテラシーの文献調査法指導用の手引書としてぜひ活用してほしい本である。(最新の電子情報も含まれている)
 (※)最新版『文献調査法-調査・レポート・論文作成必携(情報リテラシー読本)』
毛利和弘   著・発行 日本図書館協会 2004.7

   もうりかずひろ(JLA利用教育委員会委員長、   亜細亜大学図書館)