協会報(~239号)

視覚に障害がある方のために デジタル時代の情報提供

2012年3月23日 10時08分 [管理者]
特集:「国民読書年」から次の一歩へ

視覚に障害がある方のために デジタル時代の情報提供 
 

(神奈川県ライトセンター)


 神奈川県ライトセンターの特色は、貸出用の活字資料を所蔵していないことにある。当センターは点字図書館(視覚障害者情報提供施設)であり、貸出用資料は、点字と録音による図書・雑誌等で、活字資料は点字・録音資料を作成する際の原本に過ぎない。点字・録音資料の製作には多大な労力を要するため、重複製作を極力避け、相互貸借により有効活用を図ることが、点字図書館の標準的な対応となっている。言い方を変えると、今や全国の視覚障害者情報提供施設との連携なくしては、図書の貸出等は成り立たない現状にある。その結果として、当センターにおいては図書総貸出数の半数以上を相互貸借により借用した図書で占める。
 さて、視覚障害者への情報提供は、デジタルを避けて通れない時代となってきている。本年で日本点字が制定されて120年となるが、全国を結ぶ点字情報ネットワークシステム「てんやく広場」には1988年の発足当初から参加し、点字のデジタル化(パソコン点訳)に取り組んできた。点訳のスタイルは、手打ち点訳からパソコン点訳に移行し、全国に1冊しかない貴重な点字図書は複製が容易となった。なお、パソコン通信としてスタートした「てんやく広場」は、後に「ないーぶネット」と名称を変えインターネット化された。さらに、「ないーぶネット」は本年4月に稼働した視覚障害者情報総合ネットワーク「サピエ」にその役割を引き継いだ。「サピエ」は、国の平成21年度補正予算を受けて構築され、新たに音声データの配信、地域生活情報、テキストデイジー(電子書籍)の配信など、文字通り総合ネットワークとして、当センターでは不可欠な存在となっている。
 録音資料においてもアナログからデジタルへの移行が進んでおり、10年ほど前から「デイジー」と呼ばれるCDの貸出・製作に取り組み、現在では新規製作図書・雑誌の全てをデジタルで製作するに至っている。ちなみに、平成21年度の録音図書貸出においては、カセットテープ19%に対してCDは81%を占め、デジタルの利用が急速に進んでいることが分かる。視覚障害者の読書は、現物による貸借から「サピエ」を活用したデータ利用に移行しつつあるが、今後の課題は、いかに利用者の情報格差を軽減するかである。

(神奈川県ライトセンター 姉崎 久志)