協会報(~239号)

神図協小史点描(30)

2012年3月19日 16時16分 [管理者]
神図協小史点描(30)

会友(元県立図書館) 池田 政弘

 一方、昭和53(1978)年には逗子、鎌倉、藤沢、平塚、茅ヶ崎、小田原の湘南6市の図書館では締結まで2年半を要して「雑誌相互保存に関する協定案」を締結した。昭和56(1981)年には、厚木、綾瀬、伊勢原、海老名、相模原、座間、秦野、大和では「県央8市図書館間図書資料相互貸借要項」を締結した。市町村間図書館で、それぞれの図書館の特色を活かしながら、地域の類似性という視点を考慮したものである。このような潮流は、その後10数年を経て、平成8年には横浜、川崎を除く近隣市町村との相互利用が開始されるに至っている。
 これらの利用協定の土台となる図書館間の相互理解と、住民へのサービスを支える職員間の交流発展があればこそ可能にした。県図書館と市町立図書館の職員の交流(派遣等)は多くの効果をもたらしたということができる。この具体例としては大磯町、南足柄市、伊勢原市、座間市等々相当数にのぼった。
 このことは「協会」が果たした様々な図書館の調査、職員の研修活動、そして連絡・協力の「力」の累積があったからこそ生まれたものである。まさに継続は力なりの結果といえるのではないか。
 こうして広域利用による相互貸借、ネットワークが全県下へと広がりをみせていった。この広がりは、すべての市町村が一体となった広域利用ができないかと協会事務局に検討要請として寄せられた。当時特別委員会として設置されていた「ネットワーク推進委員会」(平成6年までのネットワーク研究委員会が推進委員会と7年に衣替え)でも県内広域化の実現が課題となっていた。早速「委員会」に検討要請が寄せられたことを伝えた。
 実際、県内すべての市町村図書館が、すべての住民に自由に資料の貸し出しを行うには、蔵書の公開など広域化のためクリアすべき課題が横たわっていた。そこで、平成9年度からのテーマを県内広域利用協定ができるかどうかの検討に「委員会」では入ったのである。
 このようにして「協会」では積極的に広域利用ネットワーク化へ力を注ぐのであった。ただし、内包する問題点も決して少なくはない。今後、名実ともに完成に向けていくことが望まれている。県立図書館にも、協会にも県内各図書館もそれぞれに問題をはらんでいることに眼をそむけてはならないだろう。

『神奈川県大学図書館市民利用マニュアル』の刊行
「神奈川県内の大学図書館間の相互協力を通じて情報提供機能を強固にし、図書館サービスの向上をはかるとともに学術研究及び高等教育の発展に寄与することを目的」として、昭和57(1982)年に誕生した神奈川県内大学図書館相互協力協議会は、市民が大学図書館を使おうとするための利用マニュアルを、平成7(1995)年に『神奈川県大学図書館市民利用マニュアル』(以下、『市民マニュアル』と略)として刊行した。
 この『市民マニュアル』を大学図書館として刊行し、公に市民に対する大学図書館の公開に至るには大変な労力を費やしたのではないかと思われるのである。しかし、その大学図書館の利用は、公共図書館では、提供困難な極めて専門的な資料を提供できるという大きなメリットを市民にもたらしたのである。
 公共図書館側の期待は大変大きなもので「知の宝庫」図書館の充実、『市民マニュアル』に期待する等の声が刊行された直後の平成8年1月の『神図協会報』(175号)に寄せられている。
 一方では「大学図書館は公共図書館の肩代わり等ではなく、開かれた大学・図書館の理念のもと、一般市民への門戸を開く一歩を踏み出された」そして「影響しあいながら共存できれば」との記述も寄せられている。
 このようにこの『市民マニュアル』に対する期待は、公共図書館にとっては大変なものであった。
 大学図書館は神図協構成の重要なパートナーであることに鑑み、この『市民マニュアル』刊行のために「協会」は一部印刷費の補助をしている。それはまた、長年にわたる大学図書館と公共図書館の連携・協力による結果であるといえるのではないだろうか。思えば、県立図書館創設の昭和30年頃から公共、大学の各職員が個人ネットワークで実績を上げていたことが懐かしく想起され、ようやくここまで到達したかという感慨がある。
 資料と市民を結ぶために重要な「図書館間の協力」は館種を超えて、相互に補完し、利用していく時代にようやく到達したのである。これは、昭和55(1980)年に日本図書館協会の図書館員の問題調査研究委員会が長年にわたり検討し、制定された「図書館員の倫理綱領」の10条に「図書館員は図書館間の理解と協力に努める」とあり、制定時の久保輝巳委員長(関東学院大学教授)は、奇しくも『市民マニュアル』刊行の翌年4月号の『神図協会報』(176号)に「図書館間協力は図書館員の基本的任務」として一文を寄せている。
 設立(経営)主体が異なる、各図書館(公立、私立)が持つ固有の事情、図書保存利用の制限、相互の互恵的契約が確立される必要がある。このような協力・連携が生まれていく土壌を育成し、図書館員の相互理解と図書館の発展のための力は、神図協創立70周年記念大会へと向けて活動を歩んでいくのであった。