協会報(~239号)

図書館の評価(指標と分析)

2012年3月15日 15時13分 [管理者]
神図協職員研修会報告
●図書館の評価(指標と分析)


 
「評価」の必要性・重要性が広く認識されつつある。多様化する利用者ニーズに対応し、サービスを改善・向上させる機会(戦略)として「評価」を捉え、積極的に活用していきたい。本稿では、図書館の評価(指標)に関する基本的な事柄について、最近の動向を踏まえて、整理、確認する[1]

《評価の定義と要件》  
  「評価」とは、サービスの実施結果(達成状況)に対する「価値判断(査定)」のことであり、①サービス計画・実施の改善のために、②目標や基 準に照らして、③測定結果(データ)に基づいて 行われるものである[2]。①については、「Plan(計画)→Do(実施)→Check(評価)→Action(改善)」という「マネジメントサイクル」のなかで評価をとらえ、「評価のための評価」ではなく「改善のための評価」とすべきことを確認しておきたい。  
  ②において、価値判断の基準(比較対照)とし ては、「計画」段階で定めた目標(値)のほか、 他図書館の状況(同規模の館や先進的な館の平均 値など)や「望ましい基準」などの基準、過去の 実績(経年変化)などが用いられる。③のデータ (測定結果)としては、いわゆる業務統計(図書 館統計)のほか、アンケート・インタビュー(調 査)や実測・実験によるものなどがある。

《評価の指標(統計)》  
  評価のための「指標」について、特に統計的な ものに焦点を当ててみておこう。まず、指標の位 置づけをマネジメントサイクルに沿って確認して おきたい。「計画」段階においては、組織(図書 館)の存在理由である「使命」を踏まえたうえで、 使命を具体化した「目的」が確認される。目的に 基づき、サービス(業務)によって一定期間に達 成が期待される最終成果である「目標」が設定さ れる。目標達成の程度を表現するのが「指標」で ある。  
  指標には、インプット指標、アウトプット指標、 アウトカム指標という三つの種類がある[3]。これ は、「実施」段階において、予算や人員などの資 源を示す「インプット(投入)」、組織(図書館) が提供するサービスを示す「アウトプット(算出)」、 アウトプットを利用者(顧客)側の便益や満足で 捉えた「アウトカム(成果)」という「流れ」が あることを踏まえたものである。  
  『日本の図書館』(JLA)の項目を参考に、イン プット指標の例を挙げると、「延床面積」「奉仕 人口」「職員数」「蔵書冊数」「年間受入図書冊 数」「年間雑誌購入種数」「資料費」などがある。 アウトプット指標としては、「年間貸出冊数」「登 録者数」「年間予約件数」などがある。また、例 えば、「貸出サービス」に関する指標としては、 「登録者数」「年間貸出冊数」などがあるが、指 標(項目)を組み合わせることによって、「登録 率」「貸出密度」「実質貸出密度」「蔵書回転率」 などの指標を導くことができる。なお、統計的な 指標を扱う際には、「数字」の意味、すなわち集 計の対象や方法、内訳などに注意したい。  
  今後は、次のような視点を意識した指標の重要 性がさらに増してこよう。①コスト(「経済性」 「効率性」「有効性」等の指標など)、②利用者 (セグメントごとの指標や利用者満足度等のアウ トカム指標など)、③時間(中・長期的な評価な ど)、④質的(定性的)評価(後述する「LibQUAL+」 などが参考になる)、⑤図書館ごとの固有の状況 ・条件(館種、設置母体、規模、立地など)。

《評価をめぐる動向(指標の実際)》  
  以下、主に公共図書館を念頭に置きながら、図 書館の評価をめぐる最近の動向について、特に「指 標」に関する部分を中心にみておこう。まず、「公 立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」(文 科省告示、2001)では、図書館がサービスについ て適切な「指標」を選定し、指標に係る「数値目 標」を設定したうえで、達成状況等の自己点検・ 評価を行うこととしている。告示のもととなった 生涯学習審議会図書館専門委員会の報告(文部省、 2000)には、「参考資料」として、「蔵書冊数」 「開架冊数」「年間購入雑誌点数」「貸出冊数」 「登録者数」「来館者数・来館回数」「レファレ ンス質問件数」「利用者満足度」などが「指標例」 として挙げられおり、実際の数値例(『日本の図 書館 1999』において貸出密度上位10%の図書館の 平均値)として、「延床面積」「蔵書冊数」「開 架冊数」「職員数」などの具体的データ(数値) も掲載されているので、各図書館(自治体)が「参 考」にできる。  
  「図書館パフォーマンス指標」(JIS X0812)に も目を向けておきたい。ここで挙げられている指 標(手法)は、従来の業務統計に留まらず、①「割 合」「単位当り」「時間」など、数値を組み合わ せて算出する、②「標本」を用いる、③業務のな かで、あるいは調査(アンケートなど)や実験・ 試験によってデータを収集する(利用者の協力)、 といった特徴を持っており[4]、アウトプット指標 (利用者満足度)、コストを意識した指標(利用 者当り費用など)を含むなど、今後の評価(指標) の在り方を考えるうえで大いに参考になろう。  
  ほかにも、米国研究図書館協会の「LibQUAL+」 (サービスの「品質」を「期待」と「実際」の差 で表現する「SERVQUAL」という手法を図書館向け に改良したもの)などにも目を向けておきたい。 また、サービスごとの評価(指標)にあたっても、 「たたき台」を利用することが考えられる。例え ば、「指導サービス(利用者教育)」については、 『図書館利用教育ガイドライン』(JLA、1998-99) などがある。  
  ここで、「望ましい基準」策定の参考にするた めに、文部省から委嘱されてJLAが実施した「図書 館活動についての調査」について紹介しておきた い[5]。「調査」では、まず『日本の図書館 1998』 のデータを使い、「貸出密度」と他の指標との相 関を分析した[6]。貸出密度と相関の強い指標は、 「購入雑誌種数」「購入図書冊数」「蔵書冊数」 「職員数」「資料費」などであった。逆に、相関 の弱い指標は、「年間開館日数」「週開館時間数」 などであった。  
  この結果を踏まえ、「調査」では、「延床面積」 「資料費」「蔵書冊数」「職員数」について、貸 出密度が「想定より高い」図書館と「低い」図書 館各20館(計480館)にアンケート(郵送)調査 (1999年10月)を実施し、『日本の図書館』にあ る項目(指標)では計れない要因を探った。「想 定より高い」図書館の回答から、「予約・リクエ ストへの対応」「他自治体住民の利用」「視聴覚 資料の充実」「レファレンスカウンターの設置」 「館長が図書館出身」などの要因が「貸出密度」 に好影響を与えていると推測された[6]。  

 今後、「評価(指標)」をめぐる手法・手順な どの開発・研究や標準化が進められるとともに、 実践が積み重ねられ、その結果(データ)やノウ ハウが公開、共有されていくことが期待されよう。 あわせて、評価に関して図書館職員に求められる 知識・技能が体系化され、養成や研修において積 極的に取り入れられることが必要であろう[7]

注・引用文献

[1] 本稿は、平成15年12月9日に実施された神奈 川県図書館協会第7回研修の講演内容(要旨)を まとめたものである。なお、講演は、主に次の文 献の内容に沿っている。野末俊比古「図書館サー ビスの評価と指標:意義・動向・展望」『図書館 雑誌』96(11), 2002, p.864-6.

[2] 糸賀雅児「6.4 サービスの測定と評価」『図 書館情報学ハンドブック』丸善,1999, p.693-8.

[3] これに「プロセス指標」を加えることもある。 なお、「サービス(業務)」の捉え方などによっ て、同じ指標が「インプット」になったり、「ア ウトプット」になったりする場合もある。

[4] 戸田あきら「図書館の働きを測る:ISO11620 図書館パフォーマンス指標の解説」『現代の図書 館』38(1), 2000, p.26-30.

[5] JLA事務局『公立図書館の設置及び運営に関 する基準(図書館政策資料VIII)』JLA,2000.

[6] 「貸出」以外のサービスも重要であり、「評 価」の対象となるべきであるが、『日本の図書館』 の項目には、適当なアウトプット指標がほかに見 あたらないため、「調査」では「貸出密度」を用 いている。

[7] 「評価」に関する参考文献を挙げておく。最近の雑誌特集としては、次のものがある。「特集:評価/経営する図書館へ向けて」『現代の図書館』41(1), 2003;「特集:図書館とサービス評価」『図書館雑誌』96(11), 2002; 「特集:図書館パフォーマンス指標と経営評価の国際動向」『現代の図書館』40(3), 2002; 「特集:図書館の統計と評価」『情報の科学と技術』51(6), 2001; 「特集:自己評価の方法」『現代の図書館』38(1), 2000;「特集:図書館の統計と規格」『現代の図書館』36(3), 1998。図書(単行書)としては、次のものがある。米国行政学会・行政経営センター著『行政評価の世界標準モデル』東京法令出版,2001;日本図書館情報学会研究委員会編『図書館の経営評価:パフォーマンス指標による新たな図書館評価の可能性』勉誠出版,2003; F.W.ランカスター『図書館サービスの評価』丸善,1991; 森耕一編『図書館サービスの測定と評価』JLA, 1985;Hernon, P. et al.『図書館の評価を高める:顧客満足とサービス品質』丸善,2002。

<青山学院大学文学部助教授 野末 俊比古>