協会報(~239号)

特徴のある加盟館 第15回 鶴見大学図書館

2012年3月19日 09時50分 [管理者]
●特徴のある加盟館

鶴見大学図書館 (今回は、大学が80周年を迎えた鶴見大学図書館を紹介します)


 鶴見大学をその中核とする総持学園は、今年めでたく80周年の節目を迎えました。必ずしも潤沢とはいえない予算をやりくりして、体系的で高水準の蔵書形成を開始して約40年、これは学園の歴史のほぼ半分にあたります。そして現在の図書館の竣工が昭和61年9月ですから、本格的な集書活動の大体半ばあたりを歩んできたことになります。施設は多少古くなりましたが、時代の流れに即応するために最新の情報機器を導入し、本学園学生・教職員はもとより、他機関の研究者や地域の方々に至るまで、明るく快適な知的生産空間として広く利用してもらっています。
 さて、このような開かれた施設であることも本学図書館の特徴のひとつですが、その他外国雑誌殊に歯学・薬学分野の充実、国語国文学領域の使い勝手のよさ、独自の利用者サポートシステム「学習アドバイザー」制度、基礎的な歴史文献を網羅した特殊文庫、和歌文学会・紫式部学会・医学史学会等全国規模の学会との連携など、いくらも数えあげられる特徴のうち、内外の評価が最も高く独自性においてきわだつのは、1万冊を遙かに越える貴重書でしょう。図書館3階にある床・壁面・天井すべて板張り、温度・湿度24時間完全管理の貴重書室は、NHKで幾度もとりあげられた自慢の施設です(放送大学「書誌学」)。ここには、江戸時代以前の書籍を中心に和漢洋の古典籍が並んでおり、横浜市指定文化財和漢朗詠集(鎌倉時代前期写)・永恩具経(奈良時代写)をはじめ、和歌・連歌・物語・軍記・漢詩集・医書等の質の高い蔵書を形成しています。これら東洋の古典のほか、シェイクスピア・ミルトン・ワーズワース・テニスンなど、イギリス文学の名匠の作品を数多く集め、またシンデレラ・イソップ等の絵入り本も、国内有数のコレクションと言ってよいでしょうし、ジョンソンやウエブスター辞書の異版を揃えている図書館はあまりないはずです。
 ただ集めるだけ、ではいけません。学外の研究者は勿論、学内の教員にすら閲覧を容易に許可せず、「お宝」として秘蔵するのみの大学もあると仄聞しております。書物は、それが貴重であるか否かを問わず、読まれなくてはならないでしょう。当然、文化遺産として大切に未来へ伝えてゆく責任も忘れてはなりませんが、本学図書館では、同時に研究と教育のための公開・利用も積極的に取り組んでいます。資料を捜し、受け入れ、的確に整理し、利用に供する仕事です。その具体的な試みのひとつが年4回の特別展示であり、今年はさらに総持学園創立80周年を記念して、「鶴見大学図書館蔵貴重書80選-和歌と物語-」を10月8日より31日まで開催し、永井路子先生の講演会「歴史と小説の間」もあわせて行いました。あいにく期間中に台風が2度もやって来るという悪条件ながら、1,600人以上のお客様をお迎えし、まずまずの成果であったと考えております。特に、本学学生が日本の古典に関心を持ったこと(教育上の効果)、近隣の人々の来訪(地域の文化センター機能)、外部の研究者からの評価(学術性)の点で、大きな意味がありました。
 展示にいらっしゃった方のほとんどが注目した資料に古筆切があります。道元禅師自筆「道正庵切」、藤原俊成自筆「日野切」、あるいは伝亀山天皇筆「金剛院切」など、筆跡や料紙装飾の見事さに、誰もが魅了されました。しかし断簡であるが故に内容特定が難しく、また保存にも管理にも普通の図書とは異なる配慮が不可欠ですし、真贋問題も避けては通れない厄介な存在です。したがって古筆切の価値は十分認めてはいるものの、大学図書館で古筆切を体系的に収集しているところは、本学以外まずないでしょう。研究資料として、また工芸・芸術作品として価値の高い古筆切を、わが図書館の特色づくりのためにも、継続的に集めたいと思っています。図書館は、既に備わった特徴を大切にしさらにそれを拡充するのみならず、新たな独自性を不断に模索する必要があります。集書における創意工夫も、その一端にほかなりません。

(館長 高田 信敬)