協会報(~239号)

広域利用の課題

2012年3月15日 10時32分 [管理者]
県内全域利用推進特別委員会
●広域利用の課題


1 はじめに
 本県における広域利用は、11地区35市町村で実施されている。本協会内に、県全域での広域利用の実現を検討すべく、平成13年度に「県内全域利用推進特別委員会」が設置された。
 本委員会では、平成13年度末にアンケート調査を県内37市町村に対して実施し、その結果を参考にしつつ、広域利用の現状や県内全域の広域利用の可能性等について検討をかさねてきた。今回報告書を刊行するはこびとなったので、その概要を紹介したい。

2 県内広域利用の現状
 広域利用を実施している市町村に対し、全登録者数にしめる広域利用による市外の登録者数の割合が15%以上の場合を登録者が多いとみなし、15%未満の場合を少ないとみなして、その理由をたずねてみた。
 その結果、利用の多い図書館には、交通の便がよいこと、蔵書量が多いこと、のような特徴があり、利用の少ない図書館は、その反対であることがわかった。
 さらに、広域利用の問題点を問うたところ、蔵書量の多い図書館の負担になる、もよりの図書館に返却できない、自館の蔵書構築をおろそかにして他館まかせになる、というような結果を得た。
 一方、広域利用を実施していない館にその理由をたずねたところ、蔵書量の多い図書館の負担になる、市内の利用者サービスが先決、と回答しており、先の回答と同回答、ないしは裏返した回答となっている。
 以上の結果をまとめると、広域利用に際しては、次のような問題点がうきぼりになった。
○ 交通の便がよく、蔵書量の多い図書館に利用が集中する。
○ 蔵書量の多い図書館の負担が増えている。
○ 規模の小さい図書館が自助努力をしないで、規模の大きい図書館まかせになっている。
 広域利用にあたっては、いかに大規模図書館への利用の集中を緩和させつつ実施するかが、問われている。


3 県内全域広域利用の実現性
 全県下の広域利用の必要性について問うたところ、26の市町村が必要と回答し、不必要と回答した市町村は11であった。
 必要と回答した市町村にその理由をたずねると、そのおもな理由として、1館では利用者の要求に対応できない、利用者のサービスの向上になる、と回答している。
 また、不必要と回答した市町村にその理由をたずねると、そのおもな理由として、WANTEDでまにあう、広域利用は近隣市町村との利用が主であり、県域にひろげてもあまり効果がない、利用の多い図書館の業務量の負担になる、等の回答があった。
 全域広域利用をめざす以上、全市町村の賛同が望ましい。しかし11の市町村が不必要と回答しており、また、広域利用への取り組み方や全域利用への効果への期待などに差異がある。その上、大規模館への利用が集中するという懸念が解消されない現状では、すぐに実施するというのがむずかしい状況にあると思われる。
 一方、広域利用が必要であると回答した市町村は26におよび、全県領域の広域利用への期待も大きいものがある。全県下の広域利用が必要と回答している理由に、一館では利用者の要求に対応できない、利用者サービスの向上になる、をあげている市町村が多い。図書館が協力して利用者の多様な要求に対応することは必要なことであり、将来には実現すべき課題であると考えるものである。

4 実施する上での諸課題
 全県下の広域利用が必要であると回答した自治体には、実施するに際しての「資料の返却」、「共通利用カード」、「協定等の整備」等の諸課題についても、あわせて質問した。これらの主な課題について、以下述べてみたい。  

(1)資料の返却について
 広域利用によって借りた資料の返却についても問うてみたところ、37中36市町村が貸出をうけた館に返却をする、と回答している。
 もよりの図書館に返却できれば便利ではあるが、紛失等の事故が発生したときの責任の所在がはっきりしない。返却館から貸出館までの搬送に時間がかかる。なによりも、これらの業務がコンピュータで処理ができない等の問題がある。しかし利用者にとっては、便利なことであり、将来には実現すべき課題であると考える。
(2)共通利用カードについて
 共通利用カードについては、多くの市町村が必要ない、と回答している。
 共通利用カードを実現する方法には、利用者情報を一カ所に集中管理する方法と、各図書館で利用者情報を重複して入力する方法が考えられる。前者の場合には、あらたにコンピュータ開発をする必要があり、また後者のときには、重複して入力してまでして利用カードを共通にするメリットがあるのかどうか。
 しかし利用者が利用する図書館ごとの図書館カードを保持することはなかなか面倒なことである。全市町村が参加している状況ではないが、平成14年には「住基ネット」が稼動した。
 「住基ネット」を利用するという方法も考えられるので、これらの動向を視野にいれつつ検討していくことが必要であろう。
(3)協定等の整備について
 広域利用を実施するにあたり、条例や規則、協定等の整備の方法についても問うてみた。その結果は、市町村間で協定を締結するが一番多く、つづいて、個々の自治体で要綱に基づき実施する、個々の自治体で条例を定める、の順になっている。
 条例による一律・画一的な規制にたいし、協定では条例で定めにくい事項について、当事者間で内容を定めることができる。一方要綱は、行政を運営していくうえでの内部的な指針、行政を統一的に行ううえでの目安という性格をもっている。実務の処理上は要綱のほうがやりやすい。しかし協定の方が要綱に基づく行政指導に比べると、書面に義務の履行が規定されているなど効果の点で安心度が高い。したがって各自治体のエリアを超えた形のサービスである広域利用については、協定に基づくのが原則的には望ましいと考える。
(4)物流について
 搬送の方法については、現在の協力車・宅配便で搬送するという回答が圧倒的で、依頼館と提供館で直接搬送すると回答した市町村は0であった。
 物流については、予約の方法や資料返却の方法ともあわせて検討して、県と市町村が協調して、よりよいネットワークを追求していく必要があろう。

6 横断検索
 インターネットにOPACを公開している市町村が11あった。そのほとんどが横断検索に参加すると回答している。また、今後OPACを公開すると予定している市町村が13あり、質問では横断検索の参加については問うていないが、参加すると仮定すると、すでに参加すると表明している市町村とあわせると24になる。
 本県においてはWANTEDによる図書館間の相互貸借が実施されてきた。これは電子掲示板により借用を希望する図書館が図書資料を提供する図書館をつのるもので、提供するか否かは、提供館の判断による。提供館の主体性が保たれるシステムであった。その反面、提供されるかどうかはっきりしない、提供に時間がかかる、所蔵調査に時間がかかる、等のマイナス面も指摘されている。
 一方、横断検索の場合には、所蔵館がわかるのでWANTEDのマイナス面は克服されるが、大規模な所蔵館に予約が集中する恐れがある。特定館に予約が集中しないように、予約の方法について一定のルールを設ける必要がある、とほとんどの市町村が回答している。
 なお、12市町村がOPACを公開しないと回答している。これらは電算化していてもOPACを公開しないか、あるいは電算化にいたらない市町村である。図書館のネットワークは、県内の全市町村が参加し、協力していくことに意味がある。これらの市町村が参加できるシステムを構築していくことが必要である。

7 まとめ
 生涯学習時代を迎え、図書館の利用は飛躍的に増大している。しかし、厳しい財政逼迫に直面している。各図書館とも資料購入費が大幅に削減されており、他の図書館への相互貸借への依存が大きくなってきている。その一方で、自館の市(町村)民サービスを維持していくのも厳しい状況にあり、したがって相互協力にはなかなか応じられない情勢になってきている。全県下の広域利用を実現するにはなかなか困難な状況にある。
 本委員会の結論としては、ただちに全県の広域利用を実施する、という結論にはいたらなかったけれども、各市町村の意向は確認することができた。将来、実現する際には、今回の成果を参考にして検討してほしいと希望するものである。

<委員長 平塚市中央図書館長 青木健一>