フォーラム「公共図書館が生き残るには」報告
2012年3月19日 12時32分 [管理者]研修委員会は、第6回職員研修として、「公共図書館が生き残るには―指定管理者制度時代をむかえて―」のテーマで、筑波大学大学院教授 薬袋秀樹氏を講師に、フォーラムを開催しました。
当日申込を含め236名が参加希望し、実質受講者数は209名、うち会員は83名参加しました。
講演内容は、まず指定管理者制度の本質についての解説により受講者に基礎的な知識を与え、その上で制度利用による長所・短所を様々な文献をも用いて紹介されました。特に図書館に関係する短所として、民間組織であるがゆえの行政との意思疎通の困難さ、業務内容が契約時点で限定されているため新しいニーズへの対応が困難であること、サービスが量によって測られ質的評価が困難であること等が挙げられ、結果として「司書」が低賃金労働者化し、短期間での交代が激しくなることで経験の蓄積が必要である専門的サービスを担えなくなるという予測がなされました。また、制度制定の際に国が詳細な通知やひな型の提示を行わなかったため、自治体の政策法務能力の格差により条例・指針のレベルに差が生じているという問題が指摘されました。
一方で、指定管理者の中でも「公共施設の指定管理者にふさわしい人物」について「施設のビジネスプランを作成、実行、評価できる」「施設のステイクホルダーを理解し、高いコミュニケーションスキルを有し、全員の利益の最大化を考慮できる」等の条件を検討されており、裏を返せば、公共図書館で働く公務員は当然それらの能力を備えている必要があるという厳しい指摘もありました。
その上で、多くの自治体で指定管理者制度導入が検討される今、自治体直営の継続を願う図書館が行うべきこととして、「直営でなければ達成困難な政策目的を明示する」「直営のサービスに対する広範囲な市民の支持を得る」「直営の高いコストの削減に努める」「改革案を対置する」という対応策が示され、仕事の質とコストで民間と競う必要性が説かれました。
公共図書館が今後力を入れて行うべき具体的業務としては、「レファレンスサービス」及び「地域支援サービス」が提示されました。「レファレンスサービス」は、図書館の入り口に近い場所に相談デスクを置き司書・ベテラン職員が専念すること、各フロアに相談デスクを設けること、雑誌記事索引の案内を徹底して国立国会図書館からの取り寄せを行うこと等が挙げられ、「地域支援サービス」では、地域の広範な機関・団体発行の各種チラシ・パンフレットの展示・配布、他機関主催セミナー・講座等の図書館共催や会場提供、関係機関・団体を通じたPR等が挙げられました。これらのサービスを上手く行っている例として、高校・大学、国・地方自治体関係機関との連携やタイアップ事業を積極的に行っている、比較的恵まれた立場にある鳥取県立図書館の事例と、自ら「ないないづくし」といいながらレファレンスデスクやテーマコーナーの設置、地域関係新聞記事データベース作成・発信等の、小規模館で手が届く範囲で活発なサービス展開をしている伊奈町立図書館の事例が紹介されました。
まとめとして、図書館法第2条にも「教養、調査研究、レクリエーション等に資することを目的とする」とあるように、規模の大小に関係なく全ての図書館で調査研究への援助(レファレンスサービス)が必要であること、そして調査研究には単行本に比べ内容がより新しく、文献数・著者数が多く範囲が広い雑誌記事が不可欠であること、雑誌記事索引と国立国会図書館のコピーサービスを利用した雑誌記事の提供のためにはインターネットの利用が不可欠であることが強調されました。
最後に、研修参加者と他の職員との意識のずれが新しい活動への足かせになりがちな現状を踏まえ、職員全員が同じく研修を受講できるよう新任図書館長研修の録画ビデオの活用(県立図書館も所蔵しています。視聴覚部業務課にお問合せください)と、名刺の裏に「市民の皆さんに宣言!」が印刷された横浜市の例を挙げ、自治体職員の姿勢を明確にすることを提言され、質疑応答を経て1時間半に亘るフォーラムが終了しました。
<研修委員 県立図書館 瀬戸 清香>
<写真:総合展フォーラム[299KB]>