協会報(~239号)

神奈川県ライトセンター事業の原動力

2012年3月22日 11時57分 [管理者]
特集:多様な図書館経営-いろいろな形態のマンパワーを活用して

神奈川県ライトセンター事業の原動力  

神奈川県ライトセンター 姉崎 久志


 神奈川県ライトセンターは、日本赤十字社が神奈川県から指定管理者の指定を受けて運営しています。ライトセンターの前身は、昭和40年(1965年)に横浜市中区根岸町に設置された神奈川県点字図書館です。昭和40年代は全国に点字図書館が多く誕生した時期で、運営形態は地方自治体直営から社会福祉法人や宗教法人など様々でしたが、本県においては、点字図書館開設時から県の委託により赤十字が運営を担ってきました。
 では、なぜ赤十字が点字図書館(現・ライトセンター)の運営に携わってきたかの理由は、時代を遡った昭和25年(1950年)にあります。この年、日赤神奈川県支部は、お年玉年賀はがきの寄付金によって「赤十字愛の文庫」を設置し、県内の盲学校に点字図書を贈呈する事業を始めました。戦後の混乱から、徐々に落ち着きを取り戻した頃でした。さらに、昭和30年(1955年)には点字図書室運営事業「愛の赤十字文庫」を設置しました。そして、昭和34年には神奈川県点訳赤十字奉仕団が結成され、ボランティアによる点訳活動が定着するようになりました。このような流れから、県が点字図書館を設置するにあたって、点字図書製作等において先駆的活動を活発に展開していた日赤神奈川県支部にその運営を託しました。
 その後、神奈川県点字図書館は、施設が手狭になったことと併せて事業内容拡大のため、昭和49年(1974年)に横浜市中区から現在地の旭区二俣川に移転し、名称を神奈川県ライトセンターに改めました。ライトセンターでは、これまでの図書館業務に加え、各種相談をはじめ社会復帰に役立つような点字指導、歩行訓練、さらに視覚障害乳幼児指導などに取り組みました。当時のライトセンターは県立施設を再利用していたため、老朽化と狭隘化により建て替えとなり、平成5年(1993年)から現庁舎での事業を行っています。新生ライトセンターは体育館・プール・ジョギングコース・トレーニング室などのスポーツ施設を備え、全国的にも例を見ない施設となりました。
 ライトセンター事業は、「情報提供事業」「指導訓練事業」「ボランティア育成事業」「スポーツ振興事業」「普及啓発事業」に大別されます。世の中は常に動いています。利用者である視覚障害者のニーズの把握と全国の動きを視野に入れながら事業展開を図ってきました。
 さて、ライトセンター事業を行う上で無くてはならない存在はボランティアです。特に、点字図書館の仕事である情報提供事業はボランティアの存在無しでは全く成り立ちません。視覚障害者が利用する点字と録音による図書や雑誌で市販されているものはごく僅かです。利用者のリクエストに応えるためには、ボランティアの協力により図書館自らが貸出用の蔵書を製作しなければなりません。点訳・音訳はじめ校正・製本、録音図書においてはデジタル編集など1冊の図書を作るのに多くの時間と労力を要します。そのほとんどの作業がボランティア活動により支えられています。結果として、点訳図書や録音雑誌においては、全国で最も多くの種類を製作するに至っています。

  


ボランティア  

<ライトセンター事業の多くはボランティアに支えられています。写真は、ボランティアの協力により日々行われている録音雑誌(カセットテープ・CD)のプリント・発送・返却整理等の作業の様子です。>

 全国の点字図書館は当センター同様ボランティアに支えられて事業を展開していますが、多くは点訳と音訳の2種類の活動です。しかし、ライトセンターにおいては、時代と共にボランティア活動に広がりを見せてきました。昭和34年から続いている点訳活動、同41年からの録音(音訳)活動、さらにレクリエーション、誘導(外出援助)、拡大写本、在宅者援助活動などの組織を順次立ち上げ、近年ではスポーツ介助、パソコンサポート、デジタル録音図書編集など時代の要請を受けて、次々と新たな活動に取り組んできました。ライトセンターを拠点に幅広い活動を展開する神奈川県視覚障害援助赤十字奉仕団(団員・約800人)は、ライトセンター事業の大きな原動力となってきました。いわゆるバブル崩壊後は、数年にわたって事業費が削減されましたが、むしろ図書館としての事業実績は伸ばし続けてきました。ここに事業を支えるボランティアの大きな力があります。

  


視覚障害者用録音図書(カセットとCD)  

<1冊の本を録音図書にすると、テープの場合複数になりますが、最近利用の増えている視覚障害者用デジタル録音図書(CD)では、データ圧縮技術の応用で多くの場合はCD1枚に収まります。写真の「ワインコンパニオン」の場合は、カセットテープにすると1冊が全34巻になりますが、CD1枚に収まっています。>

 平成22年度は5年間の指定管理期間最終年度となります。ライトセンター事業に不可欠なボランティアは、長い年月をかけて現在のように全国に誇れる活動に発展してきました。一朝一夕にはボランティア活動と点字図書館事業を安定的に行うことはできません。利用者のことを考えると、次の5年間の指定管理も我々が受けなければならないという大きな使命感があります。そのためには、現状にとどまることは許されず、時代の流れを的確に捉えて、神奈川県ライトセンター事業をさらに前進させます。力強いパートナーであるボランティアと共に。