協会報(~239号)

神図協小史点描(24)

2012年3月19日 09時46分 [管理者]
●神図協小史点描(24)

13 ひらかれた図書館をめざして


 神奈川県図書館協会の事業進展は、図書館職員の意欲をひき出す大きな役割をはたしながら、職員推進の連携強化となってあらわれていく。
 昭和55年(1980)は「図書館法」制定30周年にあたる年であった。これを記念して、神奈川県図書館協会は、県および県教育委員会などとともに「図書館法制定30周年記念、図書館まつり」を、昭和55年10月23日から25日の3日間、神奈川県政総合センター(現県民サポートセンター)を会場に開催した。
 3日間にわたる会期中「くらしと図書館展」の展示、「郷土かながわの出版物展」および出版物即売会の諸行事が盛り込まれた。更に県立図書館の相談室と電話で結ばれた「図書館なんでも相談コーナー」をもうけて、会場に訪れた人たちの、疑問、質問に対して、応えるという試みを行った。いわゆる図書館のデモンストレーション的な出張レファレンス・サービスである。
  この出張レファレンス・サービスは迅速な応対ぶりに図書館の仕事をあらためて、見直した参加者も少なくなかった様子でなかなかの好評であった。
  「図書館まつり」では、こうした展示や即売会などの他に第1日には、記念式典および公開シンポジウム、第2日は、図書館職員研究発表などが行われた。
 記念式典には、長洲知事から県内図書館に貢献した方々に対する表彰式が行われ、この席上知事は「生涯学習のために図書館の役割が重要性を持ってくる。また不充分な公共図書館の数と仕事の量を類縁機関が助けていけるよう努力する。図書館は文化の殿堂であり、充実した図書館サービスを実現することで東京文化圏から脱皮して、神奈川独自の文化を作り出そう」(神図協会報116号)と挨拶があった。会場から期せずして盛大な拍手がおこり、この発言に深く同意する気配が窺えた。
 当時、長州知事は「地方の時代」をスローガンに掲げ、地方からの文化の発信、地方自治の促進を強く意識し、さまざまな場で「地方の時代」を提唱していたのである。
 また公開シンポジウムでは、鹿児島達雄鎌倉市中央図書館長司会のもと、評論家の紀田順一郎氏、県民代表として関千枝子、竹村姜子の両氏そして協会長武田英治の4名による「ひらかれた図書館をめざして」のディスカッションが行われた。
 それぞれの立場から、自立し自己啓発を欲する利用者との対話が必要であり、さらにネットワーク化による地域性からの要求に対する住民生活との密着性などが強く意識されての発表でもあった。
 関千枝子氏はその後「図書館の誕生」と題して戦後日本の図書館の発展の原動力ともなった「日野市立図書館の20年」というドキュメントを書いている。(1986年刊、日本図書館協会発行)
 2日目の図書館職員研究発表も図書館における実践的な活動に主眼をおいた内容であった。
 いずれにしても、協会の主導のもとに図書館法制定30年という年に、その内容にふさわしい「図書館まつり」が開催できたことは、今後の図書館の発展への期待を象徴するものではなかったろうかと考えられるのである。

  武田会長の辞任
 協会50周年記念および図書館法制定30周年記念行事を精力的に呼びかけ、主導していった武田英治協会長は、任期途中で、県立図書館長を退職し、また神奈川県図書館協会長を退任した。
 武田会長は会報117号(昭和56年4月)に
  もっと光!もっとPR!!
と題して小文を寄せている。そのなかで「県下の図書館も、大学図書館の相次ぐ増改築、市町村立図書館の新設開館と目を見はるばかり、ようやく『春近し』を思わせるようになりました。図書館がハードウェアとして理解されているうちは、まだほんものではない。図書館の本当のとりえは、ソフトウェアにある。ということが納税者にはまだ十分理解されてない。これが民間に入って3ヶ月目の印象です」と記している。退任に当たってのメッセージには重みが感じられた。
 私は、このメッセージの中に込められているものにこそ、図書館への要請があると考えている。
 資料、施設とそれをフルに動かし得る図書館員によるソフトウェアの援用、ひいてはその果実を県民に提供することが、今ほど希まれているときはないと思うのである。
 今は図書館が図書館であるとは、どういうことなのかをもっと考えていかねばならない時期でもあるのではないか。

*「神図協小史点描」掲載号一覧 (シリーズ番号-掲載号数) (1)-166 (2)-167 (3)-168 (4)-170 (5)-171 (6)-172 (7)-174 (8)-175 (9)-176 (10)-179 (11)-180 (12)-183 (13)-184 (14)-185 (15)-189 (16)-192 (17)-193 (18)-194 (19)-197 (20)-198 (21)-205(22)-207 (23)-209

<会友(元神奈川県立図書館) 池田 政弘>


(更新:2012年3月19日 09時48分)