協会報(~239号)

神図協小史点描

2012年3月15日 13時19分 [管理者]
●神図協小史点描(21)
13 県立図書館の政策転換(続)


 
 県内で移動図書館車を巡回させた県立図書館は、他に移動図書館車がないこともあって、市町村立図書館の肩代わり的なサービスを開始せざるを得なかったのである。そのため県内全域をサービス対象として、読書普及と貸出を実施し、あわせて図書館設置促進を目的として、直接サービス・ポイントを設け図書館の活動そのもののPRを実施していった。
  昭和40年代の後半になると、市部を中心に図書館の振興、改築の機運が徐々に盛り上がりを見せ、蔵書の充実と専門職員(司書)の配置がはかられていった。
  県立図書館の館外奉仕活動の目的とするところは、読書を通じて学ぶために必要な資料を県民に提供し、図書館のない未設置市町村や図書館整備が遅れている市町村の充実をはかることであった。この県立図書館の直接県全域サービスの実行が、10年以上にわたるに及んで、わずかながら、しかし着実に成果となって現れつつあったのである

 この県内図書館の充実化への動きは、県立図書館の活動そのものの見直しとなってあらわれ「館外奉仕活動研究会報告」では、その一端であったということができよう。
 この「報告書」では、県と市町村図書館との役割分担の必要性が強く打ち出されている。と同時に、県立図書館としての基本的機能は何なのかという原点にもどった内容ともなっている。
 この県立図書館としての「基本的機能は何か」という問いに対して、大きく4つに大別した議論展開があった。

1 資料・情報センター
 資料整備、資料検索、レファレンス等
2 相互協力センター
 相互協力のための連絡調整、資料協力、県内総合目録編纂等
3 資料保存センター
4 図書館振興と読書普及センター
 市町村図書館への量的資料援助、直接サービス代行、読書普及活動

 このうち、2と4が館外奉仕活動の主たる機能であるとしながら、地域住民に対する直接サービスを市町村図書館の役割とし、市町村図書館を通じての県民へのサービス、いわば間接補完サービスを県立図書館と位置づけ、県立図書館の館外奉仕活動のこれからのあり方を明確化しようとしたのである。
 この基本的機能を整理しながら、これからの館外奉仕活動のあり方として次のように位置づけている。

1 未設置市町村へのサービス
2 未整備市町村へのサービス
3 大都市の住民への直接サービスの中止
4 相互協力活動の積極的な展開のための協力車活動

 この結果、県立図書館の館外奉仕活動、特に自動車文庫活動は大きく見直された。市町村図書館さらには県民に対して「自動車文庫だより」(県民や市町村図書館向けのPR紙)を発刊していたので、その紙上に、「県立図書館の自動車文庫の目的」(44号昭和55年3月)、「図書館のしごと-県の役割、市町村の役割-」(48号昭和56年3月)などの普及的ともいえる論考を発表していった。
 このことは、大雑把にいえば県立図書館の直接サービスから間接サービスへの転換であった。
 昭和55(1980)年当時の県下37市町村のうち17市4町で図書館が設置されており、図書館のない地域でも町民センター図書室等の整備で実質的な図書館活動を展開しており、市部ではまもなく100%の設置率になるという状況にあった。
 この状況と相まって、
 1 自動車文庫の巡回配本は、図書館未設置町村を主な対象とする。
 2 市町固有の移動図書館等により管下のサービス網を形成している図書館のサービス・ポイントは、県から市町への移行を計画的に進める。
 3 市町村図書館の整備計画に合わせて時限的、計画的に県立図書館の直接サービス・ポイントを縮小する。(自動車文庫だより45号昭和55年6月)
という方針が、市町村図書館や教育委員会に対して、明確に打ち出された。また図書館がある市町村には「質的」な援助を行い、図書館未整備や不充分な施設には、5,000冊を限度に自動車文庫用図書の長期貸出制度を実施し、市町村に図書館の設立を強く要望する政策を取ったのであった。
 このような方針のもとに、県立図書館館外奉仕部は、その実行を迫られたのであった。

*「神図協小史点描」掲載号一覧 (シリーズ番号-掲載号数)
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<神奈川県立図書館  池田 政弘>