協会報(~239号)

フォーラム「図書館と行政-司書は行政をどう学ぶか-」報告

2012年3月21日 11時15分 [管理者]

フォーラム報告広い視野を持つ司書となるために


                         平塚市中央図書館 小泉 明子


平成19年11月7日(水)、図書館総合展で開催されたフォーラム、「図書館と行政~司書は行政をどう学ぶか~」に出席しました。  講師の井上玲子氏(我孫子市教育委員会社会教育部次長)は、司書(本講演では司書資格を持ち専門職として図書館で働く者)から図書館長に就任したという職歴の持ち主です。多くの図書館長が事務職員である中、事務職の図書館長の下で働く司書や、司書を使う事務職館長の声を聞くうちに考えた「司書が行政を学ぶ必要性」について、ご自身の経験を元にお話をいただきました。
         
1 現在の図書館の状況
 図書館業務は、開館時間の延長や開館日数の増加、サービスの多様化というように、質・量ともに増えています。その一方で、人件費を含めて予算は頭打ちとなっている館が多く見られます。  井上氏が勤めていた我孫子市民図書館の例では、こうした現状に対応するために、司書資格を持つ嘱託職員等を増やすことで対応していました。井上氏は、「嘱託職員一人一人を見ると、能力もやる気も司書との差を感じない。それでは、専門職として働く司書の必要性とは何だろう」と考えたそうです。
 財政状況の厳しい折、図書館サービスを向上させるために、図書館で非正規職員が働くケースは我孫子市の例に限らず目立ってきています。また、司書が退職した場合にも、新たな司書を採用するのではなく、司書資格を持つ事務職や嘱託で補充されることも多くなっています。  こういった職員配置の背景には、行政の「図書館に司書は必要ないわけではないが、専門の正規職員でなくてもよいのではないか」といった考え、すなわち司書の必要性が認知されてないという実情があります。
 しかし、司書が正規職員でないと、図書館の運営・企画・意思決定に現場の声が反映されなくなるという弊害が発生します。
 そして、司書という「図書館業務に腰を据えて取り組もう」という覚悟のある職員が図書館運営等に参画することで、より密度の高いサービスを展開することができます。

2 行政の必要とする司書とは
 司書を確保していくためには、行政や住民に司 書の必要性を理解してもらわなければいけません。
 それでは行政や住民の必要とする司書とは、ど のような資質を持つ職員でしょうか。
 井上氏は、司書には3つの資質が必要だと述べています。
(1)図書館資料の専門家としての質の高さ
(2)住民から信頼を得られるだけの歓待の精神
(3)行政全体の中で図書館を考えられる視野の広さ
  (3)の視野の広さということについては、行政に司書の必要性を認めさせる上で、特に重要です。司書が行政に精通することで、図書館業務の企画や運営をするときに自治体の一機関として適切な判断ができるようになり、それが司書の確保につながっていくと考えられます。

3 司書が行政を学ぶ方法
 行政から「司書は視野が狭い」と言われることがあります。この言葉の背景には、多くの司書が予算・決算の流れや自治体の条例・計画に対して無頓着であるという点があります。
 つまり司書が視野を広げるためには、まず行政を学ぶことが肝要です。
 行政を学ぶ方法としては、

  • 図書館の中だけでなく、他部署や関係団体とも折り合いをつけて課題を考える。
  • 自治体のホームページや議会議事録などを問題意識を持ってじっくり読む。
  • わからないことがあったときには、関係課に聞いてまわる。
  • 行政職が受けている研修に参加する。
などがあります。
 一方で、図書館が司書の必要性を行政に訴えていくことも必要になります。そのためには、司書が図書館業務等の説明が自分の言葉でできるように意識すること、図書館の予算や入館者数といった客観的な数値を日頃から把握しておくことも求められています。        
  
 熱意の伝わる講演で、これからの司書のあり方を考える上でとても参考となる内容でした。
 また当日のアンケートでは、「体験に基づいた内容でわかりやすかった」といった感想が多く寄せられました。