協会報(~239号)

神図協小史点描(26)

2012年3月19日 14時43分 [管理者]
● 神図協小史点描(26)

ネットワークの要としての協力事業へ

 神奈川県立図書館は、県内を巡回サービスしていた自動車文庫事業を廃止し、市町村図書館を支援するための協力事業全般へと転換していくことになった。これに伴う組織の改革を実行し、担当するセクションとして協力課が設置された。
 これにより、従来の自動車文庫事業による図書館振興と読書普及活動とは基本的に異なるサービスを展開していくことになるのである。大きくいえば時代への対応という一面もあり、県と市町村図書館の役割の見直しの結果でもあった。
 前号で、県立図書館の、市町村図書館の職員間を結ぶための情報誌「こあ」について略述したが、利用者(県民)の資料要求と資料提供をひとつの図書館だけの対応ではなく、県内全域の公共図書館によるバックアップ体制へとより明確に方向づけることになる。
 このもっとも大きな事業が、県立図書館による「WANTED」(この本探しています)の創刊であったが、協力課の設置による発行回数の増大が特筆されてよい。
「WANTED」は昭和55(1980)年に手書きにより発行された。県立図書館未所蔵資料を要求館に提供するため、所蔵館を探すツールとして作成されたものである。資料的要求に応えていくことは図書館本来の事業であるが、このことが実質的に深められたのである。
当初の掲載冊数は、年間わずか百数十冊であったが、昭和59年(1984)年度からの本格的取り組みによって、この年千数百冊となった。以後毎年千冊近くも増加していった。住民の資料要求は潜在化していたのである。
そして、協力事業の強化拡充により、県内図書館の広域利用、相互協力が次第に図書館ネットワークの定着・形成確立へとつながっていった。
このような動きは、県立図書館が30年にわたり継続してきた自動車文庫の廃止によって、加速的に増大するのである。この背景には「協会」が昭和3(1928)年の発足以来掲げてきた図書館振興への努力累積があったと思われる。新たな時代への新たな成果が芽生えたといっていいであろう。
 情報検索としての図書館の電算化図書館の電算化は、「市民の図書館」が住民に受け入れられることによって、急激に増加していく「貸出量」に対処するために導入されたものであった。それが、情報処理技術の飛躍的発達による「情報」処理のための図書館の電算化に変わり書誌データや抄録などを検索していくための機能に変化していく。
 それは、ひとつの図書館では不可能な、利用者の多様な要求に応える資料を提供できるようになることを意味していた。しかしながら、県内公共図書館の網羅的なネットワーク化、いわば図書館のもつ力の発揮には準備期間が必要であった。
昭和52(1977)年に神奈川では長洲知事が誕生し、県職員の提案制度というものがあった。県立図書館の一職員が「業務電算化」の提案を行い、それをきっかけとして長足の進歩をあげていくことになる。ここに至って、急速に「電算化」への動きが始まった。そして昭和63(1983)年度を初年度として県立2館の電算化計画が認められ、4月以降電算化のための機種選定、所蔵資料入力準備等が始められた。図書館の機械化は、常に社会の動きに遅れる。
11月に協会創立60周年記念大会が、県政総合センター(現県民サポートセンター)で開催された。
 関西から図書館界の重鎮森耕一氏を迎えて「現代図書館と市民生活」と題した記念講演が行われ、同時に「神奈川の図書館情報ネットワーク」をテーマに掲げた研究発表大会が行われた。
 パネリストには沖村栄(県立)坪内哲雄(鎌倉)三沢延行(東海大)の三氏が登壇した。
 県立図書館の沖村は「神奈川県図書館情報ネットワークシステム」の概要を発表した。そしてそのときのことを10年後の協会70周年記念の年譜に「参加者から『県のシステム開発にあたって市町村からプロジェクトチームの一員として参画させる必要があるのではないか』との意見が出された。(略)確かに県独自で開発したシステムが結果的に市町村のニーズに合致したとしても、その開発に当たってのプロセスに意義があったのである。県と市町村が汗を流して構築・完成させたシステムは神奈川県図書館界の宝でもあったのである。この意見は実際には採用されなかったが、今でも狼狽して回答している自分の姿が思い出される」と記している。
 この指摘は「協会」の委員会に反映され、翌年4月にネットワーク研究委員会(委員長関根達雄藤沢市総合市民図書館長)が発足し、県立の図書館電算化への具体化のバックアップとなっていくのである。
 こうして、この周辺の協力の動きの時間的経緯をたどってみると、図書館が図書館としてあるために思考(試行)し、それを実践に移してきた多くの局面をかかえながら、ステップを踏んできたことがわかる。そしてそれは更に次へのステップに至る端緒でもあったと見ることができるのではないか。それは、新しい図書館の誕生であり、一層深化が求められることになり、課題もまた累積されたのである。

<会友(元神奈川県立図書館) 池田 政弘>