協会報(~239号)

「文学展」は出張可能。 ~巡回パネル展の試み~

2012年3月19日 15時25分 [管理者]
★「文学展」は出張可能。 ~巡回パネル展の試み~

 1 はじめに
 神奈川近代文学館は平成18年4月から指定管理者として(財)神奈川文学振興会が引き続き運営をおこなうこととなりました。指定管理者制度の文化施設への導入については全国で賛否様々な議論が起こりそれは今も続いているようです。制度導入についての各自治体の対応は様々ですが神奈川県では現在管理委託により運営している施設は例外なく公募プロポーザルによる選定となり、設立以来当財団が運営してきた神奈川近代文学館もその方式による選定となりました。各施設の設立経緯や性格、使命などについては結果的に一切顧慮されなかったということです。この制度自体は少なくないメリットを持つものだと思うのですが、そのメリットは施設ごとの十分な吟味があったうえではじめて生きるものではないでしょうか。この制度の抱える問題点について述べることが趣旨ではないのでこれ以上は立ち入りませんが、「効率化」を達成するために本質の部分が犠牲になったということのないように願いたいものです。

2 試行の一端
 当館は100万点を超える膨大な文学資料を所蔵しており、ネット上での検索なども可能ですがやはり専門家向けの施設、一般にはなじみの薄い資料館というイメージがつきまとうようです。指定管理者制度により意識改革を迫られるまでもなく当館では従来から開かれた文学館を目指した試みを重ねてきました。広い利用者層に少しでもアピールするよう、閲覧室では昨年より館蔵の資料を使った小さな文学展を常時行っています。今までに「クリスマス」「犬」「桜」「音楽と文学」「スポーツ」「館蔵稀覯本」などのテーマで展示しました。文学者を招いての講演会、講座なども定着しているイベントですが講師の人選も幅を広げて考え、学術色が濃くなりすぎないよう硬軟織り交ぜた企画を心掛けています。この春には女子高生などにカリスマ的な人気のある嶽本野ばら氏を講師に迎え、今まで見られなかったタイプの聴衆を集めました。児童向けの行事も「かなぶんキッズくらぶ」という名称で総括して、紙芝居や読み聞かせ、夏休み子ども映画会、製本教室などの催しを積極的に展開しています。

3 文学パネル展の実践
 さらに文学の専門館として各公共図書館にどのようにして当館の「文学資産」を還元できるかという観点から、今まで蓄積した文学展のノウハウを生かし県内各館で巡回展示出来るようなパネル文学展のセットを作成しました。パネル展を製作するにあたり留意した点は次の2点です。
 
  1. 当館で開催した過去の展覧会の解説・写真パネル、キャプションを最大限活用する。 
  2. 巡回を受け入れやすいように、①提供料は無料。②監視の目がない展示スペースを想定して原稿、書簡などの資料もパネル化。③著作権者、所蔵者の許諾は当館でクリア。④点数は50点ほどにしぼり、狭いスペースでも展示可能。

 このような方針のもと第一弾として、一昨年秋に当館で開催した「日本の童謡」展をパネル化、昨年4月から県立図書館(4/8~6/7)を皮切りに次の通り巡回しました。①南足柄市立図書館(8/9~8/31)②湯河原町立図書館(9/1~9/30)=写真③箱根町社会教育センター図書室(10/3~11/30)④小田原市立かもめ図書館(2007年1月13日~2月12日開催)。
 各館では展示台やケースを設置して図書、雑誌を追加展示したり、さらに湯河原町立図書館では他館から資料を借用して、見違えるほど充実した展覧会に仕上げていました。また展示に関連したイベントを催した図書館もあり、パネル展を核に新たな視点からの図書館アピールにつながればと思っています。第2弾は「夏目漱石」展です。すでに立ち上げの県立図書館は会期(10/13~12/13)を終え、現在は次の巡回先待ちです。巡回条件には①会期は2ヶ月を上限②パネルの運搬は開催館の負担(公用車、協力車なども可)などがありますが、まずは当館総務課までご連絡下さい。第3弾以降は井上靖(2007年に生誕100年)、中島敦、文学館逸品資料などを予定しています。