協会報(~239号)

ブックスタートについて

2012年3月15日 09時51分 [管理者]
ブックスタートについて

NPOブックスタート支援センター 佐藤いづみ
はじめに
 まだ字を読むことも、言葉らしい言葉を発することもない0歳の赤ちゃんと絵本を開くというのは、どのようなことなのでしょうか。地域に生まれたすべての赤ちゃんとその保護者が、家庭で絵本を開く時間を持つきっかけを作るために、今、日本各地に「ブックスタート」という運動が広がっています。

ブックスタートの時間
 赤ちゃんの体の成長にミルクが必要なように、赤ちゃんのことばと心を育むためには、暖かなぬくもりの中で優しく語りあう時間が大切です。そうした時間を通して、赤ちゃんは自分が愛されていることや守られていること、大切な存在であることを体感します。そしてことばを呼応させる経験の積み重ねからゆっくりと、人を信頼することを知り、さらに自分以外の人と気持ちを通わせる力を育むのです。また赤ちゃんと向かい合うそうしたひとときは、周りの大人にとっても心安らぐ楽しい子育ての時間になります。ブックスタートは、その暖かくて楽しいことばのひとときを「絵本」を介して持つことを応援する運動です。具体的には、地域の保健センターで行われる0歳児健診の機会に、すべての赤ちゃんと保護者にメッセージを伝えながら絵本が入っているブックスタート・パック(下写真)を手渡します。

ブックスタート・パックの一例

(地域によって内容が異なります。)



ブックスタートのこれまで
 ブックスタートは、1992年に英国バーミンガムで始まりました。日本では、2000年「子ども読書年」をきっかけとして「子ども読書年」推進会議(子どもの読書に関わる約280の団体、企業、個人が参加)が運動を研究し、東京都杉並区で試験的に開始されました。2001年4月には先駆的な21市区町村で運動が開始し、2002年度中には300以上の市区町村にまで広がる運動になっています。2001年4月には、「子ども読書年」以降も長期的に地域の活動をサポートする機関として「NPOブックスタート支援センター」が設立されました(NPO法人認証は2001年12月)。NPOブックスタート支援センターでは、英国のブックスタート推進団体であるブックトラストと協力し日本の実施における正確な理念の普及につとめています。

すべての赤ちゃんと保護者に
 ブックスタートは、すべての自治体に通用するような1つのモデルがある運動ではありません。
  ブックスタートの理念(囲み「大切なポイント」参照)と地域の特長を活かし、また地域それぞれの事情も考慮しながら、実施機会や実施方法が検討されます。その際に大切なのは、“地域に生まれたすべての赤ちゃんと保護者”に“ブックスタートのメッセージを深く理解してもらえるよう”に、“向かい合って説明をしながら丁寧にパックを手渡していく”ことができる形をつくることです。
 ブックスタートは基本的には地域の保健センターで行われる0歳児健診の会場で行われます。保健センターでの健診は、絵本や子育てに対する関心の高さに関わらず、地域に生まれたすべての赤ちゃんと保護者が対象です。
 さらに、関心が高い人だけを対象としているのではないということもあり、ブックスタート・パックの手渡し方が、とても重要なポイントとなります。絵本が健診のおみやげとしてではなく、家庭での具体的なきっかけとなるように、図書館員さんなどが、保護者に分かりやすくブックスタートのメッセージを伝えることができるコーナーづくりが必要です。(下写真)
 岐阜県関市での実施風景

ブックスタートの大切な5つのポイント
ブックスタートは
赤ちゃんの保護者が絵本を介して向かい合い“暖かくて楽しいことばのひととき”を持つことを応援します。
地域に生まれたすべての赤ちゃんと保護者が対象です。
メッセージを直接伝えながら絵本を手渡します。
地域内の連携のもとに市区町村単位で行われます。
特定の個人や団体の宣伝・営利・政治活動が目的ではありません。

連携を図る
 ブックスタートは、ひとつの機関だけでできる事業ではありません。行政の各機関や地域ボランティアが「連携」を図ることがとても大切になってきます。ブックスタートの「検討」「計画」「準備」「実施」「フォローアップ」「継続」を進めていくために、図書館(室)、保健センター、子育て支援センター、地域ボランティアをはじめとして、ときには保育園や学校、公民館児童館、社会福祉協議会、地域の小児科医などブックスタートの目的を共有する人々と協力しあうことが不可欠となります。
 異なる立場の人々が共に事業を実施するときには、大きな困難が伴うことがあります。また信頼関係を作るのには時間もかかります。それぞれの機関や立場として、「図書館利用者増加」「母子保健活動の充実」「虐待防止」など、ブックスタートに期待することは様々かもしれません。しかし、これまでそれぞれの機関が行ってきた事業や活動は、「地域の赤ちゃんが心も健やかに育って欲しい」「保護者が安心して子育てができる環境を作りたい」というブックスタートの目的と共通する部分があります。それぞれの立場やこれまでの活動を尊重しつつ、同じ目的を共有しながらブックスタートを進めていくことがとても大切です。また連携を図ることは、運動を継続していく上でも重要な意味を持ちます。1つの機関や1人の担当者の熱意だけで実施されるのではなく、住民も含めた多くの関係者が関わる運動として作り上げていくことで、長期的な広がりをもつ、本当の意味での「地域の運動」となっていくのです。連携する各機関や立場の人たちといっしょに連絡会やワーキンググループを作って打ち合わせ会議や事前の学習会を開いていくことが、ブックスタートのスタートの第1歩となります。

おわりに
 現在、ブックスタートは多くの市区町村からの関心を集め、今後も実施地域は増加していくでしょう。そんな中では、この運動がただ絵本を配布することが目的の運動ではないこと、またブックスタート実施後のフォローアップとして、地域の中で絵本と出会える環境を整えていくことや、安心して子育てができる環境を整えていくことがとても重要であること、そして数年で終わってしまう運動ではなく、親子に本の楽しさを伝える運動として、地域の子育て支援運動として、ひとづくり・まちづくりの運動として息の長いものとしていくことなどを確認していくことが大切です。
 ひとつひとつの地域の活動を通して、赤ちゃんがより健やかに育つことができ、子育てがより楽しいものとなり、気持ちが通い合う関係が社会に広がることを願っています。
 運動の立ち上げや実施に関するお問い合わせはご遠慮なくNPOブックスタート支援センターまでお寄せください。

NPOブックスタート支援センター
Tel:03-5228-2891
Fax:03-5228-2894
Email:infobs@bookstart.net
HP:http://www.bookstart.net