協会報(~239号)

電子書籍の個人的な読書体験

2012年3月23日 10時12分 [管理者]
特集:「国民読書年」から次の一歩へ

電子書籍の個人的な読書体験  


 本格的な普及を見据えて、出版業界を中心に調整が続けられている電子書籍。話題先行の現状で、図書館の対応を語るには具体性に乏しく、当館としても何か取り組みや準備をしているわけではありません。この場はあくまでも個人的な体験として、Amazon.com社で購入したKindleでの読書体験を紹介したいと思います。
 さて、ご存知の方も多いと思いますが、Kindleは電子ペーパーと呼ばれるディスプレイを使った製品です。パソコンなどの液晶と違って、画面を見続けていても目が疲れないのが特徴です。2010年10月現在、普及が先行している米のAmazonのサイトで購入できます。国内書籍のダウンロードはもちろん無理ですが、PDFファイルの日本語表示は可能です。そこで「青空文庫」のファイルをKindle用にPDF変換してくれるサイト(青空キンドル:http://a2k.aill.org/)があって、半年近く様々な作品を読んでみました。結果からいうと、私は“はまって”しまったようです。
 一般に、端末で本を読む行為には、紙の質感や物としての手ごたえの無さ、ページをめくる感覚の伴わないところ、などが欠点としてあげられます。ところが、実際に体験してみると、この実感がないという無感覚さが、逆に新たな読書体験を与えてくれると感じました。ディスプレイ上に浮かんでは消える文字にのみ意識が集中するため、どのような内容、時代の作品も同一の地平に現前します。リアルな紙の本(?)であれば、見た目の印象や習慣から、手に取ることがない作品でも、読み始めると案外その世界に入り込めます(青空文庫なので、古典的なものしか読めないからかもしれませんが)。「本」であることは、かえって読書体験の幅をせばめているのではないか、そんな印象も持ちました。
 もちろん、大量の情報を苦も無く持ち運べる点、通勤電車の中で、片手で楽に読める(持った手で、ページめくりのボタンを押せる)といった携帯性も大きな利点です。それに、使い慣れてくると、これは本を読むための機械というよりは、機械でできたスタイリッシュなブックカバーなのではないか…。だんだん宣伝めいた感想にエスカレートしそうなので、このあたりでやめておきます。
 携帯電話のように、人とコミュニケートする機能が主ではないので、誰もが手にするほど普及はしないかもしれません。それゆえにというか、新たな読書体験に多くの人を導く機会と捉えれば、何か面白そうなサービス展開ができるような気がします。

(神奈川県立川崎図書館 森谷 芳浩)

(更新:2012年3月29日 11時55分)