協会報(~239号)

日吉メディアセンターにおける情報リテラシー教育の実践

2012年3月15日 15時53分 [管理者]
●特集:図書館と情報リテラシー

日吉メディアセンターにおける情報リテラシー教育の実践  大橋 史子


 慶應義塾大学の日吉キャンパスは文学・経済・商学・法学・医学・理工学の各学部教養課程をカバーし、学生の殆どが1~2年生であるため、日吉メディアセンター(図書館)でも従来より利用者教育に重点を置いてきた。現在は1996年に策定した中・長期ビジョンに基づき、「情報リテラシーを全学生に浸透させる」「カリキュラムと連動する学習センター機能を拡充させる」の2点を具体的目標として、情報リテラシー教育プログラムの実施に取り組んでいる。1)内容としては、以下3本の企画の段階的な実施が中心である。以下簡単に紹介をしたい。


○第一段階:情報リテラシーガイダンス
 日吉インフォメーションテクノロジーセンターと共催の新入生向けオリエンテーション。図書館とキャンパスネットワークの利用について説明している。以前は任意参加であったが、ウェブによる履修申告システム導入をきっかけに、必修ガイダンスとして位置づけられた。2004年度は新入生約6,000人を対象に、のべ19回のガイダンスを実施した。


○第二段階:OPACセミナー
 実習形式を前提としているため、パソコンの利用環境の拡充にあわせて会場を毎年変更するなど試行錯誤を繰り返してきたが、ここ数年は図書館内のインターネットエリアでの実施に落ち着いている。説明会の参加率は2001年をピークに減少傾向にあるが、これはユーザー自身のコンピューターリテラシーが向上し、端末に触れることに躊躇しなくなったことが主たる原因と考えている。
  2004年度の実施回数は45回、参加者は455名であった。


○第三段階: 情報リテラシー入門
 レファレンス担当スタッフが中心となって、主に1年生を対象に、90分間の講義形式で情報リテラシーの基礎編を解説する。1997年の理工学部を皮切りに、各学部に対して授業参画の申し入れを行い、2003年には医学部を除く全学部においてこの講義を実施することができた。2)また講義の成果物として、2002年に慶應義塾大学出版会から「情報リテラシー入門」3)を刊行した。

 

 2003年度の時点で講義への参加率が過半数を 越え、その他の企画もほぼ定着したことから、当初の目標はひとまず達成したと考え、2004年度以降は、これらプログラムを補完する新たな企画に着手している。
 まずガイダンス期間中には、休止中だった館内ツアーを再開した。「OPACセミナーで資料を検索したのち、館内ツアーで実際に資料を手にする」という流れで連続開催し、好評を博した。またこの夏行われた通信教育課程対象の夏期スクーリングにおいて、OPACの使い方をまとめたパワーポイントのスライドをテレビ画面で常時放映するという試みも行った。
 一方でメディアセンターのウェブページも拡充しつつある。コンテンツのひとつであった「情報リテラシー教育プログラム」の紹介ページをこの春大幅に改訂し4)、学生のみならず教員に対してよりアピールするものとした。ここで受け付けている少人数制のセミナーは授業の中でも利用され、徐々に実績をあげつつある。
 そしてウェブと連動するまったく新たな取り組みとして、情報リテラシーの基本を自習できるウェブチュートリアルの作成にも着手した。『情報リテラシー入門』の講義90分間では消化しきれない内容をいつでも自分の必要に応じて学べる環境を作ることを目指し、現在検討を繰り返している。
 情報リテラシー教育の実践例は近年多く見受けられるが、取り組み方はさまざまで、正解というものはない。日吉メディアセンターは大学図書館として、今後も高校までのカリキュラムや慶應義塾という教育の現場を考え合わせた、キャンパスに最適なプログラムを心がけていきたい。

1)平尾行蔵他."大規模大学の1~2年生に対する情報リテラシー教育とメディアセンター".大学図書館研究.N0.54, 1998, p.32~42
2)上岡真紀子."大学1年生の情報リテラシー能力の分析:日吉メディアセンターの試み".大学図書館研究. No.69, 2003, p.42~52
3)慶應義塾大学日吉メディアセンター編.情報リテラシー入門.東京、慶應義塾大学出版会,2002.
4)慶應義塾大学日吉メディアセンター."情報リテラシー教育プログラム".(オンライン),( http://www.hc.lib.keio.ac.jp/ilp/index.html)
(参照2004-08-18)

   おおはしふみこ(慶應義塾大学 日吉メディアセンター)

(更新:2012年3月15日 15時56分)