協会報(~239号)

職員研修会報告 「指定管理者制度」を考える

2012年3月19日 10時39分 [管理者]
● 職員研修会報告
「指定管理者制度」を考える


平成15年、地方自治法が改正され、指定管理者制度が導入された(平成15年9月2日施行)。それまでも、公の施設の管理については管理委託制度があり、外部の団体に管理を行わせることができた。しかし、管理委託制度では管理の主体が公共団体(土地改良区など)、公共的団体(農協、生協など)、及び地方公共団体の出資法人のうち一定要件を満たすものに限られていたが、指定管理者制度では管理の主体に制約はなくなり、株式会社などの民間事業者も管理を行えることとなった。この指定管理者制度の導入は、地方分権改革推進会議の「事務・事業の在り方に関する意見-自主・自立の地域社会をめざして-」や総合規制改革会議の「規制改革の推進に関する第2次答申―経済活性化のために重点的に推進すべき規制改革―」における「公の施設の管理受託者の範囲を、民間事業者まで拡大する」旨の提言を受けたものである。

≪指定管理者制度の概要≫


 地方自治法第244条の2第3項は「普通地方公共団体は、公の施設の設置の目的を効果的に達成するため必要があると認めるときは、条例の定めるところにより、法人その他の団体であつて当該普通地方公共団体が指定するもの(以下本条及び第244条の4において「指定管理者」という。)に、当該公の施設の管理を行わせることができる。」と規定しているが、これが指定管理者制度の中核的な規定である。

 まず、「公の施設」とは、地方自治法第244条第1項が規定するように「住民の福祉を増進する目的をもつてその利用に供するための施設」であり、図書館だけでなく、博物館や体育施設、福祉施設、病院等も含まれる。指定管理者制度は、図書館だけでなく、これら公の施設に関する制度である。次に、「公の施設の設置の目的を効果的に達成するため必要があると認めた」とあるが、これは公の施設の管理を指定管理者に行わせることにより、地方公共団体が自ら管理するよりも一層向上したサービスを住民が享受することになるために、地方公共団体が必要であると判断したということであり、指定管理者制度は地方公共団体の判断によって適用される制度である。また、「法人その他の団体」に管理を行わせることができるとあるが、管理を行う主体について制約がなくなったことが、従来の管理委託制度と指定管理者制度との大きな違いである。

 「条例で定めるところにより」については、同法244条の2第4項が具体的に規定しており、「前項の条例には、指定管理者の指定の手続、指定管理者が行う管理の基準及び業務の範囲その他必要な事項を定めるものとする。」としている。「指定管理者の指定の手続」では、申請の方法や選定基準などを定める。この点、総務省通知では、申請については、複数の申請者に事業計画書を提出させることが、選定基準については、(1)住民の平等利用が確保されること、(2)事業計画の内容が施設の効用を最大限に発揮するとともに管理経費の縮減が図れるものであること、(3)事業計画書に沿った管理を安定して行う物的能力、人的能力を有していることを定めておくことが望ましいとされている。次に、「指定管理者が行う管理の基準」では、休館日や開館時間などの住民の利用条件や、個人情報保護など公の施設の適正な管理の観点から必要不可欠な業務運営の基本的事項を定める。また、「業務の範囲」については、指定管理者が行う業務の範囲を各施設の目的や態様、地域の実情等に応じて定める。指定管理者制度では、施設の使用許可を指定管理者に行わせることもできるので、その場合には、施設の使用許可を指定管理者が行う業務の範囲として条例で規定することとなる。

 同法244条の2第5項には「指定管理者の指定は、期間を定めて行うものとする」とある。色々な施設の例を見ると3年から5年が多いように思われるが、山梨県山中湖村の図書館の例では3年である。

 同法244条の2第6項には「普通地方公共団体は、指定管理者の指定をしようとするときは、あらかじめ、当該普通地方公共団体の議会の議決を経なければならない。」とある。議決すべき事項は、施設の名称、指定管理者となる団体の名称、指定の期間等である。指定管理者に支出する費用の額など細目的事項については、地方公共団体と指定管理者の間の協議により定めることとし、別途協定などを締結することが適当である。

 指定管理者制度を適用した場合の公の施設の管理の適正を期すため、同法244条の2第7項は「指定管理者は、毎年終了後、その管理する公の施設の管理の業務に関し事業報告書を作成し、当該公の施設を設置する普通地方公共団体に提出しなければならない。」として指定管理者に事業報告書の提出を義務付け、同条第10項は「普通地方公共団体の長又は委員会は、指定管理者の管理する公の施設の管理の適正を期するため、指定管理者に対して、当該管理の業務又は経理の状況に関し報告を求め、実地について調査し、又は必要な指示をすることができる。」として、指定管理者に対する報告要求、実地調査、指示について規定している。その上で、同条第11項は「普通地方公共団体は、指定管理者が前項の指示に従わないときその他当該指定管理者による管理を継続することが適当でないと認めるときは、その指定を取り消し、又は期間を定めて管理の業務の全部又は一部の停止を命ずることができる。」として、その実効性を担保している。指定管理者との協定で業務停止期間中の経費の返還について定めている例もある。

 同法244条の2第8項及び第9項は、指定管理者が収入として収受する利用料金について定めている。ただし、公立図書館については、図書館法第17条が無料公開原則を定めており、入館料等の図書館資料の利用に対する対価の徴収が禁じられていることに注意する必要がある。

 その他、指定管理者制度の適用の場合に限ったことではないが、個人情報の取扱いについては特に留意が必要である。指定管理者との協定において個人情報が記載された資料の複写の禁止や、業務従事者が個人情報を漏洩した場合には、業務従事者とともに指定管理者が個人情報保護条例違反として罰せられる旨を定めている例がある。

≪図書館における指定管理者制度の適用≫

 図書館については、指定管理者制度を適用し、株式会社やNPO法人など民間事業者にも館長業務を含め全面的に管理を行わせることができる。また、館長業務を含め指定管理者に管理を行わせることとした場合、指定管理者は館長を置かなければならないが(図書館法第13条)、その館長は公務員ではないため、教育委員会の任命権の対象とはならず、したがって教育委員会による任命は必要ない(館長以外の職員についても同様である。)。
 なお、図書館における指定管理者制度の適用に当たっての留意点として、「今後の生涯学習の振興方策について(審議経過の報告)」(中央教育審議会生涯学習分科会・平成16年3月29日)は、「責任の所在の明確化や専門的な知識・技術の蓄積、職員の研修の実施、設置者と住民による点検・評価」を挙げている。指定管理者制度の適用に当たっては、これらの点についても地方公共団体でよく検討する必要がある。

≪質疑応答≫

 会場から出た質問と回答は次の通りである。

質問:現在、図書館の現場では正規職員が減っている中で、指定管理者制度の導入をした場合、自治体に図書館のノウハウを有する人がいなくなってしまう。点検・評価をできる人もいなくなってしまうと思うが、点検・評価にはどのように対応したらよいのか。

回答:教育委員会の職員がいなくなるということではなく、図書館のことが分かる人が全くいなくなってしまうということはないと思うが、例えば外部の有識者に評価を依頼するということも考えられる。

質問:指定管理者制度と業務委託との違いは何か。

回答:指定管理者制度では、入館許可など施設の使用許可を指定管理者に行わせることができるが、業務委託ではできない。業務委託は、民法上の契約であり、業務が適切に行われなければ民法上の解約や損害賠償等ということになるが、指定管理者制度では、指定管理者に対して報告を求め、調査や指示を行うことができるとともに、指定の取消などが法律により定められている。

質問:指定管理者制度を適用した場合、館長は教育委員会が任命しなくてもよいとのことであるが、その館長は、外の会議で他の館長と同様に発言することは可能なのか。

回答:会議の主催者の認識の問題ではあると思うが、指定管理者を適用した場合であっても、図書館の館長であることにかわりはなく、会議でも他の館長と同じに扱われるべきものと考える。

質問:図書館においては入館料は徴収できないわけであるが、図書館ではどのような利用料金が想定できるか。

回答:会議室や研修施設の利用については利用料金の設定も考えられる。また、博物館ではミュージアム・ショップや喫茶店に利用料金を設定している例があるので、図書館でも考えられるのではないか。

質問:保育所では、業者がノウハウの秘匿を理由に昼寝の様子以外は業務状況の公開を拒んだという事例がある。このようなことは可能なのか。


回答:業者が誰に対して公開を拒んだのか承知しないが、指定管理者制度においては指定管理者に対する実地調査が認められているので、地方公共団体に対して業務状況の公開を拒むことはできない。
(注)本稿は、平成16年12月10日に実施された神奈川県図書館協会第7回職員研修の講演「図書館と指定管理者制度」(講師、文部科学省生涯学習政策局社会教育課法規係長石丸成人氏)の内容をまとめたものである。

<研修委員会>