協会報(~239号)

神図協小史点描(22)

2012年3月15日 15時14分 [管理者]
●神図協小史点描(22)


 
(2)自動車文庫の目的  

 館外奉仕活動研究会の報告を受け、その結果県立図書館としての方針が示され、館外奉仕部は、その実行のための政策を市町村図書館に説明し、理解を求めなければならなくなったのである。  
  すでに、内部的には方針が決定されていたので昭和55年(1980)3月の「自動車文庫だより」(44号)誌上に「県立図書館の自動車文庫の目的」と題して、自動車文庫巡回事業は本来的には県の事業ではなく、市町村での事業の援助ということを強く意識した内容を発表した。
  「自動車文庫事業は、移動図書館車に図書を登載し利用者のもとに出かけ、図書の貸出、読書に関する相談に応ずる等の図書館サービスを行う事業です。図書館の本館、分館とともに、これは身近なところで気軽に利用できるという点において、図書館サービス網の中で重要な役割を果たしています。(略)県立図書館の移動図書館車による自動車文庫事業は、県の事業として直接利用者に対するサービスを行っているものだと思っている方が多いようです。しかし本来的には自動車文庫事業は市町村の事業であり、県の車、本、人を提供して市町村の事業を援助しているものなのです。」(自動車文庫だより44号)  
  県立図書館は市町村図書館の肩代わりの立場から本来の県立図書館としての機能を果たすべき・・・例えば読みたい、調べたい本を「市町村立図書館で県立図書館の本が借りられる」ようにし、県立図書館が定期的に市町村立図書館に県の本を届ける協力事業の充実とか相談業務の充実や図書館間協力などへの転換をすると発表しながら、県と市町村図書館との役割、機能を明確に打ち出したのである。
  そして県立図書館の、昭和55年度事業方針及び自動車文庫巡回方針を市町村図書館・町村教育委員会に対して4月上旬に説明し、話し合いを持った。そのなかで、県立図書館の基本的な考え方を、さきの自動車文庫だより44号の内容にそって示し、市町村の自主的な図書館活動を積極的に推進するように強く要請したのであった。
  また、昭和55年度から4ヶ年の目標で、県と市町村とがお互いに努力し、協力し合いながら、県民全体の読書環境の整備と向上を目指し、それぞれの市町村間での図書館サービスの格差をなくす考えを示した。  
  しかし、それは端的にいえば、自動車文庫巡回事業をできるだけ早期に市町自前のサービス体制に移行することであって、自動車図書館によるサービス・ポイントを縮小していくことを示したのであり、また、巡回そのものを廃止することでもあった。
  このようにして、約30年にわたる館外奉仕活動の中核をなした自動車文庫活動は県と市町村図書館の役割、機能の明確化、いわば県立図書館は県内市町村の調査相談センター、資料情報センター、相互協力センターとしての機能強化へと歩みはじめたのである。  
  自動車文庫発足当初、県立図書館は「この事業が市町村図書館事業の支援である」ということを、市町村図書館に充分に説明し得なかったという一面もあったようである。したがって自動車文庫事業を「県から市町村へ移行する」という県の説明には、スムーズに納得しかねる雰囲気も市町村にはあった。「県の事情で勝手に縮小廃止とは!」とささやかれもした。ただしおおかたの市町村の独自性という観点から、県の立場を理解する方向へと意見はその後流れていき、これが大勢のものとなった。

14 図書館法制定30周年記念行事

昭和25年(1950)に図書館法が制定されてから30年にあたる昭和55年(1980)の6月4日、日本図書館協会、全国公共図書館協議会主催のもと図書館法制定30周年記念式典が、東京の科学技術館で挙行された。
  図書館活動の振興に功績のあった関係者、120名が文部大臣から表彰され、そのうち神奈川県からは4名が大臣表彰を受けた。
  神奈川県図書館協会としても、図書館法が制定されて30年ということで、県教育委員会、県立図書館などとともに「図書館法制定30周年記念、図書館まつり」を10月23日から25日の3日間、神奈川県政総合センター(現かながわ県民センター)で開催した。
  3日間の会期中、会場の1階には「くらしと図書館」などの展示コーナー、そして「郷土かながわ出版物展」もあわせて開催した。出版物展では即売会を行い、連日多くの人が集まるなど盛況であった。
  また「図書館なんでも相談コーナー」を設け、会場と県立図書館相談室とを電話で結び、利用者からの疑問・質問を受け付けた。いわば出張レファレンスである。回答はその際即座に行われ、その迅速ぶりに図書館の仕事をあらためて見直したとの声も会場から聞かれ、これが大変好評であった。  
  ホールでは、第1日目に記念式典、公開シンポジウム、2日目に図書館職員研究発表大会が開催され、これらの集会を通して、県民、図書館関係者それぞれによる活発な意見が交わされた。  
 式典、シンポジウムの状況は次のとおりである。  
 県知事から「生涯学習のために図書館の役割が重要性を持ってくる。また不充分な公共図書館の数と仕事の量を、類縁機関が助けていけるよう努力する。図書館は文化の殿堂であり、充実した図書館サービスを実現することで東京文化圏から脱皮し、神奈川県独自の文化を作り出そう」と挨拶があった。満場の参加者から盛大な拍手がおこった。(『神図協会報』116号昭和56年1月)  
  この挨拶のあと、永年にわたる図書館職員表彰そして県下図書館に多大の貢献をした13名の方々が神奈川県教育長表彰を受けた。  
  そして「ひらかれた図書館をめざして」のテーマのもと評論家の紀田順一郎氏、県民代表として関千枝子、竹村姜子の両氏、武田英治協会長の4名がパネリストとなり、鹿児島達雄鎌倉市中央図書館長司会のもと公開シンポジウムが開催された。  
  このなかで、武田会長は県立図書館と市町村立図書館それぞれの機能に対する考え方を示し、県立図書館外奉仕活動による自動車文庫巡回の時代から県と市町村図書館の機能、役割分担による県立図書館を中心とした県下図書館間のネットワークの展望を発表したのである。  
  これはまさに県立図書館の自動車文庫事業の政策転換を意識したものであった。
  このように神奈川県立図書館は協会の場を借りながら、県と市町村の図書館の役割・機能そして県立図書館というものの政策転換の方向性を示していった。  
  この集会は、県と市町村図書館の役割分担を確認する場でもあったと捉えることができるであろう。また、今までとかく薄弱であった「図書館対県民」の交歓を意図したという面で、特筆すべきイベントでもあった。

15 協会事業の発展

協会50周年を機に組織の見直しがなされ、新体制となった協会は、5つの常置委員会と特別委員会を設置することとなり、それぞれの委員会は委員長のもとに、独立色の強い組織となって活動することとなった。  
  そして、各委員会を横断的に調整するために、先述のとおり各々の委員長及び会長、副会長館からの職員で構成される企画委員会が設置された。  
  それぞれの委員会の委員長は、常置委員会としての企画委員会、川添小田原市立図書館長、広報委員会、山下大和市立図書館長、書誌委員会、藤田平塚市図書館長、郷土資料委員会、入谷川崎市立幸図書館長、研修委員会、関根藤沢市中央図書館長、そして特別委員会としての児童奉仕研究委員会、橘川相模原市立図書館長、公共図書館地域計画委員会、鹿児島鎌倉市中央図書館長があたることとなった。いわば神奈川県下の錚錚たる実力者が委員会の組織改正にあたって就任したのである。  
  従来の館員研究会が発展的に改称した研修委員会は公共図書館、大学図書館、専門図書館等館種の異なるメンバーで構成され委員長以下19名に及ぶ委員会であった。そして協会加盟館職員のすべてを意識した研修内容として活動を行っていった。
  ちなみに研修委員会となった研修内容(昭和56年度)は次のとおりである。
・情報の流通と図書館
・学術情報システムとジャパンマークについて
・障害者サービスの現状と展望
・NCR(日本目録規則)新版予備版について
・図書館員のための製本講座
・学生への図書館利用指導について
・図書館員の仕事と役割
このように研修内容は非常に多彩で、どの館種の職員でも参加できるテーマとなっており、その時代を反映した最新の内容であったといえる。さらに協会としても職員研修は最重要の課題として受けとめて研修事業に力をそそいだのである。  
  また特別委員会の一つである児童奉仕研究委員会は11名の委員で構成され、児童奉仕に関する職員研修とテーマを決めて研究する活動を行い、研究テーマを「ヤングアダルト層の調査」とした。昭和56年当時、"ヤングアダルト"という用語は、まだ図書館用語として公式な定義を見出しておらず、この調査研究は、時代の先端をいくものであったといえる。しかしながらこの年代層の読書ばなれ、図書館ばなれは特に顕著であるとされており、年齢層区分をどう考えるか等も含めて、議論する上で非常に重要かつ必要不可欠な課題であった。  
  多くの委員会はそれぞれ新鮮な立場から協会事業の活性化を試み、これが協会事業の発展につながっていった。

<神奈川県立図書館 池田 政弘>

*「神図協小史点描」掲載号一覧 (シリーズ番号-掲載号数) (1)-166 (2)-167 (3)-168 (4)-170 (5)-171 (6)-172 (7)-174 (8)-175 (9)-176 (10)-179 (11)-180 (12)-183 (13)-184 (14)-185 (15)-189 (16)-192 (17)-193 (18)-194 (19)-197 (20)-198 (21)-205

(更新:2012年3月26日 15時37分)