協会報(~239号)

シルバー人材の大学図書館への就労

2012年3月22日 11時54分 [管理者]
特集:多様な図書館経営-いろいろな形態のマンパワーを活用して

シルバー人材の大学図書館への就労 

東海大学付属図書館中央図書館 三井 悟

 
 図書館の利用時間を延長して欲しいという利用者の声は、いつの時代も図書館が直面する大きな課題と言える。東海大学湘南校舎図書館(4館)においても利用時間の延長は、利用状況、予算、施設・設備、セキュリティ、人的手配、交通環境等さまざまな要素を総合的に検討し、関連する部署との調整を行うなどして徐々に拡大してきた。2000年4月から平日の閉館時間は、中央図書館・12号館分館が20時まで、11号館分館・13号館分館が19時までを、専任館員と勤労奨学生で対応してきたが、利用者や図書館運営委員会などで更に利用時間延長を望む声が高まってきた。利用時間の延長は、キャンパスライフの充実、学習環境の改善に貢献すると期待される。一方では、内的問題として館員の労働条件、人員配置、普段の業務への支障なども懸念され、延長した場合のセキュリティや維持費(光熱費等)の負担も大きい。
 2002年4月、図書館内に湘南校舎図書館の利用時間の延長を実現すべく、「開館時間検討委員会」を発足させた。そこでは、シルバー人材を採用し利用時間を延長して実績を上げている大学の調査と共に、学内関連部署との調整を進めた結果、専任館員の時差出勤と勤労奨学生の対応に加え、シルバー人材を登用することとした。湘南校舎の閉門時間23時の条件を考慮し、授業開講・定期試験期間の月~金曜日の19時~22時、土曜日の16時~19時をシルバー人材で対応することにした。
 シルバー人材は、大学が平塚市に所在することもあり(財)平塚市生きがい事業団(以下、「事業団」という)の派遣職員を登用することとした。
 事業団派遣職員の主な業務は、図書の貸出・返却、視聴覚資料・書庫資料の出納、複写機の紙補給などで、夜間要員として16名を採用し、勤務は月~金曜日18時30分~22時、土曜日15時30分~19時の1日3時間30分勤務、1館で4名がグループとなり、交替で各館1日2名勤務とした。実施にあたっては、窓口業務のマニュアル整備、図書館見学説明会、4日間に渡る業務研修会などを実施し、2002年10月より開館時間延長が実現した。
 事業団におけるシルバー人材の仕事内容は、除草や清掃などの軽作業に集中しており、事務系の仕事が少ない状況であった。そこで、事業団事務局では図書館業務の仕事内容から、現役時代の豊富な職務経験、パソコン操作の知識、夜間勤務のため帰宅時の交通の便、若い学生と接するための人間性などを重視し、派遣職員を選抜された。
 利用時間延長実施から7年が経過したが、22時の閉館時の在室者は、4つの図書館で曜日ごとに増減はあるが、50~80名の常連の利用者が残っている。大きなトラブルは無かったが、夜間という時間帯のために、図書館だけでは解決できない施設・設備の問題、セキュリティ、突発的に起こる事故などのケアについては、まだまだ検討していく余地がある。一方、サービス面では、サービス範囲を限定しての利用時間延長であることと、事業団派遣職員の図書館専門的知識は必ずしも充分ではなく、利用者の理解を得ながらサービスに努めている。したがって、事業団派遣職員が夜間時間帯に発生した、利用者からの申し出や出来事を正確に翌日に引き継ぐことが大切である。
 事業団派遣職員を採用してからは、
 ①業務マニュアルの整備
 ②事業団派遣職員から今までの経験を生かしたアドバイスによる業務の見
  直し
 ③地域の状況や地域住民の声が身近になった
など、業務の改善にも繋がっている。また、図書館員と事業団派遣職員は、現場に即した質問、失敗事例、改善要望などの意見交換会を毎年開催し、意思疎通に努めている。その後、図書館においては、夜間とは別に昼間の繁忙時間帯へも4名の事業団派遣職員を採用した。その他にも、留学生寮の管理人の仕事など幾つかの大学の部署で補助的業務を担当され、好評である。図書館での就労期間は、70歳まで、最大6年間としたため、2002年10月当時の事業団派遣職員は全て入れ替わっている。なお、健康面の理由により途中で退かれた方もあり、事業団には健康面も留意した選考をお願いしている。
 大学にとっては、地域にお住まいの事業団派遣職員の就労を通し、地域での文化的機能としての大学並びに図書館の存在価値をより高め、更に利用時間を延長することにより、公開している地域住民へのサービス拡大にも繋がり、地域への貢献が進展している。また、利用者である学生にとっても、派遣職員の豊富な経験や利用者に対する接遇も、図書館サービスにプラスされた形で貢献している。図書館にとっても、大学にとっても良好な方向に展開しつつあるシルバー人材の就労であった。