協会報(~239号)

③「電子書籍の現状と将来について」研修報告

2012年3月23日 11時15分 [管理者]
研修会レポート③

「電子書籍の現状と将来について」研修報告
(10月28日実施)
 
 


 今回の研修は、話題になっている電子書籍について興味深い話であった。講師は、出版・印刷事情に詳しい(株)図書館総合研究所の永田薫氏で、iPad やKindle といった端末を実際に見せていただきながらの講義であった。
 日本の「電子書籍」を議論する場合に、そもそも編集とは?出版とは?図書館とは?を根本から問わねばならないとのことだった。現在の電子書籍は編集なしに個人がネット上で提供でき、紙媒体でないために無駄がない、などかなり自由な状態にある。反対に、出版社が電子書籍を販売すれば、活字も売れるという現象もある。権利者も守らなければいけない状態で、図書館はどうしたらいいのか、まだ整理できていないのが現実である。
 図書館の実際の問題として、無形であるデータに対してどう扱えばよいのか。現在、国立国会図書館が、国の予算で資料のデジタル化を行っている。それを活用出来ないか、それとも各図書館がデジタル化から手がけるのか。また、受入・登録、貸出返却チェック、除籍など細かいことから、サーバシステム管理や利用者リテラシー教育まで、あらゆることを考えなければならない。永田氏は、電子図書館のシステム概要の例を提案してくれた。
 さて、私の働いている神奈川県ライトセンターは、いわゆる点字図書館で、活字の本を点訳または音声訳して利用者に提供している。アナログの時代から、そもそも製作することを主としている図書館である。現在はデジタルによる点訳データ、音声訳データがあり、全国の情報を1つのサーバにより管理していて、利用者は会員になるとデータを利用し、読書を楽しんでいる。著作権法もクリアしている。今回の話と照らし合わせて、電子書籍に対応する図書館のひとつの形ではないかと感じた。また、電子書籍については、テキストデータでないと音声に反映しないなど不安もあるが、点字図書館界でも期待が高まっている。
 公共図書館、大学図書館などは、他にも広域利用の問題など、それぞれの自治体での図書館の方針があるが、環境が変化しても、サービスのかたちが変わっても、図書館の基本理念は変わらないと思う。電子書籍を通して、改めて図書館の意義を考えた研修であった。

(神奈川県ライトセンター 平井 利依子)