協会報(~239号)

第13回図書館総合展報告 フォーラム報告

2012年6月10日 10時35分 [管理者]
第13回図書館総合展報告

第13回図書館総合展 フォーラム報告
「何をこれからしていくべきか」  

平塚市中央図書館 渡辺 彩美

・はじめに

  3月11 日東日本大震災が発生し、私たち図書館職員は「何をこれからしていくべきか」を考えることが大切だと思いました。東日本大震災で甚大な被害を受けた東北3県の県立図書館の方を講師として迎え、図書館総合展運営委員会と共催し、今回のフォーラム「東日本大震災、そのとき図書館は」を開催する運びになりました。

・開会挨拶 神奈川県図書館協会会長 林秀明氏

  図書館界では震災後様々な取り組みが行われた。関東甲信越の図書館でも、災害時の相互援助協定を結ぶ動き、神奈川県歴史資料保全ネットワーク立ち上げの動きなどがあり、ローカルな動きも確実に始まっている。被災地で震災の時「何が出来なかったのか」を把握することが大切である。どのような支援を受けてきたのか、必要なのかを知り、支援を継続していくことが重要である。

・フォーラムの趣旨

  被災地の話を聞いただけで終わってはいけない。本当に支援は役立っているのか、など「支援の仕方」を反省する時期ではないか 。様々な議論をそのままにせず、これから何を出来るか、どうすればもっとよくなるのか、を考えるフォーラムにしたい。

フォーラムの様子

・東日本大震災、そのとき図書館は
    ―岩手県内の被災状況と支援への要望―

菊池和人氏(岩手県立図書館)

1.被災状況
  壊滅状態の地域の図書館の状況は、建物が全壊状態で使用不可能。まち全体が被災しており、役場職員は被災者の生活を最優先にしているため、図書館職員もまず生活支援優先。BMや図書の寄贈があっても対応できる職員がいない。津波による図書被災想定冊数は、約206,772冊で県全体の蔵書数の約4.2%。

2.被災地を訪問してわかったこと
  「被害状況は一つではない。支援の方法も一つではない。」「市町村の復旧・復興過程を注視しつつ、各段階での図書館支援が必要である。(資料の救済・修復、研修等から図書館の再建・復興までの長期の支援が必要である)」「まち・図書館・職員どれが欠けても復興はできない」

3.被災後の対応
  県立図書館としての基本的なスタンスとして
(1)被災郷土資料の修復・救済等
  現地視察を実施し、最も重要と実感。特に海水で被災した郷土資料等の修復等
(2)図書館資料の収集・保存・活用等
  図書館の使命(本質)をあらためて実感。複数の方法による保存(デジタル化等)、震災関連資料コーナーの設置等
(3)被災地・被災者支援
  被災者への資料貸出、避難所等での読み聞かせ、県内市町村図書館等への運営支援等

・宮城県図書館からの報告

熊谷慎一郎氏(宮城県図書館)

1.被災状況
  宮城県立図書館の被災状況は、人的被害なし。館内ネットワーク・業務システムに大きな故障はなし。館内壁面の大型ガラス、石板等の破損・落下、図書館資料約105万点のほとんどが落下。4月7日余震で、約5割が落下。
  宮城県内図書館の被災状況は、死亡確認1名(南三陸町図書館)、行方不明1名(石巻市図書館)。
  図書館は高台に設置されているところが多く、津波による被災地域であっても、浸水を免れたところは多い。地震そのものによる被害によって、震災以前の図書館サービス再開が困難な図書館が多い。6月までに県内のほぼすべての図書館が再開したが、再開にあたっては閲覧のみ、仮設カウンターでのサービスなど震災前と同様のサービスが提供できない場合も多数発生。

2.被災後の対応
  宮城県内図書館は、3月31日まで休館し、4月以降非来館型サービスを順次再開、5月13日、時間を短縮して開館。10月以降震災前の開館時間に戻る。
  復旧復興にあたっては、図書館の災害への備えについて、安全・安心できる立地、建物構造であること(立地地域の地質状況・地層・基本的な建築設計の概要など)の説明が必要。災害の程度に応じた対応策、再開館の検討(どこまでどのようなサービスをするか)、支援のあり方、県の災害対策本部との連携、外部委託事業者との連携、市町村図書館等との災害協定、災害情報の収集、県域の図書館の情報集約等が必要である。

・福島の被災状況と復興のきざし

吉田和紀氏(福島県立図書館 企画管理部)

1.被災状況
  3月11 日発生時は、館内には職員を含め約80人がいたが、職員の誘導により一時待機。揺れのおさまりを確認した後、外へ避難。県内図書館の開館状況は、震災一週間後の3月18日、全59館中開館は4館。震災半年後の9月11 日、全59館中休館は7館。
2.被災後の対応

  できることからの精神で資料を提供する。直後の3月16日、知り得る情報から、資料支援が必要ではと思われる自治体等に連絡。4月1日、状況が見えてきた中で避難自治体(移転先)への支援について周知。5月16日、状況の変化に伴う二次避難に応じて直接サービスから間接サービスへ。5月20日、ニーズを踏まえて団体貸出用の資料をピンポイントで。9月18日、仮設校への資料支援。

3.図書館の再開を遮った(ている)もの
  直接的な被害として(地震・津波)建物損害、資料の散乱、資料の汚破損。間接的な被害として、原発事故による避難。図書館職員である前に自治体職員であり、第一義として生活復興支援を求められる。環境づくりなど、すぐには戻れない。

・パネル討論

司会 岡本氏:沿岸部の被災状況に目がいってしまうが、「見過ごされた被害」に目を向けることも重要。
菊池氏:野田市は、図書館員がおらず、教育委員会の人が運営を行っている。どう対応すればよいのかわからず手探りの状態である。
熊谷氏:建物が使用できず倉庫や書庫で図書館を続けたが、それがよかったのか疑問。
吉田氏:自助努力で何とかしようという図書館も多かったが、結果的に見えない被害につながってしまった。
司会 岡本氏:利用者が書架に挟まれるなど地震そのものによる被害がなかったのはなぜか。
菊池氏:一番高い建物に誘導するなど職員が適切な対応をした。
熊谷氏:普段からの防災訓練が役に立った。半数勤務のときに防災訓練をしたり、揺れた瞬間どうするかに備えていた。
吉田氏:防災訓練を通し大きな声を出す練習をするなど習慣づけられていた。館内でどこが安全なのか認識できていなかったのが課題。
司会 岡本氏:声なき声をどう拾うか。
吉田氏:電話で情報を把握するなど割り切って考えていた部分があった。直接出向いていれば、もっとニーズを把握できたかもしれない。
熊谷氏:市町村を周る手順・ツメが甘かった。図書館が少ないので図書館を通じての情報収集ができない。
菊池氏:県立図書館と市町村図書館との連携は、震災前はあまり結びつきがなかった。電話したときは問題がなさそうだったが、実際出向いてみると専門職が勤務していないこともあり、どのようなことをしたらいいのか発想もわかずに途方に暮れている図書館もあった。有事の協力協定を結ぶ必要があるかもしれない。

フォーラムの様子

●会場の参加者より質問

  開館するにあたり、津波や地震の被害がまた来るかもしれないことに対する安全対策についてどう考えているか。
菊池氏:施設が地震に強い造りだった。完全に安全であると確認したうえで開館した。
熊谷氏:安全なことを確認したうえで開館するのが大原則である。
吉田氏:図書館の使命である情報提供と建物の安全性のバランスを考慮することが必要。

●感想

  東日本大震災では、私が勤務している平塚市図書館は、被害は受けなかったものの余震が続く危険な状況の中で、1ヶ月程度閉館していました。
  こんなに長期に閉館していることは初めての経験であり、開館までどのようにするかの模索の日々でした。また、神奈川県内でも書架や書庫に被害が大きかった館もあり、震度5前後でもこれ程の混乱をもたらすのに、地震の震源地ともなれば、いかに混乱し、今までの環境が破壊されるかということをTVの映像を通じて感じておりました。
  甚大なる被害をもたらした東日本大震災の影響について、直接被害にあった岩手県立図書館・宮城県図書館・福島県立図書館の方の話を聞けたことは大変貴重な経験でした。
  書架の倒壊や窓ガラスの破損などがあったにも関わらず、職員・利用者の被害がなかったのはなぜか。適切な誘導があったからです。お話を聞くと、防災訓練を大震災前から繰り返しやっていたことがわかります。図書館の利用者は高齢者や子供も多く、職員一人一人が自覚と責任を持って行動できるよう、日ごろからの備えが何よりも必要だと感じました。