デジタルアーカイブによる地域資料の公開
2012年3月19日 14時32分 [管理者] 県立図書館 地域資料課 森 あかね
神奈川県立図書館では開館以来、神奈川県に関係する浮世絵や絵図などを地域資料として収集しており、現在かながわ資料室が所管しています。これらの資料の活用を図るため、2005年4月に鎌倉・江ノ島関係の浮世絵23点をデジタルアーカイブとして試行的に公開しました。これに続き9月13日からは「横浜絵・開化絵の世界」と題し、当館が所蔵する横浜絵・開化絵82点を公開しています。
横浜絵・開化絵とは、浮世絵の1ジャンルで、明治期の新世相・新風俗を伝えたものです。当時の社会の様子を伝える写真ジャーナリズムともいえる貴重な歴史的資料でもあります。
公開に向けた作業は全て県立図書館職員の手により、以下のような流れで行われました。
① テーマの決定
② 公開する作品の選定
③ 書誌データと作品の照合・確認
④ 作品のデジタル化
⑤ デジタル画像の加工・整理
⑥ 公開Webページのレイアウト・構成決定
⑦ Webページの作成
⑧ 公開
公開された情報は、デジタル画像と書誌事項が中心ですが、その準備には、横浜絵や開化絵とはどのようなものか、どの作品が含まれるか、横浜絵を代表する作者について等々、横浜絵・開化絵に関する知識が求められます。このため作業の①~②では、文献等による準備調査を行いました。また③では、一点一点現物を見ながらの確認が必要で、時間のかかる丁寧な作業が求められました。これらの準備調査は手間と時間を要するものですが、デジタルアーカイブを支える骨組みになるものとして、欠かせない作業です。
④以降の作業は専ら技術的なものになりますが、Webページ作成について知識や経験のある職員がいないうえ、設備の面でも、日常業務で使用しているパソコンやスキャナーによる手探りの作業で、予想以上に時間を要した部分もありました。
今回の作業の経験を、今後のデジタルアーカイブ作成に生かし、より効率的かつ効果的な作業に繋げたいところです。
今回の横浜絵・開化絵の公開は、貴重資料をより多くの方々に見ていただくことを目的としてい
ます。同時に、所蔵していること自体があまり知られていない資料の活用により、図書館の持つ資料に対する潜在的な期待が高まることが予想され、図書館PRの効果も期待されます。
また、浮世絵のような歴史的資料については、利用と保存の相反する問題を常に内包しています。これらの資料をデジタル化し公開することにより、必要以上の現物の利用を避けつつより多くの利用者の目に触れられるという点で、資料保存の観点からもデジタルアーカイブとしての公開は意義のあるものと考えています。
しかし別の側面からみると、博物館や美術館あるいは公文書館などの類縁機関が公開するデジタルアーカイブとの差別化という問題があります。これについては、あらゆる主題の資料を体系的に収集し、組織化・蓄積してきた図書館の特長を生かしたコンテンツの作成を模索していく必要があると思われます。また、図書館作成のデジタルアーカイブは他機関作成のものに比べて目録導入率が高いとする調査結果や、デジタルアーカイブがOPACから学べる点について指摘した論文など(「デジタルアーカイブ白書2005」 デジタルアーカイブ推進協議会 2005)は興味深いものです。更に、デジタルアーカイブをきっかけとして発展的な学習を求める利用者に対して、幅広い情報を提供していくことも図書館に求められるものと言えます。
神奈川県立図書館では、より充実したデジタルアーカイブ構築を目指して模索を続けつつ、新たなコンテンツを公開していく予定です。