協会報(~239号)

図書館評価特別委員会 年間活動記録

2012年3月19日 16時11分 [管理者]
図書館評価特別委員会 年間活動記録
  

はじめに
  図書館の現場では、設置母体の財政逼迫による資料費の削減や正規職員の減少、業務のアウトソーシング等厳しい状況が続いている。一方で、図書館に対する期待は多様化,高度化している。このような状況の中で、図書館が自らその事業を見直し、利用者や住民、行政に対する説明責任を果たし、より良い運営を行うための手段として、図書館の自己評価がある。
 平成13年7月に文部科学省告示「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」が公布された。その総則の(3)には、「そのサービスについて、各々適切な「指標」を選定するとともに、これらに係る「数値目標」を設定し、その達成に向けて計画的にこれを行うよう努めなければならない。」と定められている。しかし、公布から5年を経過した現在でも、自己評価に取り組んでいる公共図書館は多いとはいえない。そこで、神奈川県図書館協会は、図書館の評価について調査研究し、加盟する図書館が評価を行う際、参考にできるような報告書を作成するために、平成17・18年度の特別委員会として図書館評価特別委員会(以下、「委員会」という。)を立ち上げた。


図書館評価特別委員会の活動内容
 委員会は、大和市立図書館の斎藤一夫館長を委員長とし、神奈川県立・横浜市中央・相模原市立・大和市立・横浜国立大学附属・文教大学湘南の各図書館から1名ずつ、合計6名の委員で構成した。事務局は大和市立図書館に置いた。
 第1回の委員会は、平成17年7月5日に県立図書館において開催した。各委員の自己紹介の後、委員会の今後の進め方や、最終的な成果物をどうするか等について話し合った。委員が図書館評価に関してある程度の知識を共用するため、最初の数回は評価に関する講義を行うことになった。併せて先進的な評価の事例を収集することとした。
 第2回は、同年9月30日、文教大学湘南図書館で開催した。文教大学湘南図書館の戸田あきら委員が講師となり、図書館評価の手法と題する講義を行った。「図書館評価とは」「図書館の経営モデル」「図書館パフォーマンス指標」「サービス品質測定の試み-SERVQUAL、LibQUAL」「アウトカム評価」といった内容であった。
 第3回は平成18年1月26日、横浜国立大学附属図書館で開催し、筆者が「公共図書館の評価」について話した。内容は「行政評価と図書館評価」「図書館評価」「図書館評価の実施状況」「アウトカムの測定」「図書館パフォーマンス指標」等であった。
 第4回は、同年5月26日、横浜市中央図書館で開催した。『国立4大学附属図書館評価指標データ集』等の大学図書館関係の資料や、県立・市町村立図書館の評価の資料を持ち寄り、事例研究を行った。
 第5回は、同年6月27日、相模原市立図書館で開催した。委員会の最終的な成果物である報告書は、図書館評価を行うとする図書館が参考にできるような「評価の基礎編」と、評価の際よく実施され、また手法として有効な来館者調査のモデルを紹介する「調査編」の2部構成とすることとした。モデルとなる調査は、大和市立図書館で実施することを決定し、調査票の設計等について話し合った。
 第6回は、同年7月28日大和市立図書館において、第7回は同年10月6日県立図書館において開催した。来館者調査の項目を整理し、調査票の設計をした。報告書については章立てを調整し、執筆者の分担を行った。
 第8回は、同年11月30日、県立図書館において開催した。10月に実施した調査の結果の集計方法や分析の処理について話し合った。報告書については、これまでに集まった原稿の修正や章立ての変更、全体の構成について確認した。
 第9回は、平成19年1月23日、県立図書館において開催した。報告書について、全体の文体や体裁を調整した。「大和市立図書館調査編」については、調査結果の分析や報告書への記述の仕方について細部を詰めた。


調査の実施
 モデル調査は、大和市立図書館のご協力を得て、同図書館で実施した。平成18年10月27日(金)から29日(日)の3日間図書館入口で調査票を配布し、退出時に回収する方法を採った。配布数は1,500、回収数は1,123であった。結果の詳細については、委員会の報告書を参照していただきたい。
 この調査は、特に「アウトカムの測定」を意識した設問を作成した。図書館のアウトカムの測定にはいくつかの方法があるが、本調査では、利用によって得られると思われるアウトカム全般について利用者の認識を問う(そういう成果を感じるかどうか)という方法を試みた。利用者に問うアウトカムの項目は、委員会メンバーのブレーン・ストーミングによってリストアップしたものである。この調査結果は、利用者が図書館の効用をどのように捉えているかを現すものであり、アウトカム評価上の貴重なデータを提供してくれるものと考えられる。
 調査の結果データを使用して、どのような利用者がどのように図書館を利用し、どのような満足度を感じ、そしてどういう成果を感じているか、を分析した。分析の結果,表1の4グループに分ける事ができ、またそれぞれの満足度、アウトカムの特徴を示すことができた。


報告書の刊行
 委員会は、平成19年3月に報告書『公共図書館における自己評価-図書館評価特別委員会報告書-』を刊行した。報告書は「Ⅰ評価の基礎編」と「Ⅱ 大和市立図書館調査編」の2章で構成されている。
 「Ⅰ 評価の基礎編」は、「公共図書館における評価」「図書館サービスの測定及び評価の方法」「自己評価の実践例」から成っている。「公共図書館における評価」では、図書館サービスモデル、評価基準と目標、公共図書館の自己評価、行政評価と自己評価、公共図書館の評価の現状、について記述した。「図書館サービスの測定及び評価の方法」は、インプットとアウトプットの測定、アウトカムの測定、図書館パフォーマンス指標、外部の視点の重要性について書かれている。そして、「自己評価の実践例」では、神奈川県立図書館と座間市立図書館の自己評価の例を取り上げた。
 「Ⅱ 大和市立図書館調査編」では、本委員会が実施した調査の目的と狙い、調査票の設計、調査の概要、調査結果について書かれている。実際に調査を実施した結果気付いた点については、特に詳しく記述した。巻末に、評価をするに当たって参考となる文献を紹介した。


おわりに
2年間の委員会の成果として『公共図書館における自己評価』を刊行した。現在、図書館の現場で評価をしようとするとき、具体的な手順を記した基礎的な資料はあまり見当たらない。委員会の報告書のタイトルは『公共図書館における自己評価』ではあるが、委員会のメンバーは、公共・大学の図書館の職員により構成されており、編集にあたっては、公共図書館以外の図書館にも参考になるよう配慮したつもりである。本報告書が、評価を行うとする公共図書館の担当者はもちろん、大学や専門図書館の職員の方々に、少しでもお役に立てば嬉しく思う。
 最後に、調査を実施して下さった大和市立図書館の斎藤館長はじめ職員の皆様、アンケートに回答してくださった大和市立図書館の利用者の皆様に謝意を表したい。

<委員 神奈川県立図書館 石原眞理>


表1:大和市立図書館の利用者グループとその特徴
 
名称人数(人)利用上の特徴属性上の特徴満足度・アウトカムの特徴※
オーソドックス派383平均的な利用内容30-50代勤労者、主婦が中心全般的に満足度は低め。アウトカムは低め。知識情報、視野の拡大、調べ方がやや高い。
館内利用派89館内利用が多い。PC関係はほとんど利用しない。リタイアしたお年寄りが中心開館時間、貸出制度に対する満足度が高め。アウトカムはそう高くはないが、充実時間、知識情報がやや高い。
座席利用派132学習室利用が多い。PC関係も利用する。学生中心満足度は全般的に高め。学業関連のアウトカムが高い。
高機能活用派137図書館をよく知りよく利用。PC関係利用も多い。相対的には主婦が多い貸出制度に対する満足度高い。充実した時間、読書習慣、教養等のアウトカムが高い。

※満足度・アウトカムの特徴は、他のグループに比した相対的な特徴