協会報(~239号)

神図協小史点描(29)

2012年3月19日 15時34分 [管理者]
●神図協小史点描(29)

会友(元県立図書館) 池田政弘


 協会に県内全市町村が加盟
 神奈川県の財政悪化に伴って、協会活動に対する補助金のカットが、平成7(1995)年から実施された。この年の4月には中井町、開成町、城山町、相模湖町の4町の図書館が、協会に加入した。
 昭和3年に神図協が発足し70年になんなんとする協会活動にとって、県内のすべての市町村が加盟したのは、画期的なことといってよいであろう。神奈川県内19市17町1村すべての市町村の加入実績が奇しくも県の財政悪化に伴う補助金カットの年であったことは記憶されてよい。
 いずれにしても、永年にわたり持続してきた図書館振興・読書活動・職員の資質の向上への取り組み等々、着実な努力が大きな成果となって結実したのである。ここには図書館のほかに公民館図書室、地区センター図書室等が含まれているが、全市町村加盟とは並大抵のことではない。そこには日常的な職員による個々の努力と組織的な取り組み、時代の要請が後押ししていたと言えよう。
 この体勢をさらに内面的に充実化させていくのが今後の課題であろう。

広域利用ネットワークの拡がり
 県立図書館では、昭和40(1965)年代を中心として、市町村の図書館が整備期をむかえるなかで、県と市町村図書館の役割についてさかんに議論されていた。議論の中心は「県立図書館は住民への直接サービスを主眼とするのではなく、市町村図書館への協力・援助・支援、いわば間接サービスを充実させるべきである」ということに主眼がおかれつつあった。
 しからば、間接サービスとしての市町村への協力・援助・支援とはなんぞや、という疑問と問題点への考究が必要となってきた。
 当時、県立図書館では開館以来、終始市町村図書館の設立のための図書館振興と住民の読書活動普及のための自動車文庫活動を展開していた。また、子どもの読書への導入、いわば乳幼児が言葉を学び、感性を磨き、表現力を身につけるための「おはなしキャラバン」の事業を展開していた。
 これらの事業は建前としては、県立図書館と市町村図書館、教育委員会との共同の事業として行っていた。一方では県立図書館は地域における文庫活動を支援するため、住民への直接サービスを行っていた。これらの事業は、県立図書館が市町村図書館の中心的機能としてよりも、図書館振興政策と読書普及という側面を持つものであった。
 県内市町村図書館への中心的役割を担う事業、間接サービスとしての県立図書館の役割については、様々な議論が行われた。そして、議論の末市町村図書館から要望がある資料を届けるための協力車の運行および図書館業務の相談、援助等のための事業の実施であった。
 従来までの図書館活動とはまったく装いを新たにした活動を県立図書館は昭和52(1977)年7月試行を開始したのである。
 ここまで書いてきて、ふと思い出すことがある。それは、昭和51年に「図書館の相互協力-レファレンスの側面から-」という事柄について、国立国会図書館の『参考書誌研究』の編集担当から原稿を依頼された。
 その時、先輩であり同僚である司書(自称図書館屋)に相談した。
 彼は「図書館は他力本願を前提にしなければいけないのであって…」「図書館は単独の館で機能を発揮できると思いこむのは、土台間違っているわけで…このことを認識することが、司書たることの条件の一つなのである」というのである。そして、このような会話を交わしながら、当時の図書館間協力について「図書館は館員それぞれ、図書館間の協力の重要性を願っており、また、その必要性が説かれながら、充分に組織的機能としての相互協力を果たしているとは云い難い。極端な言い方をすれば、相互協力の大部分は、図書館員個々人の関係と、その努力によって、占められているといってよいのではないか」「個人的相互協力を組織的永続的にいわば非個人的なものにしなければならない」(詳細は国立国会図書館編 『参考書誌研究』第14号 池田政弘「図書館の相互協力を考える」を参照)
 なぜか図書館間の協力が、個人的つながりから組織的つながりへとなっていくのは、いわば時代の趨勢だった。
 いずれにしても市町村図書館の発展に伴って、県と市町村図書館との役割の明確化から、県立図書館の対市町村図書館へのサービスの在り様を大きく変えていく事業が始まったのである。
 数年後、昭和59(1984)年には、県立図書館の自動車文庫事業は廃止され、市町村図書館、教育委員会とのネットワーク化が強化されていった。こうした事態をコンピュータシステムによるネットワーク化が裏支えしていった。県立図書館では神奈川県図書館情報ネットワークシステム(KL-NET)として導入され、平成2年に一部稼動、3年には本格的に稼動した。
 これらのことは、県内図書館の図書館情報ネットワーク化と資料の搬送システムの強化となっていったのである。効率的な図書館情報の流通が可能になってきた。