協会報(~239号)

これからの図書館員の課題とは

2012年3月19日 15時21分 [管理者]
★これからの図書館員の課題とは ~県立図書館との相互協力を始めて~
 
 神奈川大学図書館 吉田 隆

はじめに

  2006年4月から神奈川県立図書館と神奈川大学図書館との相互協力がはじまった(鶴見大学図書館も同時期に開始、横浜国立大学附属図書館は県立川崎図書館と相互協力を行っている)。毎週金曜の便で資料の貸借が行われており、県立図書館からの2006年4月から9月までの「県立図書館と大学との連携 相互貸借実績(平成18年度)」によれば、①県立図書館から神奈川大学図書館の借受11冊②神奈川大学図書館から県立図書館への貸出2冊(鶴見大学図書館①7冊②2冊・横浜国立大学附属図書館①56冊②4冊)となっているから、我々の相互協力は、緩やかに経過している。神奈川大学図書館は、メンバーシップ制度(図書館ホームページをご覧下さい)で県内外の社会人・本学卒業生・本学退職者・専門学校生・高校生(含む神大附属中高)に図書館を開放し、また情報リテラシー・データベースセミナー、映画『HAZAN』『アダン』などで知られる五十嵐匠監督作品シリーズ等、講演と上映会を企画して学内外に公開してきた。また図書館所蔵の貴重資料を平塚市美術館で展示し、横浜美術館、埼玉県立近代美術館他と資料協力を行い、今春2月には紀伊國屋書店新宿本店画廊での『日欧文化交渉史』展が控えている。
 ところで、県立図書館との相互協力といっても相互貸借が基本であって、それもまだ一年に満たないわけであるから、県立図書館との協力が将来的にどのような発展が望めるのかに見通しがついていないのが実情だと思う。しかしながら利用者あっての図書館であるから、神奈川大学図書館の企画などに加えて県立図書館側がこれまで行ってきた企画他を情報収集しながらより良い利用者サービスとは何かを我々が考えることは必要だろう。

神奈川大学の現状
 現在、神奈川大学図書館勤務者70名だが、内、専任14名、業務委託と派遣社員56名である。専任の4倍強がアウトソーシングである(大学図書館でのアウトソーシングは全国的規模で行われていることは図書館関係の雑誌や紀要他からも周知の事柄である)。自館のその面々は、カウンターワーク・目録作成・ILL・ホームページ・上述のような企画他などの業務を専任との<コミュニケーション>をとりながら行ながら日々スキルアップし、我々の信頼に応えている。経営学での<競争>理論を包含する<アウトソーシング>と言っても「初めにコミュニケーションありき」こそが重要であることが私の実体験からも言え、このことは、レファレンスワークひとつとっても、またどの異種館の職域でも必須であろう。昨年、出版された浅野高史+かながわレファレンス探検隊編著『図書館のプロが教える<調べるコツ>』(柏書房)からもこのことが学べる。1刷5千部が版元からなくなり、2刷に入るという元気印。舞台は、架空図書館<あかね市立図書館>、伊予高史(実は浅野高史)他7名の現職の公共・大学の図書館員が架空人物アニメ・キャラで登場し、利用者の質問に奮闘し回答するプロセスが面白い。個性豊かな図書館員相互の心、レファレンス・プロセスを繋いでいるのは、やはり<コミュニケーション>、説得性がある。公共・大学図書館員が課題を共有して勤務する、それこそ人的にハイブリッドな図書館があっても良いのではないかと、本書の読者は<あかね市立図書館>から学ぶのではないだろうか。

現況の図書館員
 ここで図書館員としての原初的な幾つかの事柄に戻りたいと思う。それは、日々の業務から言えることは、図書館利用者にとって、我々が新人であろうがプロであろうが関係がないということ。専任であろうが業務委託であろうが派遣社員であろうが、司書有資格者であろうが無かろうが全く関係がない。利用者個々人の問いに整合する回答を行いえる図書館員の<専門性>=Subject Librarianがいる組織体・経営体であることが重要なのである。かつて、図書館員は<本>に愛着を持つことを求められたが、加えて現今では<情報リテラシー>に精通し、多種多様な情報を識別し図書館利用者に提供することや<著作権法>に熟知していることも求められる。さらに物としての本を利用して探索する手作業と<ドラえもんのポケット>のように瞬時に回答が得られるかのようなGoogle他の検索エンジンの利便性。この利便性は否定できないが、<紙媒体>と<電子媒体>の狭間そして<緊張関係>に我々は立たされ、図書館員としての資質形成の可能性を常に模索せざるをえない現況もある。今回の相互協力が、双方の図書館政策としての成果達成主義に陥ることなく、利用者サービスに必要な図書館スタッフの育成・情報交換・講演会他の協同企画などに結実し、より一層発展できるように励みたいと思う。
 2007年が、各大学図書館と県立の図書館の相互協力の新たな展開の年となることを祈念したい。