協会報(~239号)

神図協小史点描(23)

2012年3月15日 16時00分 [管理者]
●神図協小史点描(23)


12 協会事業の発展と県内図書館

 協会の事業が、新発足した委員会のもとに活発に論議されていった過程には、県内図書館と、それを担う図書館職員の増加が大きく作用している。
 昭和53(1978)年から55年にかけて、新設館として横浜市戸塚図書館、鶴見図書館、金沢図書館、港北図書館、川崎市立幸図書館、鎌倉市深沢図書館がオープンした。更に、昭和56年にむけて、開館への準備が進められている図書館としては、綾瀬市、葉山町があった。加えて厚木市立、座間市立、横須賀市立、秦野市立、茅ヶ崎市立図書館など増改築計画が具体化されていった。
(1)コンピュータへのはしり
 図書館の開館と充実、利用者の増加にしたがい従来の貸出方式(ブラウン方式、フォトチャージ方式等々)では、多量化しつづける資料の貸出に対応できなくなり、一部の図書館でコンピュータ導入が行われ始めた。当時県内図書館で実現している方式には、横浜市におけるPOS方式と川崎市におけるOCR方式の2種類がある。
 POS方式は、磁気データを入力する方式で、貸出、返却、督促、予約を行うものである。
  OCR方式の方は、光学式文字読取機を使って文字からの反射光線を符号化して入力する方式であり、これは貸出、返却だけでなく著者、書名の検索その他資料管理に利用できるものである。
  今日、多くの図書館がコンピュータ化され、貸出、返却、督促の管理はもとより、情報検索、情報提出という手段として機械化している。社会の中で、ともすると遅れていると思われていた図書館の機械化がようやく他の分野に歩調を合わせて、コンピュータ化を実現するようになったことは、ひと頃にくらべて隔世の感がある。
 そして手作業の貸出、返却処理をより迅速に処理するための図書館における機械化であるだけでなく、資料検索に踏み込んでいくことになる。
 このような状況のなかで、県内自治体は市部で100パーセントの図書館設置を遂げ、町村部においても44パーセントの設置を見るに至っている。
 ただし、当時の神奈川新聞(昭和53年10月28日付)は、次のような見出しを掲げていることに注目する必要があろう。
  「意外とおそまつ図書館事情
   少ない職員、蔵書、機能分担さえ不十分」
 それは遅れをとっている図書館への期待が高まっていることを示すものでもあった。
(2)地域計画策定の新たな気運
 この現実を、図書館業務に従事する図書館職員は、特別委員会を設置し「公共図書館地域計画」を打出したとき、諸問題の検討内容とその具体化へ多くの期待を抱いていた。
 それは、県市町村図書館は、それぞれ「地域計画」の内容を吟味し、実現可能性があるかどうかの検討を加え、独自の図書館政策を精査し、実現を指向した試みでもあったからである。また同時にこれらの図書館隆盛化気運が強く職員に意識されたからでもある。
この「地域計画」への策定は、すでに取り組みが始まっていた全国公共図書館協議会(全公図)の「全国図書館計画」策定事業と同時進行的なタイミングで進められた。
 図書館計画への関心が高まり、検討が始められたについては、この「全国図書館計画」策定の動機となっている「予算の裏付けとなる説得力のある理論」が欠落しているという図書館事情と深くかかわるところがあったといえるのではなかろうか。(詳細は奥野定通「図書館政策の策定を提案する」『図書館雑誌』昭和53年5月号)そのために研究組織として、各都道府県及び全国7ブロックにおいて「試案」の取り組みをしていた。
 一方、県協会の「地域計画」では委員のメンバーに対して要望意見のなかに「低成長経済下の図書館のあり方」「計画を外部の人々(住民及び行政当局 注・筆者)に積極的にPRする」「現行の県補助金制度改善を強調する」(鹿児島達雄「公共図書館地域計画委員会報告」『神図協会報』112号)ことなどがあった。
 そして、さまざまな要望意見を受けて「計画策定に取りかかっていったが、基本理念として昭和45年に協会が策定した「神奈川県の図書館地域計画」に基本点をおき、市町村図書館の状況、人口規模別比較さらに未設置地域の振興などに留意して検討がされていくのであった。
 このような「地域計画」策定への試みは、県内市町村図書館から委員として選出され参加した職員により推進されることになる。各自が日常的におかれている図書館の現状を述べ、分析し、それらをもとに策定していくことを目指した。
 県協会は、こうしたことを通じて、図書館職員の意欲をひき出す役割をも果たし得たといえるのではないか。

*「神図協小史点描」掲載号一覧 (シリーズ番号-掲載号数) (1)-166 (2)-167 (3)-168 (4)-170 (5)-171 (6)-172 (7)-174 (8)-175 (9)-176 (10)-179 (11)-180 (12)-183 (13)-184 (14)-185 (15)-189 (16)-192 (17)-193 (18)-194 (19)-197 (20)-198 (21)-205(22)-207

<会友(元神奈川県立図書館) 池田 政弘>


(更新:2012年3月26日 15時44分)