協会報(~239号)

神図協小史点描(27)

2012年3月19日 13時25分 [管理者]
神図協小史点描(27)

会友(元県立図書館) 池田 政弘

 神奈川県図書館情報ネットワークシステム(KL-NET)の稼動へ
 神奈川県図書館協会創立60周年記念大会において、県立図書館は業務電算化についての概要「図書館情報ネットワークシステム」を発表した。この直後から、神奈川県立図書館・川崎図書館のシステムへの書誌データ入力作業が計画的に進められていくことになる。
 平成2(1990)年4月、神奈川県図書館情報ネットワーク・システム(KL-NET)は一部稼動し、県立2館の所蔵情報の検索を始めとして、WANTED、貸出予約などが可能になった。ただし、この時点では、県立2館のデータは40%しか入力されていない状況で、全データ入力は平成4(1992)年まで、待たねばならなかった。この年、ネットワークユーザーは69施設となっていた。
 ネットワークユーザーの増加に伴い、KL-NETによるWANTEDは、市町村図書館間の貸借ルートがより整備された。入手をあきらめていた資料なども提供できるようになった。こうした情報検索の充実は、図書館の電算化が進められた結果であった。
 協会の「ネットワーク研究委員会」では、平成2年に「神奈川の図書館ネットワーク構築に関する現状と課題」の報告書をまとめた。
 内容は、県内図書館を対象に平成元(1989)年12月に行われたアンケート調査による中間報告をもとに、県立図書館情報ネットワーク・資料の搬送・資料収集及び提供・資料保存について、提言の分析、検討を行った。さらに、複雑化する社会情勢に図書館はどのように対応していったらよいのかと自問自答し、自館のみの努力で利用者の要求に応えたり、問題解決にあたるのは不可能に近いと結論づけ、図書館の協力関係が重要であると強調した。
 その後、平成5(1993)年には「神奈川の図書館ネットワークの現状と近い将来可能なこと」の報告書をまとめた。これは、県内図書館の現状把握と異館種間でのネットワークを進める上での一つの到達点と方法を示しているものでもあった。
 県立図書館では、このような報告書の趣旨に沿って、内容の実現に向けて更なる取り組みをしていったといえよう。
 昭和63(1988)年3月に神奈川県立2図書館将来方向検討会議(主管生涯学習課)から「神奈川県立2図書館の将来方向について」の報告書が提出された。その中で示されている県立2図書館の持つべき機能、「資料センター機能」「情報センター機能」「支援協力センター機能」の実現に向けて「KL-NET」は、県内市町村図書館のバックアップのもとに稼動していくことになる。
  
協会委員会の活動
 この間、協会は電算システムにシフトした動きが中心的であったが、それ以外にも動きがあったことを見逃してはならない。
 郷土資料編集委員会では、神奈川県郷土資料集成12輯として「相模国鎌倉郡村誌」(皇国地誌)の翻刻を進めていた。
 「皇国地誌」は、明治11(1878)年の郡区町村編成法にもとづいて記録されたものである。発見された一部を「残稿」としてまとめた「神奈川県皇国地誌残稿」(上下2巻 昭和38~39(1963~1964)年)が刊行されていた。
「相模国鎌倉郡村誌」は、大正11(1922)年9月1日の関東大震災のため烏有に帰したとされていた
が、その後の調査で、東京大学附属図書館に一部保存されていたことが判明し、翻刻したのである。この本には現在の横浜市の一部、藤沢市の一部そして鎌倉市の地誌がおさめられている。これは近代の町、村の様子をうかがい知る一級資料であった。
 刊行は平成3年1月だったが、「部数、価格等が破格であったため売れども印刷代金まで届かず焦った。県立図書館ではほぼ全(職)員が(個人的に)購入し、事務局員等が鞄に詰めて売り歩いた(『神奈川県図書館沿革略年譜稿Ⅱ』)」。ともあれ、協会としての大きな事業が達成されたわけだが、それは県内図書館の協力協同があればこそ、であった。
 一方、児童奉仕研究委員会では、設置されてから『神奈川県公共図書館所蔵児童用郷土資料目録(昭和56年)』『こどもの質問に答えるために(昭和63年)』『学校及び学校図書館と公共図書館の連携について(平成3年)』『絵本の題材・テーマ別目録(平成5年)』『図書館でいろいろやっているよ-児童向け行事アンケート調査報告(平成7年)』等、そのときどきの時代に即しながら、様々な角度から図書館における児童サービスのあり方、取り組み、実践例をまとめていった。
 協会は文字通り、図書館の協力を大前提とし協力の実行によって成し遂げられたものである。電算援用の協同態勢、各委員会の活動等とは、こうした結びつきの結果からもたらされたものであったと認めることができる。
 協会の結成以来のさまざまな協力の型が、今時代に即応した形で新たな展開をみせたということもできるのではないだろうか。