協会報(~239号)

神奈川県立公文書館の陸前高田市被災公文書レスキューへの取り組み

2012年3月23日 14時27分 [管理者]
神奈川県立公文書館の陸前高田市
被災公文書レスキューへの取り組み  


神奈川県立公文書館(被災公文書レスキュー隊リーダー)
木本 洋祐


1.始動に至る経緯
  今回の東日本大震災において、アーカイブズ機関による被災公文書(行政文書)のレスキューは、5月初頭の国文学研究資料館による釜石市に対する支援を嚆矢として、群馬県立文書館(女川町)、国立公文書館(宮古市)とその環を広げていきました。当神奈川県立公文書館は、6月の全国公文書館長会議後から下元館長のリーダーシップの下、被災した歴史資料・公文書の救済要請等の活動を始めていた全史料協(全国歴史資料保存利用機関連絡協議会)や陸前高田市市議会文書の修復支援に動き出していた法政大学・サステイナビリティ研究教育機構の動きにジョイントし連携する形で同市の被災公文書レスキューに参入することとし、緊急雇用基金からの予算を得て10/1から実質的な活動を開始する運びとなりました。

2.レスキュー事業の内容
  編成されたレスキュー隊は10/18~21に陸前高田市を訪れ、第一次のレスキュー対象となる400冊の被災公文書(永年保存の簿冊)を搬出しました。同時に7か月を経てもなお津波の爪痕が生々しく残る市庁舎も視察し、復興への一助となるべくレスキュー事業に携わる決意を新たにしました。
  当公文書館内に設けられたレスキュー室で10/25から開始された作業は、対象となる簿冊の劣化状態をチェックし、標題やサイズなどの基本的な属性とともに「カルテ」に記録すること(簿冊1冊につき1枚作成)から始まりました。
  また、修復作業に先立ち、どのようなレベルを目指して修復するのか、具体的にどのような作業を重点的に行うのかに関する「仕上がり規準」を明文化し、陸前高田市や公文書館、レスキュー隊員の間でイメージを共有することとしました。
  すなわち、目標を“行政実務の現場で「使える」文書としての機能回復”とし、重点方策(処置内容)を、①内容情報の保全、②長期保存を阻害する要因の除去・抑制、③利便性(利用・保管)の確保、としました。具体的には、①については、ページが可能な限りめくれること〔ページ固着の解消〕、記載情報が可能な限り判読できること〔土砂、カビ痕、錆等による汚れの除去〕。②については、乾燥状態の達成、活性化しているカビの除去・殺菌、錆の原因となる金属部品の除去。③については、表紙・標題の復元、保管を考慮した処置〔容器収納等〕としています。
  これらの実施においては、資料保存修復の原則(原形保存、可逆性、安全性、記録)を念頭に置くことは言うまでもありません。
  さらには、今後も繰り返されるであろう大きな自然災害で蒙る被害の最小化や迅速な復旧へ向けた危機管理のノウハウを蓄積することも今回のレスキュー事業の成果にしたいと考えています。
  また「人」と「資料」の安全を図るべく、作業環境はスタッフメンバーの健康・安全を第一に考え、防塵マスク、手袋、ゴーグル等の着用は勿論のこと、集塵機2台を導入して作業に当るとともに、文書を保管する場所の温・湿度をチェックし、カビの増殖を防ぐことに腐心しています。

3.日々の作業で思うこと
  「記録を守り記憶を伝える」使命を担うアーカイブズ機関が、ダメージを受けた公文書を長期保存できる状態に復旧するレスキュー事業に積極的に関与することは正しく本来的なミッションと言えます。今回当館で担うレスキューは、陸前高田市職員、職員OB、緊急雇用された地元市民の方々、全史料協のメンバーなどが地道に続けた乾燥作業を受けて行うものに他ならず、相互連携の一つの環を成す活動と言えます。我々レスキュー隊はその環の一つを担っている責任を感じながら日々の作業に当たっています。壊滅的な被害を受けた陸前高田市が以前のような街並みを取り戻し人々の行き交う活気ある街として復興を遂げるプロセスに微力ながらも寄与することができれば幸いです。