○報告
フォーラムは2部構成とし、1部は横浜市立山内中学校図書委員会の事例発表、
2部は作家の古内一絵氏の講演「ヤングアダルト世代の皆さんのご質問にお答えして プラス 十代のうちに経験しておいてよかったいくつかの事柄」が行われた。
○第1部事例発表(概要)
横浜市立山内中学校図書委員会の読書活動に関する報告
横浜市立山内中学校図書委員会
学校司書 山内 菜穂子 氏
令和4年度子どもの読書活動優秀実践校として文部科学大臣賞を受賞した横浜市立山内中学校の読書活動に関する報告があった。
活動の内容は生徒たちが作成した動画にまとめられており、図書委員が中心となって、様々な活動を積極的に行っている様子が伝えられた。校内での活動としては廊下への図書の宣伝のポスター掲示、テーマを決めた本のポップの展示、先生や保護者、図書委員のおすすめの本をメッセージとともに展示するなど、生徒の読書意欲を引き出すような工夫がなされていた。また、図書館利用のマナー動画や文化祭での動画上映、図書委員や保護者による図書ボランティアによる読み聞かせの会なども行われている。毎朝、10分間の朝読も実施している。
校外での活動は地域の図書館との連携もあり、司書によるワークショップやビブリオバトル、読み聞かせの実践を交えた講演会のほか、図書委員による図書館でのティーンズコーナーの設置などが報告された。
図書委員は各クラス2名の選出で、活動に関しては基本的にやりたいものを自ら企画し実践している。学校内のみならず、地域の図書館や書店、保護者を始めとした地域の人等と積極的に関わりながら、楽しそうに活動をしているのが印象的であった。
なお、山内中学校の活動については令和4年12月10日付の朝日新聞朝刊にも取り上げられている。
<学校司書 山口菜穂子氏による質疑応答>
Q.図書委員は全体で何名くらいですか?分かれて班活動をされていますか?
A.1クラス2名ずつ、計34名で活動している。動画作成など、やりたいことを企画して人を集める形をとっている。
Q.POPの作成、ティーンズコーナーの展示、講習など、時間はどのように取っているのでしょうか?
A.基本的には放課後に活動している。ポップの作成は宿題でやってきてもらう。
〇第2部講演(概要)
「ヤングアダルト世代の皆さんのご質問にお答えして プラス 十代のうちに経験しておいてよかったいくつかの事柄」
古内 一絵 氏 (作家)
※古内氏の体調不良により、講演はリモート(Zoom)で行われた。
プロフィール
映画会社に20年間勤務。2011年、45歳の時に『フラダン』で賞を受賞して
から、『マカン・マラン』や、『風の向こうへ駆け抜けろ』などを書いた。
今年は書いたものがNHKでドラマ化や、ラジオ化されるなど、良い年になった。
Ⅰ.ヤングアダルト世代の皆様のご質問にお答えして
(中学生・高校生から事前募集した質問への回答)
中学生からの質問
Q.いつから作家を目指そうと思いましたか?
A.子どもの頃から本は好きで、小学生くらいから漠然とした憧れはあった。大学で
映画理論を選択していたので、作家になろうとは思っていなかった。映画会社
で働いていたときに作家に会うことが多く、40歳を過ぎてから子どもの頃からの
夢を追いたいと思った。会社で早期退職を募集していたこともあって目指すこと
にした。
Q.「この物語を書こう!」と思うきっかけはあるんですか?
A.デビューする前は書きたいもの、自分に近いものを書いていた。今は自分で書
きたいというものと、出版社から提案されるものと半分くらい。『風の向こうへ駆
け抜けろ』は「アメトーク」というバラエティ番組がきっかけになった。自分が乗馬
をしていたことと、競馬芸人というコーナーの話が結びついた。女性ジョッキー
はいるのかということを調べ、本を書くことになった。意外なところからきっかけ
は出てくる。
Q.夏休み中に物語を書こうと思って挑戦しましたが、最後まで書けませんでした。
古内先生は物語の結末まで決めてから書き始めますか?それとも結末は決め
ないで書き始めますか?
(書けなかった理由:書いているうちに好きな作家の書き方に寄っていってしまう。
表現したいことが思いつかない。面白くしようとして悩むうちに混乱してしまう。)
A.プロになる前は自由に書くのが一番良い。
趣味で書いているうちは最後まで書かなかった。途中で飽きてしまうことがあ る。書きたいことしか書かないので、その部分を書いてしまうとそれで終わってしまう。趣味のうちはこれで良いと思う。好きな作家に寄ってしまうことはよくあることで、それは悪いことではない。
色々な書き方ができるので、いろいろ試してみるといい。面白くしようとするの
はプロ意識で、デビューするとこのようなことで悩む。
ラストは考えに考え抜いて書く。書いているうちに内容が変わっていってしまい、登場人物が、自分が考えるラストでないところに勝手に行くこともあるので、その時は登場人物に任せる。
Q.中学校時代から国語の成績はよかったですか?
A.他の科目に比べるとよかった。文系か理系かといわれると文系というくらい。古
文は苦手だった。
Q.作文や読書感想文などは中学校時代から得意でしたか?
A.そこそこ得意だったと思う。だが、大きな賞をとるといったことはなかった。「フラ
ダン」が 課題図書になったときに授賞式に出たことがあるが、感想文等でそう
いった賞をとった経験はない。
Q.「大人は子どもの気持ちなんかわかんない!」と毎日思ってしまいます。ですが、
先生は私たちの気持ちを小説に書きます。大人なのにどうして私たちの気持ち
がわかるんですか?
A.子どもの気持ちはわからないと思っていたが、少年少女を主人公にした小説が
書けたときに、10代の頃の気持ちが残っているのがわかった。10代のことも 書けるし、40代のことも書ける。悪役の先生の気持ちも子どもの気持ちもリアルに書くことができた。大人になっても子どもの頃の気持ちは残っている。今は質問のような気持ちを大切にしてほしい。大人のことを理解する必要はない。
高校生からの質問
Q. 「マカン・マラン」では様々な立場の悩みや苦労を抱えた人物が登場しますが、
そのアイディアはどうやって考えていますか。
A. この話は映画会社で働いていた時代の自分に向けて書いたもの。22時に会
社を出られればいい時代で、その時間に終わるとご飯を食べる店がなかった。
遅い時間でも体にやさしいご飯を出す店があるとどんなに良いかと思った。こ
れが思った以上にヒットし、同じように考えている人が多いことがわかった。そ
れで続編を勧められ、4部作となった。シリーズになってからは編集の人と色々
な人に取材をして書いた。
Q.書きたいことと書いていることが一致していますか。読者に伝えるために気を付
けている言葉の選び方などあれば知りたいです。
A. 幸いにも今出版されているものについては一致している。「こういったことを書
かないで」と言われると、「こういう理由で書きたい」と説得するのはかなりのス
トレスになる。言葉の選び方については常に考えていて、大体は編集の人か
ら指摘されて直すことが多く、ひとりよがりで伝わらない表現だということがわかったりする。エンターテインメントを書くので、わかりやすさは考えて書く。ただし、個性を消してしまう書き方はしないほうがいい。
Q. 自分も小説を書くが、書けるときと書けないときがあります。書けないときのモ
チベーションの上げ方が知りたいです。
A. 書けないときは書けない理由があると思っていて、その場から少し離れるよう
にしている。ずっとパソコンの前に座っているのもよくないので、資料を読んだ
り、取材をしたりしている。例えば、海のシーンが書きたいときは海に行って、実際に風を感じたり、においを感じたりする。そうすると、何が足りなかったのかがわかることがある。そうやって書けない理由を探りにいく。足りないものがわかれば、また書けるようになる。自分もまだ模索中である。
Ⅱ.十代のうちに経験しておいてよかったいくつかの事柄
古内氏が十代の頃に経験しておいてよかったことを3つ紹介された。
① 何か一つ、スポーツをマスターする。
新しい環境に飛び込んでいくとき、言語を超えて、世界共通の特技があると安心。
スポーツがだめなら、音楽でも良いかもしれない。海外で交流のきっかけとして、
必ず役に立つ。
② 短期留学
当時、中国の短期留学は割と安かった。自分でアルバイトして貯めたお金で、高
くなく、安全なところを探していけると良い。昼間は語学研修に行き、夜は友達と
ご飯を食べに行ったりした。教室で、アメリカ人の男の子たちと好きな食べ物の話
をしていて、「君は見たことないかもしれないけれど、ピザというものが大好きなん
だ」と言われた。私がピザを知らないと思われていることに驚愕した。カルチャー
ショックがたくさんあり、相手のことをわかっているつもりでも何もわかっていない
のかもしれないと考えるきっかけとなった。海外へ行くことは、自分の国を知る良
い機会にもなる。
③ 中学英語に慣れ親しむ
ボスニア映画の宣伝の時は、共通言語が英語だったので、英語しか通じなかっ
た。中学で習う英語が分かれば、とても役立つ。そのため、今でも、英語のカラオ
ケみたいなNHKの「英会話タイムトライアル」を聞くようにしている。
作家になるためにやっておいてよかったことは、会社員を20年間経験したこと。
色々な人やものを見る機会があった。会社という形も見た。それらの経験は今の
私にすべて役立っている。みなさんにも、これだけ、と思わずに過ごしてほしい。
Ⅲ.ヤングアダルトの皆様にお薦めしたい4冊
① 『やさしい猫』(中島京子/著 中央公論新社)
入管行政、人権などの重いテーマにもかかわらず、優しく温かく読みやすく書か
れている。
② 『こんぱるいろ、彼方』(椰月美智子/著 小学館)
紀行文としても楽しめ、ベトナム戦争、ボートピープルという重いテーマを優しく明
るく描いている。
③ 『ある晴れた夏の朝』(小手毬るい/著 偕成社)
アメリカの高校生が、原爆の是非についてディベートする。アメリカに30年住み、
色々な人種の人と暮らしているからこそ書けるリアルさがある。
④ 『鐘を鳴らす子どもたち』(古内一絵/著 小峰書店)
戦後日本を象徴する大ヒットドラマ「鐘の鳴る丘」をモチーフに、取材経験を活かして書いている。
Ⅳ.質疑・応答
Q.作品執筆時に取材をされたとのことですが、「インタビュー」にも技術が必要だと思
います。古内先生もインタビューのテクニックを学ばれたのでしょうか。相手のお
話を聞く際、気をつけていることがあればお教えいただけましたら幸いです。また、
取材されたことを作品に反映される際、気をつけていることがあればお聞かせく
ださい。
A. 事前に聞く内容を箇条書きにしたものを相手に投げておくようにしている。幸い今
までのインタビューはとても率直に話してくださる方が多かったので、とても恵ま
れていた。聞いた内容が面白くなると全部書きたくなるのだが、そうすると物話が
そちらに引っ張られて進まなくなるため、泣く泣く削ることがある。
Q.小3です。作家になりたいのですが、将来どうしたら作家になれますか?
A.小学校3年生であれば、たくさん本を読むこと。子どものときに読んだものは力に
なる。また、書きたいことをどんどん書くこと。今はそれで十分だと思うが、中学生、
高校生になったら雑誌などに投稿してみるのも良い。自分も投稿をして作家になっている。ネットでの投稿については詳しい方に聞いてみてほしい。
<フォーラム終了後の追加回答>
時間の都合上、講演中にチャットでお寄せいただいたご質問を全て取り上げるこ
とが出来なかったため、古内氏から追加で回答いただいた。
Q.著作『風の向こうへ駆け抜けろ』『蒼のファンファーレ』は競馬をテーマとした中
学生、高校生からも読める小説で、地域柄牧場の子どもも多いということもあり、
中学校の学校図書室にも所蔵しています。今後、また競馬を題材とする小説を
書かれる予定はありますか?
A.「風駆け」シリーズにご注目頂き、ありがとうございます。来年より、競馬雑誌「優
駿」で、「風駆け」シリーズ第三弾「灼熱のメイダン」の連載が始まる予定です。
とは言え、まだプロットもできていないのですが…。一年間の連載の予定です
ので、機会があれば、ご高覧頂ければ幸いです。来年1月には、NHK-FMの
「青春アドベンチャー」で、「風駆け」ラジオドラマの再放送もありますので、ぜひ、
瑞穂とフィッシュアイズとの再会を楽しんでください。
Q.マカン・マランが大好きなのですが、シャールさんという人物を作るにあたって参
考にした人物などはいらっしゃいますか?
A.「マカン・マラン」シリーズにご注目頂き、ありがとうございます。シャールさんに
特別なモデルはいないのですが、会社員時代、私がお世話になった人たちが
ヒントになっている気がします。若いとき、私はかなり無鉄砲で、振り返るとたくさん失礼なことをしてきてしまったと思うのですが、それを笑って許して下さった方々です。自分がしてもらったことを伝えたくて、シャールさんが生まれた気がします。
以上