協会報(~239号)

インターネット予約・ホームページPR

2012年3月15日 15時11分 [管理者]
神図協職員研修会報告
インターネット予約・ホームページPR


 
11月28日、神奈川県立図書館において、神図協第6回職員研修が行われました。テーマは「インターネット予約とホームページPR」。最近話題のテーマでもあり、関心の高いこともあってか、50人近くの参加がありました。  
  講演を行ったのは大和市・川崎市(講師 池原真氏)・横須賀市(講師 岡本剛彦氏)の各図書館職員の方々。3市は実際にインターネット予約を実施している図書館で、それぞれの講演者が現場の生の声を伝えてくれました。以下、一つ一つの講演の内容を簡単にですがご紹介します。  
  なお、表記の簡略化のため、インターネット予約をIRS(Internet Reservation Service)、ホームページPRをWPR(Webpage PR)とそれぞれ表記することにします。これは今でっち上げた略称ですので、他で使っても意味は通じません。ご注意ください。また、「~立図書館」の部分は一部省略させていただきました。文脈に応じて適宜読み替えてください。
■大和市立図書館  
  はじめに一つ暴露をしてしまうと、大和市の講演者は、実はこの原稿を書いている私です。「誰が講演をするか」という話になり、「そんなもん開発者が行け」ということで講演者になりました。実行委員も兼ねていたので、こうして原稿を書いています。というわけで、講演で喋れなかった分なども補足していこうと思います。ズルい話ですが、報告者の特権ということで許してください。  
  大和市のIRSの最大の特徴は「図書館システムに依らないシステムである」ということです。  
  IRSを導入しているほとんどの図書館では、図書館システムにIRSが実装されていると思います。そのため、利用者が本を予約すると、その情報はすぐにシステムに反映されます。その瞬間に予約の順番待ちに入れるか、いったん職員の確認を必要とするかはシステムによって違いますが、電算上に「○○さん、××の本を予約」という情報が載るという点では同じことです。  
  一方、大和市のシステムはそういうものではありません。「予約票に書いて提出する代わりに、インターネットで書いて提出する」だけのシステムなんです。  
  大和市での通常の予約処理は、利用者が予約票に予約したい本を書きカウンターに提出し、それを受け取った職員が端末を叩いて本の所在を確かめ、返却を待ったり購入したり相互貸借で借用し たりして確保(割当)し、利用者に連絡をして貸し出す、というものです。ざっと書きましたが、だいたいどの図書館でも内容は変わらないでしょうからイメージは判ると思います。  
  大和市のIRSの場合、利用者がインターネットから予約をすると図書館にメールが届きます。そのメールを職員がプリントアウトし、予約票に貼り付けて予約票を作成します。言ってみれば、IRSで予約してきた内容を「代筆」して予約票を作成するわけです。
  予約票を作成して以降の処理は、窓口で提出しようがIRSからだろうが同じになりますので、結果として図書館システムに依存することなくIRSを実現できるのです。
この「メールで送られてきたものを代筆する」というのが、大和市IRS実現のキモです。
 一般的なIRSのようにシステム連動はしていませんから、職員の処理はかなりの分量になります。現在では平均して40件/日ほどのメールが届きますが、それは職員が全て手入力しています。利用者が、一度に40件の予約を持ってきたと想像してみて下さい。どれほどの作業かが判ると思います。  
  しかし、それほど手間のかかることであっても、利用者にとって「自宅から予約ができる」というのは大きなメリットであると判断しました。  
  繰り返しになりますが、現在のインターネットからの予約数は40件/日ほどです。全体の予約数からすると12%前後になります。さまざまなシステムの改良により利用しやすくなったこともあって、利用数は日々、実際に作業をしていて実感できるほどに上昇しています。  
  IRSを実現したい、けれど、図書館システムを刷新するほどの予算がない。こんな図書館は、導入を検討してみるのもいいかもしれません。  
  ただし、講演の際にも述べたことですが、このシステムを構築するためには、「CGIを構築できる」「不測の事態に対応できる」システム担当者が絶対に必要になります。
  大和市の場合、システムを開発した私にしろもう一人の担当者にしろ、電算部門から異動をしてきた(偶然です。IRS開発のための異動ではありません)という経緯があります。大和市のIRSは、開発時期と人材がいた時期とがたまたま一致した、という幸運があったことも見逃せないと思います。

■川崎市立図書館  
  川崎市からは、WPRについての話をしていただきました。  
  大和市のIRS開発が専門知識豊富な職員の手作りシステムであったとすれば、川崎市のWPRは、専門知識のなかった職員が、ゼロから頑張って作り上げたものであると言えるでしょう。HPの作成どころか、タグの種類や基本的な書き方すら判らなかったため、職員は自分たちで勉強をしたといいます。特にWPRを考える時、頻繁な更新は必須です。そのためにも、最低限度以上のHTML知識、能力は必須でしょう。そのことを経験をもって示した事例と言えそうです。  
  また、川崎市では、HPの書き方、表記方法について金沢市立図書館の考え方を参考にしたそうです。ルールというと大袈裟ですが、全てのページにトップページへのリンクを張っておく。画像にはalt属性をつける。そういった「誰でも見やすくわかりやすいページを作る」ための指針を定めたということです。CSSをどこまで使用していいか、JavaScriptはどうか、Cookieは、など、考慮すべき事項は多々あります。最終的には作り手のバランス感覚に委ねるしかないのですが、一つの指針を設けたという川崎市の試みは斬新ですし、評価できると思います。  
  さらに講演では、WPRを行ってからの利用者の反応などについても具体的にお話しいただきました。特にクレーム・要望などについては、見えない場所からの言葉であるせいか、かなり直接的な感情表現(笑)が多いそうです。笑いを交えつつ語っていただきましたが、実際には苦労が多いことと思います。WPRを導入する際には「職員の気苦労」も考慮に入れないとということでしょうか。  
  最後にこれは……ということで述べられたことは、実は非常に重要なことだと思うので書いておきたいと思います。それは、「情報の共有化」ということです。先駆者が経験したことをオープンにして後進に伝える。理想ですが、なかなかうまくいかないのが現実です。  
  川崎市では、視察に来た方達に、成功例も失敗談も含めてできるだけ情報を伝えているそうです。今後、なんらかの方法で「情報の共有化」がシステム化されるといいな……と思いました。

■横須賀市立図書館  
  全くの偶然なのですが、大和市はIRS、川崎市はWPRと、講演テーマが重なりませんでした(事前打合せは必須でしたね。申し訳ありませんでした)。  
  では横須賀市の講演内容はどうだったかというと、これまた偶然なのですが、全く別の切り口からIRS・WPRを捉えた興味深いものでした。「図書館経営におけるIRS・WPRの位置付け」とでも言えばいいでしょうか。  
  昨今からの不況。ただでさえ影の薄い図書館なのに、これでは余計予算がつきにくくなる。予算がないと事業に差し障りも出る。するとより影が薄くなり……という「図書館デフレスパイラル」に陥ってしまう。それを防ぐためには、図書館を利用していただいている人達にはもちろん、むしろ自治体内部にこそ、図書館がどのような事業を行い、どれだけの成果を上げ、だからどれほど図書館が必要であるかというアピールをしなければならない、というのである(実際にこんな表現で語ったわけではありません。念のため)。  
 一言で言うと、「攻めの図書館経営」。  
  なんだかWBSかBloombergか、という感じすらしますが、どの図書館でも予算の問題は重要だと思います。IRSやWPRで図書館の重要性をアピールし、図書館が文化的な必要な施設だということをサイフを握っているおえらい方々に判っていただくというのは、図書館にとってなんらマイナスではありません。これは私見ですが、むしろ今までの図書館には、こういう姿勢が欠けていたのではないかとすら思えます。  
  講演では、具体的な活動事例を語っていただきました。個々の事例についてはここでは述べませんが、いずれの事業も大成功をおさめ、新聞・TV等のメディアで紹介されています。プレスリリースを積極的に行うことも、PRには大事なことだと述べていました。  
  IRSについても、実際の画面と対比させつつ、詳しくお話しいただきました。インターネットからの予約は前年比300%増だそうです。横須賀市では公民館図書室の分館化が進んでおり、それとIRSが合わさることでこの数字が出たのではないかという分析だそうです。それにしても、3倍増というのは凄い数字ですね……。

■おわりに  
  前にも書いた通り全く事前打合せをしていなかったのですが、三者三様の講演内容で面白かったのではないかと思います。特にIRSは注目の話題であるようで、各講演後の質疑応答、また最終質疑応答でも、具体的な目標を念頭に置いての質問が目立ちました。  
  来年度以降、IRS実施館は着実に増えていくのでしょう。HP構築なども進んでいくと思います。発表をした側として、今回の講演が少しでも役に立っていたらいいなぁ……と思っています。

<大和市立図書館 久根口 勇>